―古(いにしえ)に神が渡り、栄えし意宇(おう)の里―
深まりゆく秋というべきでしょぅか、それとも包みつつある冬というべきでしょうか、そんな季節の潮目、穏やかな日に、そう島根は「神在月」のさいちゅうでした。私は、松江市大庭にある「かんべの里」をお訪ねしました。「風土記の丘」に隣接しています。
お訪ねした目的は、このサイト『島根国』に連載をお願いしている「山陰地方の昔話」の作者・酒井董美さんとかんべの里の皆様にお礼をお伝えするためです。それと後日、『島根国』で動画配信とテキスト原稿で紹介します「心に残る島根の風景」の撮影と取材です。こちらの掲載もお楽しみに。
松江駅からバスで40分。郊外の変わらぬ風景の前に、突然、現れた田園風景と小高い丘。「お客さん、ここだよ」。ご丁寧に、バスの運転手さんがお声掛けしてくれました。
撮影機材にパソコンと書籍、それと防寒着に筆記類。わずかな坂道に息が上がっています。昨夜、赤貝の煮つけとおでんに、ついつい盃を重ねた松江のお酒のせいでしょうか。それとも絶対に認めたくない歳の関係かも?
開館前に着いた私は、機材の詰まったリックサックをおろすと暫しストレッチと深呼吸。
紅葉したイチョウの木の息吹が聞こえてきそうです。また、稲刈りの終わった田んぼを包むように紅葉した木々が囁いているようです。まるで風とすれ合う響きがひとつとなって身体に染み渡るようです。
「出雲かんべの里」は、工芸館、民話館、自然の森で構成されています。
・物語が飛び交う民芸館
酒井董美さんと民芸館の前でお会いしました。
民芸館ではいろいろな形の昔話に出会うことが出来ます。この日も幼稚園児の団体が大型バスでやってきました。まるで山の中の古民家の庭を、列をつくって賑やかに進むアヒルの雛たちです。活き活きし、未来のある行進です。
酒井董美さんに「出雲かんべの里」の館長・錦織(にしこり)明さん(※)を紹介して頂きました。錦織明さんの前の館長が酒井董美さんです。錦織明さんは、館長であるとともに街頭紙芝居屋さんで、この日も幼稚園児の皆様に「足をかまれたコトシロヌシ」の紙芝居を話されました。園児たちの笑いと歓声が外にいる私たちにも届きます。そんな穏やかな歓声が山の草木に、まるで蜘蛛の糸のように掛かり、そして静かにとけていきます。
※ 「錦織」には幾つかの読み方があります。ご注意を。
囲炉裏ばたでは、語り部の皆様が生の声で出雲地方の民話や昔話を聞かせてくれます。この日も民芸館のご厚意で、私一人だけに細田多美子さんに語って頂きました。
酒井董美さんの収録された昔話は、明治大正に生まれた皆様の出雲地方・石見地方・隠岐地方の方言で、それ自体に民衆の味や生活観を感じる貴重な歴史遺産です。細田多美子さんは、今風の出雲弁となって、穏やかな語り口から心に残る昔話です
それ以外に、立体映像で小泉八雲の「耳なし芳一」を上映しています。また、古事記に登場する『出雲神話』や小泉八雲の物語、弁慶伝説(※)、山陰の昔話などをスライドやパネルで紹介しています。
旅で出かけられた折には、是非、お出かけください。
※弁慶伝説は、当サイト『島根国』の「歴史と人物」の弁慶を是非ご一読ください。
・自然と語り「創る」工芸館
工芸館では、松江藩籐細工、木工、機織り(安来織)、陶芸などの製作過程が見学できます。また事前予約をすれば体験も可能です。この日は機織りを見学させて頂きました。
トントン、トントン。『鶴の恩返し』でしょうか。私は木下順二戯曲『夕鶴』を思いだしました。「つう」の青ざめた(照明によるのでしょう)、悲し気な顔が今も消えることはありません。
「いろは舎」では、松江の作家の皆様の工芸品を販売しています。是非お立ち寄りください。
・自然の森
二つの建物の周りは、約18haの広大な里山「自然の森」が広がっています。コナラやアカマツ、ツツジ、ヤマザクラなど。雨乞池周辺には「オオエトンホ」という珍しい昆虫が生息しています。また、蝮谷池から谷奥のあやめ池までの細い谷間周辺には沢山の水生植物とともに昆虫がいます。
「出雲かんべの里」では、レンタサイクルも行っています。周辺は意宇(おう)郷と呼ばれ、歴史文化に恵まれた土地です。遺跡や史跡・古墳、社寺などが数多く点在しています。
さてこのあたりの紹介は、「心に残る島根の風景」にてたっぷり動画と原稿で紹介します。私もレンタサイクルで意宇郷を回り、動画撮影をしました。そして神魂神社から八重垣神社まで小山をレンタサイクルで走りました。
電動自転車、一日五百円です(詳細はお尋ねください)。
■概要 かんべの里 所在地 島根県松江市大庭町1614 電話番号 0852-28-0040 定休日 民話館・工芸館毎週火曜日(祝日の場合は翌日休館) 年末年始12/29~ Webサイト http://www.kanbenosato.com/ ※詳細は、直接お問い合わせしてください。