収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 安部イトさん( 明治27年生)
(昭和45年4月26日収録)
昔。布部の飯島の大きな家には、手代や番頭がたくさんおった。
正月一日には、よい夢を見れば一年中よいことがあるという。一人の手代がよい夢を見た。聞かせと言うが、縁起が悪くなるから黙っていたら、家をさ追い出された。
しかたなく、大阪の方へでも行こうかと歩いていたら、男がおって、賽を投げては、「大阪が見える。京都が見える。東京が見える」と喜んでいる。その男は、「話を聞かせりゃあ、この賽をやる」と言ったので、手代はそこでは夢の話をして、その賽をもらい、いくら投げても、大阪や京都が見えない。、「見えん」と言ったら、男は、「いや、おまえが慣れんけえだ。もっと投げちょりゃ、また見えぇやになる」と答えたげな。
手代が男と別れて、「大阪が見える。京都が見える」と言いながら歩いて行ったら、ある者が、「おらに譲ってごしぇ。その代わり、この『生き棒死に棒』をやる。これは死にかけたもんを撫でると元気になる。それにこの棒で尻をたたくと、行きたいとこへ行けるから替えっこしょう」と言うので、「替えっこしちゃあわ」と手代は替えたそうです。
手代は「京都へ行きたい」とその棒で尻をたたいたら、道中で馬が病気していて大勢で介抱してしているが、「この馬はいけん」と言っているので、「馬を診てあげえわ」と手代が、棒で一生懸命でその馬を撫でていたら、馬が元気になったので、みんなが喜んだげな。
手代は、「大阪へ行きたい」と棒で尻をたたいて大阪へ行ったそうな。
そのころ大阪には「朝日長者」と「夕日長者」という長者が二軒あった。夕日長者のお嬢さんが病気で、手を尽くしてもとても助かりそうにない。手代が、「診せてもらえないか」と出かけ、屏風を立てて見られないように棒でお嬢さんを撫でていたら、お嬢さんが「ハーッ」と息をし、元気になられたげな。
そうしたら、隣の朝日長者のお嬢さんも病気になって、手代はそこへも御典役として迎えられたので、棒で撫でたら、そのお嬢さんも元気になられた。両方の長者から、「娘の婿になってもらいたい」と言われたものの、「二軒の婿になれんが」と答えたけれども、また両方で相談し合って、「それなら下で十五日、上で十五日と婿になってもらおう。そうして、両方の家の間に橋を掛けよう」となり、「こわれぬように金の橋を掛けよう」と金の橋が掛かったげな。
そのことが田植え歌になってね、
〽婿さんがござる道に 板の橋を掛きょうか(音頭)
〽アラ 板の橋ゃどろどろめいで 金(かね)の橋を(早乙女)
というふうにつけるものだと。その謂れがこの話なんだげな。
それで初夢に手代が見たのは、二軒の長者の婿になる夢だったのだげな。昔こっぽし。
関敬吾『日本昔話大成』では、本格昔話「5運命と致福」の中に「156 夢見小僧」として登録されています。
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