収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 渡辺松市さん( 明治28年生)
(昭和50年11月28日収録)
昔、人が木樵りに行きておったに、がぁいな大雪になって道が分からんやぁなって、そんときに熊が出てきて、その熊がなぁ蟻をこげして(こういうふうに)拾ってよう手にすり込みすり込みして、そっからまた蟻をけ、何すっかと思や、こがこがこがけ、何ててそがしておる熊がおっただわ。
大雪に困っとったに、熊が踏んで道つけて、わが穴ん中連れて行きたちゅう。そぉから、行きたら、わが側に寄せて熊は力があっけん、殺すだども、熊ちゅうもんは、「そがんことすっもんだねえ」とか何とか言って話す。
いい加減なっと手をこう握る。口のとけへ。なめてごせちゅうことだらわの、その手を。蟻をすり込んだやつ、そがして一週間も熊の穴倉におったに、ま、雪がちいと溶けて、ほっから、ーいなあーと思って出かけたら、われ後からついて来て、そっから木樵りの男を送ったという話で、そらま、簡単なそうほどの話だ。
実にほのぼのとした心温まる話だ。
これまでの連載体裁を踏襲して「あらすじ」としたが、実際は語られたままを文字化した。関敬吾『日本昔話大成』にはない話型である。鶴の恩返しや蛙の恩返しのように、人が動物を助けて恩返しをされる話はあるが、熊に人が助けられる話は珍しい。
全国的に見ても珍しいスタイルの話が、どうして離島の海士町に残されていたのだろうか。理由はよくは分からないが、海士人のやさしさがこのような話を生み出したのかもしれない。石井正己氏(東京学芸大教授)によれば東北地方に類話があるとのことである。
今回も音声での提供も行っているが、お断りしたいことがある。これまでの連載の原話は出雲かんべの里のホームページからQRコードで開いたが、今回だけは、隠岐郡海士町の隠岐アイランズ・メデイア作成のユーチューブ登載のものを活用させていただいた。
筆者は昭和49年度から52年度にかけて隠岐島前高校に勤務し、海士町に暮らした。同校のクラブ活動で隠岐全域の口承文芸を収録していた。そのなかの海士町に関わる民話やわらべ歌などのいくつかを、平成22年3月から令和2年3月まで広報紙『広報海士』に連載した。まとめたものが、昨年、『海士町の民話と伝承歌』として今井出版から出版された。
この本に掲載されている話や歌をQRコードで開いて聴けるように、海士町当局と相談し、筆者が保存していた音源を提供してユーチューブ化し、ウエブサイトに登載。スマホなどを利用してQRコードを開けば、当時の音声が聴けるように公開した。今回はそれを活用した。
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