収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 阿部文四郎さん( 明治40年生)
(平成3年10月28日収録)
あるところにお母さんと兄弟が二人おったと。そいで弟は、東六という名だった。そいでまあ睦まじく百姓をしておったが、お母さんが突然、急死したと。それで東六に、
「東六や、お寺へ行きて和尚さんに拝んでもらわにゃいけんけん、おまえ行きて来いや」と言う。
「おら、行くだども、和尚さんててどんな格好をしとられえか」て。
「黒い着物着ちょうなはってすぐ分かあけん、その和尚さんが出なはったら、『うちの母が死にましたけん、すぐ来て拝んでください』て頼んで来いや」て。
「はいはい」と言って東六は一生懸命、お寺へ行きたと。玄関のところに、鴉が二羽止まっておった。で、
「これがその和尚さんだらか」と思って、「和尚さん、うちの母が死にましたけん、すぐ来て拝んでください」て言ったら、
「カアー、カアー」て言うたてて。
「かあじゃございません、母でございます。早く来てください」て言ったら、また、「カアー、カアー」言って飛んで逃げたので腹を立てて家へ帰ったと。あんちゃんは「東六や、和尚さん、すぐ来なはあか」て言うたら、「いや、
『カアカア』言うて、いっそ『来う』てて言わっしゃらん」
「そら和尚さんだねわなあ、玄関ひゃって、障子を開けて、和尚さんが出なはりゃ、そのこと言わにゃいけんが」「何だい知らんが、あんちゃんが黒い着物着ちょうけん、それで玄関のところの塀に止まっちょられたけん、そいでそげ言いたわ」て。
「こな、どげないならんの」て言うて、自分が行きて、今度は和尚さんに頼んでもどったと。
「そいじゃあ、和尚さんがおいでえけん、酒でも一杯出さんないけん」というので、「東六や、後ろの二階の酒樽に酒が入れてああけん、おまえ、尻をちゃんと持っちょってごせや、あんちゃんは上から下げえけんなあ」「おお、なんぼでも持っちょうけんなあ」言うて、今度、和尚さんがおいでるまでに兄貴が倉へ上がって、酒を下げたと。で、縄でいわえつけて、下げえのに、「いいか、東六や、尻持っちょれよ」「うん、せわない。持っちょうけん」「せわあないか」「せわあない」。それからそろそろそろそろいったら、ズドーンと落ちとる。
「こら、何のことだ。東六、おまえ、尻持っちょれんだねか。樽がめげたがな」手言ったら、
「あんちゃん、このごとくに、死ぬうほど尻持っておお」てて、自分の尻をつめって一生懸命に持っちょったと。
「やれやれ、おまえはことにならんのう」ちいやな話です。とうとう和尚さんにも酒は出されだったが、まあ結局、そういう弟がおって笑ったという話ですわ。
そればっかあ。
関敬吾『日本昔話大成』では、笑話の中の「愚か聟」に「法事の使い」としてこの話型が登録されている。各地で好んで語られたようである。
語り手の阿部文四郎さんの話では、子どもの頃、祖父から聞かされた話だとのことです。
スイッチバック大全: 日本の“折り返し停車場” 江上 英樹/栗原 景▼
明治の津和野人たち:幕末・維新を生き延びた小藩の物語 山岡 浩二▼
時代屋の女房 怪談篇 村松 友視▼
あの頃映画 「時代屋の女房」 [DVD] ▼
『砂の器』と木次線 村田 英治▼
砂の器 デジタルリマスター 2005 [DVD] ▼
砂の器(上)(新潮文庫) 松本 清張▼
フジテレビ開局60周年特別企画「砂の器」オリジナルサウンドトラック▼
出雲国風土記: 校訂・注釈編 島根県古代文化センター▼
小泉八雲 日本の面影 池田 雅之▼
ヘルンとセツ 田渕 久美子▼
かくも甘き果実 モニク・トゥルン (著), 吉田 恭子 (翻訳)▼
出雲人~新装版~ 藤岡 大拙▼
出雲弁談義 単行本(ソフトカバー)藤岡 大拙▼
楽しい出雲弁 だんだん考談 単行本(ソフトカバー)藤岡大拙/小林忠夫▼
人国記・新人国記 (岩波文庫 青 28-1)浅野 建二▼
QRコードで聴く島根の民話 酒井 董美▼
随想 令和あれこれ 酒井 董美▼
日本の未来は島根がつくる 田中 輝美▼
石見銀山ものがたり:島根の歴史小説(Audible) 板垣 衛武▼
出雲神話論 三浦 佑之▼
葬られた王朝―古代出雲の謎を解く 梅原 猛▼
島根駅旅 ─島根全駅+山口・広島・鳥取32駅▼
おとな旅プレミアム 出雲・松江 石見銀山・境港・鳥取 第4版▼
しじみ屋かわむら 島根県宍道湖産大和しじみ Mサイズ 1kg▼
神在月のこども スタンダード・エディション [DVD]▼
クレマチスの窓辺 [DVD]▼
RAILWAYS [レイルウェイズ] [DVD]▼
日本ドラマ VIVANT blu-ray 全10話 完全版 堺雅人/阿部寛 全10話を収録 2枚組▼