―出雲大社宇豆柱(うずばしら)・荒神谷遺跡・加茂岩倉遺跡-
見えているものが歴史のすべてではありません。その考えだけが正しいのでもありません。あなたの想像力と探求心、そして推理力と創造力を友に旅立ちましょう。
今回は、旅立つ前の深い知識の吸収はやめましょう。学校教育で予習復習を義務付けられた世代には、授業で感動することはありませんでした。だからでしょうか、楽しい授業は教科書にない面白い話をする先生の時間でした。それが科目に興味をもつ理由でもあったはずです。
予習をやめて、行った先で眺めることからはじめましょう。アート感覚による鑑賞の楽しみ方を紹介します。
出雲古代史の旅の始まりは、古代出雲歴史博物館からです(もちろん途中でも最後でもいいです)。ここで出土品を鑑賞することで自然の中の発掘現場が大きな意味をもち、あなたのイマジネーションを拡大します。まず絵を見るように鑑賞しましょう。そのときの喜びを大切にします。それから解説文を読みましょう。
もし古代出雲歴史博物館に展示される国宝の数々が(写真撮影OK)、出雲の地ではなく東京・上野の東京国立博物館に展示されていたらどうでしょうか。人口の圧倒的多数が住む首都圏の人たちや日本を訪れた外国人の方にとっては極めて便利でしょう。
人口が多いから、ニーズが高いから。でも、なんでもかんでも東京に集めてしまう、それでいいのでしょうか。それに「物」のだけの見学で十分でしょうか。わたしはそうは思いません。
地方にあってこそ意義あるものがあります。出土品と発掘現場を紐づけて鑑賞できることです。それがあなたの感性を刺激し、想像力を高めるのです。
古代出雲歴史博物館には、古代史を変えた荒神谷遺跡や加茂岩倉遺跡で発掘された国宝の銅剣・銅鐸、そして出雲大社の宇津柱がすべて展示されています。あなたの感性で体験してください。
凄いでしょう。旅先の博物館なんか時間の無駄、なんて思わず美術館のつもりで鑑賞してください。
五感と感性に焼き付けたら隣の出雲大社に向かいます。
参拝ですので、せめて二の鳥居まで戻り一礼して松並木を進みましょう。参拝の作法や順番は事前に確認してください。
水舎で清め、銅鳥居を抜けて拝殿で「二礼四拍手一礼」。拝殿に沿って御本殿の八足門に向かいます。
古代出雲歴史博物館で入り口のガラスケースにあった宇津柱を鑑賞したあなたは、気づくはずです、足元の大きな丸の印に。そうです博物館の中にあった推定48メートル(15階建てビル)の本殿の柱です。
2000年(平成12年)から翌年にかけての出雲大社境内遺跡から、出雲大社は高い建物であったことを立証する巨大な柱が発掘されたのです。杉の大木3本を1組にした直径が約3mの巨大な柱が3ヶ所にありました。古代出雲歴史博物館の入り口に展示されている「宇津柱」です。
古代出雲歴史博物館で見た社殿がここに建っていたのです。
見上げてみましょう。あなたの感性で空に築きあげましょう、「雲太・和二・京三」と言われた日本最大の木造建築を。「雲太」とは出雲大社のことで天禄元年(九七〇)の書物に残っています。
どんな日々だったのでしょうか。周りはからどう見えたのでしょう。どうやって材木を運び建てたのでしょう。あなた自身で疑問をつくり、考えてみましょう。解答などない、あなたの想像力です。大和との関係を考えるのも専門的な想像ですね。
さて、出雲大社を参拝し、発掘された柱跡で巨大な木造建築を想像したら、古代出雲歴史博物館で鑑賞した銅剣、銅鐸の出土した小さな山へと向かいます。
古代出雲歴史博物館は鑑賞して知るところ(学習も含む)。出土したところは、風景を眺めながら自然や当時の社会を感じて、想像するところです。
さて、ここで昼ご飯の御蕎麦を食べるか、日御碕まで行き海鮮や焼きイカを食べるかあなたの旅程次第です。
出雲大社から荒神谷遺跡に向かう途中に出雲弥生の森博物館があります。
随分寂しげな田畑を走ります。これが島根です。どこを見ても田畑か林か森か、わずかな人家しか見えません。これが島根の風景です。
荒神谷の地で出土した土器の破片を見て、何かありそうと研究者は思いました。『感』ですね。それは経験に裏付けされた想像力と好奇心。とはいえ、なかなか的中するものではありません。簡単なら徳川の埋蔵金などどんどん見つかるはずです。しかし「現実は小説よりも奇なり」。どえらいものが見つかったのです。
1983年(昭和58)のこと。土器の破片から100mほどのところから358本の銅剣が発掘されたのです。1985年には7mほど離れた土のなかから銅鐸6個、銅矛16本の大量の青銅器が出土しました。
と言っても発掘現場を観て、「えっ?!!」ですよね。古代出雲歴史博物館で壁面一杯の銅剣を見たあなたには、こんなに小さいのかとがっかりされるかも。
でもこれが現実ですね。鑑賞する所と想像する所の違いがここにあるのです。ここでもアート感覚で眺め、想像してください。
これで日本の古代史がひっくり返ったのです。これまで全国で発掘された銅剣の総本数は約三百本。それよりも多い銅剣か一箇所から一挙に出土したのです。どんな衝撃と意味があったのか、後ほどお話しします。私たちの考え方にも大きく影響をおよばしたのです。
新しく整備された見学コースを回り、銅剣出土後だけでなく周辺の雰囲気も観察しましょう。古代はどうだっただろうかと。
次は、古代ハスの池を、赤米の田んぼを散歩しましょう。あなたが出雲王朝の長となり、なぜ、どんな目的で、誰のために埋めたのか。また運搬人となり、この後どうなるか、なぜ埋めるのか、考えてみましょう。
最後に荒神谷博物館を見学して加茂岩倉遺跡に向かいます。
今度は工事人の『感』、「ポリバケツ、捨てたらあかん」です。
荒神谷遺跡が発掘されてから13年後の1996年(平成8)10月14日のことです。直線で約三キロのところからどえらいものが出土したのです。
農道を造るために重機を運転していた地元の男性が、捨てた土のなかに青い物があるのを発見しました。辺りにも似たようなものがあります。初め「ポリバケツかな?」と思ったそうです。ところが博物館で見た形に似ていることに気づくとすぐに県に連絡をしました。それが大量の銅鐸出土に繋がったのです。一カ所の出土39個は全国一です。
この発見、島根県人らしいエピソードだとは思いませんか?ポリバケツと思いながらも工事の手を止める、見覚えのある形から連想して連絡する。
疑問に思う、形から考える。それは荒神谷遺跡の出土の影響もあったのでしょうか、古代史と生きた島根の文化だと思います。
みなさん青いポリバケツを見に行きましょう。谷間を眺めましょう。
古代、人々は何を思い銅鐸を運び、埋めたのでしょう。そして、埋めた後、何を考えたのでしょう。二度と掘り出さなかったのはなぜ、あなたならどうしたのでしょうか。銅鐸に残された「✖」の意味は、なぜトンボなのか、鹿なのか。皆の想像力で話しあってください。
好奇心のあるところに物語は生まれます。旅する人には特に好奇心と疑問に思う心が大切です。眺めましょう。空想しましょう。空想するとあなたオリジナルの物語が浮かんできます。
ちょっとへりくつを、社会学者・マックスウェーバーの言葉です。
「学問上の『達成』は常に新しい『問題提出』を意味する。それは他の仕事によって『うち破られ』、時代遅れとなることを自ら欲するのである。学問に生きる者はこの事に甘んじなければならない」
地域ナショナリズムというか、学閥というか、この二大出土があるまでは、大和と北九州の二大文化圏が主流でした(私も日本史で学びました)。出雲はしょせん神話の世界、「未開の地だ」と。
ところが、この出土で出雲王朝説が浮上し、認めざるを得なくなったのです。その頃の雑誌や書籍を読むと面白いですよ。知識人は簡単には認めようとはしない。意地とプライドがあるのでしょう。それを科学というらしいです。可笑しなものですよね、今見えているものだけが歴史で事実なのだから。
そんななか、梅原猛氏は自説を否定して出雲大社に謝罪に出かけたのです。面白い先生でした。専門家の人たちは、梅原猛氏を文学のジャンルに置いています。でも、私たちはいろんなことを想像しましょう。それができないと出雲神話の世界を楽しむことはできません。あなたの旅物語は思い出に残らないでしょう。
出雲古代歴史博物館が学ぶ場所なら、発掘場所は感性で眺める空間です。既存の考えやこれまでの定説から飛び出して、いや、破壊して、感性を自由に解き放ちましょう。
日本のあちこちに王朝があってもいいのに、その頃は単一王朝にこだわったのです。今は複数王朝ですね。
この発掘は古代史の文化圏を変えたとともに、歴史に対する考え方も大きく変えたのです。今で言う「多様性」です。
いろいろな文化や社会がある。どれが優れているのではなく、また時の権力者が唯一絶対でもなく、いろいろな社会が、生活が存在した。それに人々の歴史があり、考えが生まれた。
あなたも眺めながら振返って見ましょう。
たとえば飛行機を使って島根に行くならば、こんなコースをお薦めします。
出雲空港―古代出雲歴史博物館・出雲大社-荒神谷遺跡―加茂岩倉遺跡―(玉造温泉か松江)
埋もれた古代史の旅を楽しみましょう。でも、一部、交通の便が悪いのが難点です。それも、「埋もれた出雲王朝」の所以です。
レンタカー使用なら問題はありません。ナビにお任せください。
地元の交通手段を使う方にご案内します。出雲空港から古代出雲歴史博物館と出雲大社には、直通のバスがあります。なければ直通の出雲市駅行きのバスで出雲市に出、出雲大社にバスで向かってください。出雲大社から荒神谷遺跡・加茂岩倉遺跡はタクシーでの移動をお奨めします。JR山陰本線の「荘原」駅の利用もありますが、小さな駅なのでタクシーの保証はありません。この地域については地元観光化課(出雲市、雲南市)か、日比谷シャンテ「島根館」で事前に情報を収集してください。
私たちは授業で習った知識に影響され、それにそった「ものの見方・考え方」をします。人のその場の行動の40%以上が「習慣」という説がありますが(『習慣の力』)、一度ついた思考は、それが偏見であろうとなかろうと否定し、消しさることは難しいものです。ところが学習した記憶は一日で70%忘れてしまう(エビングハウス錯視)。それほど身体にすりこまれた習慣は染付き、人は変われない。難しいことです。
これまでの見方・考え方から解放して、只、眺めてみることから(アート思考)古代を鑑賞しましょう。
この旅の中心は「アート思考で古代を鑑賞」です。
この発掘で古代の歴史は大きく変わりました。考古学学会のだれでもが従来の考え(大和・北九州二大説)を変えざるをえなくなったのです。ということは『出雲王朝』に光が当たったのです。
「だから」とお思いの方、「それで」と突っ込まれる方、あなたの身体と五感、そして想像という感性で『変わる』『変える』ということを考えてみましょう。
出雲の古代は、あなたを待っちょうよ。
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