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43.「地獄と極楽」隠岐郡海士町御波

収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 前田トメさん( 大正3年生)
(昭和51年7月11日収録)

あらすじ

 昔。和尚さんと小僧さんとおった。小僧は毎日、「南無阿弥陀仏」と唱えていた。

 ある日。小僧は和尚さんに、
「師匠さん。地獄、極楽を悟るように見せてごさんか」と言った。

 そうしたら和尚さんは、
「そうか、今日は地獄、極楽を見せてやっけんこっちへ来い」と小僧さんを連れて、遠い遠い野原のようなところへ行ったそうな。

 その野原にはテーブルや金銀の食器が並んでいて、ご馳走がたくさん並んでいる。やがて、どこからともなしに田舎風な者や人相の悪い者たちがやって来て、その食べ物を食べるのだそうな。その食べ方は長い長いものすごく長い棒の先に匙(さじ)が縛りつけてあったそうな。それを使わないと絶対に食べられないそうな。その人たちが一生懸命にその長い匙で食べようとするけれども、棒が長すぎて周りにこぼれてばかりで、一つも自分の口には入らない。

 小僧さんが熱心にそれを見ていると、和尚さんが、
「小僧や、これが地獄じゃで。さあ、次は極楽じゃ。まあ一つ、向こうへ行かぁ」。

 そこで向こうへ行ったところが、今度もまたテーブルに金銀の食器が並んでいた。今度来た人たちも同じように長い棒に匙がついたもので食べるようになっているそうな。

 ところがそこに来た人たちは、向こうのテーブルの食べ物を匙ですくって、向こうの人に食べさせる。 そこで向こうの人は口を開けて食べ、また、向こうの人はこちらの人にこちらのテーブルにある食べ物を匙ですくって、食べさせる。お互い思うとおりに何でも食べられる。

 しかし、自分の前の食べ物を自分ですくって自分で食べようとすると、とても難しい。

 和尚さんは小僧さんにこうして地獄と極楽を教えてあげたのだそうな。

 人間というものは、自分のことばかりしているのが一番つまらないことです。人のために尽くせば自分も救われるのですよ。

解説

 登場する主人公は、和尚さんと小僧さんである。

 二人を主題としたものでは、「鮎は剃刀」「指合図」「飴は毒」などの話がある。いずれも和尚さんが小僧さんの知恵に負けてしまう。

 ところが、ここでの話は反対で、和尚さんが主導権を握って小僧を導く話になっている。昔話の「和尚と小僧」譚の法則に添っていない。この逆転も隠れた面白さのひとつである。

 さて、この話は、同じ環境にありながら、片方では地獄となり、他方では極楽になる。自分のことだけを考えれば、結果は幸せにはならず、常に他の人に思いを巡らす広い心を持てば、自然と豊かで幸せになると表現している。

 祖先の人たちが子孫にそれとなく教える教訓話だ。

出雲かんべの里 民話の部屋 「地獄と極楽」

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