-文化自然や生活風物を捲る-
「津和野今昔~百景図を歩く~」津和野町(平成27年4月24日認定)。
問合せ:津和野町日本遺産センター
絵画展などに出かけると入り口の混雑を避け、空いているところまで進み鑑賞します。並ぶのも待つのも嫌な堪え性のない性格だからです。これは旅先の名所旧跡巡りでも同じ、とりあえず空いているところから鑑賞し、話題のところへと進むのです。
出来ないのが家族で出かけたディズニーランドでした。子供たちの好きな人気のアトラクションから並ばざるを得ないのです。でもここは、ストレスを感じない上手な演出が施されています。列が長くなると柵を操作して流れをつくり待っている感覚を失くすのです。そこに楽団やキャラクターのぬいぐるみがやってきます。「待つ」ことない『夢の国』です。
前置きが長くなりました。「津和野今昔~百景図を歩く~」も好きな名所旧跡を訪ねる仕組みです。まず印刷物の『津和野百景図』を見て見学候補地と町の観光マップと突き合わせ、貴方好みのコースを作りましょう。
殿町通りの「津和野日本遺産センター」に行けば、「津和野今昔~百景図を歩く~」簡易なマップも、全景図の展示物あります。案内ガイド付きのコースも企画されています(事前にご確認ください)。コンシェルジュの方のアドバイスを受けて、百景図めぐりを魅力ある散策にしましよう。書籍も販売されていますが、少し重いのでご自分の足とご相談し、帰りに購入するのも得策です。
小さな城下町・津和野、貴方の訪ねたいところから歩きはじめましょう。
日本遺産は、その地域のストーリーに与えられます。では、この『百景図』とは何かを初めに説明します。
『百景図』とは、幕末の津和野藩の名所、自然、伝統芸能、風俗、人情などを絵画百点にまとめたものです。これを使って、例えば戦後と現在の同じ場所を写真で比較した書籍のように変化を楽しみましょう。昔が『百景図』の絵で、今が訪ね歩く貴方の五感です。
描かれた範囲は津和野藩全域ですが、ほとんどは津和野城を中心に南北約3キロメートル、東西約1.5キロメートルに集中しています。
・『百景図』とは
思い出をカメラやビデオ(スマートフォン)で残す今と同じで、カメラもない時代は絵画や文章で残しました。自分のために、友人知人に知らせるために、そして体験やその地の文化風土を後世に残すために、時のツールを使いました。
津和野藩も絵師をかかえて四季折々の名所や風習・風俗を襖絵や額などに描かせてきました。
亀井家14代当主亀井茲常(明治17年1884生まれ)は、最後の藩主亀井茲監の業績をまとめるひとつに、藩の御数奇屋番であった栗本里治(1845-1926)に幕末の津和野を絵画に描くように指示しました。約4年の歳月をかけ100枚の絵を描き解説を加えたのが『津和野百景図』です。当然、これまでに描きとめた絵画やあらためて描いた沢山の絵画があったでしょう。描かれた人物は髷を結っていますので、佐幕か討幕か、尊王攘夷か開国かの幕末の時代です。
・森鷗外『ヰタ・セクスアリス』
森鷗外(1962年誕生、幕末)は著書『ヰタ・セクスアリス』の中で、自宅近所や藩校・養老館までの川沿いの通学路の風景や民俗を描いています。『百景図』が描かれた時代の出来事です。
ディスカバージャパンのアンノン族の頃より、旅雑誌に「鯉の泳ぐ町」として殿町通りが紹介されました。ところが『百景図』には恋の泳ぐ疎水は描かれていません。明治の初期まではなかったのです。こんなところにも対比の楽しみ方があります。
・誰が、誰のため
誰が百の素材を決めたのでしょうか(編集したのでしょうか)。依頼者の亀井茲常でしょうか、書き手の栗本里治でしょうか、それとも二人で、あるいは関係者で決めたのでしょうか。誰に見せるために選別したのでしょうか。亀井家に来た高貴な階層に、それとも津和野の庶民のためでしょうか。「なぜ」幕末の風情を残すことを考えたのでしょう。
「よきにはかられ」的な適当に描いて、絵柄の良いのを選ぶことはないでしょう。誰が誰のために、なぜ(なんのために)、なぜそこ(それ)を選択したのか、そこを考えることは『百景図』を見るうえで重要な分岐点になります。
既存の解説に頼らずに、考えてみる。でも、これは歴史推理が好き方への提案で、とりあえず幕末と今とを比較して楽しみましょう。
どんなところが描かれているのでしょうか。
・西周と鴎外の家から見える津和野城と青野山
親戚同士である西周と森鴎外の質素な旧家は、川を挟んで向かい合うように建っています。二人の家から見て西側に津和野城の石垣が、反対側に津和野の町のどこからも見ることのできる青野山が望めます。津和野城関係は11枚、青野山は3枚あります。また他の絵の借景にも描かれています。
二人の生き様に照らし合わせてみたらいかがでしょうか。幕末・明治初期の二人の夢を想像しましょう。
・「男はつらいよ・寅次郎恋やつれ」吉永小百合
二人の旧居から津和野川(錦川)沿いの道を、森鴎外の塾生気分で、また西周の塾長気分になって歩いてみましょう。今の学生や教官のような気分とは随分違うでしょう。日本のこれからを憂い、家族を食わせることを考え、己の意思をまっとうする。今の時代にはない意思です。
鯉やウグイの群れる川をすすむと鷺舞神事が奉納される弥栄神社、津和野大橋を渡り殿町通りに向かうと藩校養老館があります。太鼓橋の脇に生える巨大な松の木。『男はつらいよ・寅次郎恋やつれ』で、吉永小百合が務めていた図書館がかつての養老館(現在養老館として使用)で、二人が再会を喜び歌子の境遇を聞くのがこの川岸です。
・センターの二階で祭りの見学
上手く日程が合えばお祭りも見学してほしいところです。春ならば鷲原八幡宮の流鏑馬神事、夏ならば弥栄神社の鷺舞、お盆なら覆面を被り浴衣を着た人々が踊る盆踊り。伝統的な祭事も描かれています。それと里芋の芋煮会にアユの塩焼き。
津和野日本遺産センターの二階では、お祭りの映像が流され、関係の衣装が展示されています。『百景図』とともに見学されることをおすすめします。
・比べることを通して
『百景図』には誰かの何かの意思が働いています。そんな絵の中から、幕末の津和野の文化風俗を読み取り、人々の生活を想像する。それなりの知識か必要です。そこで参考になるのが比較することで基準を得ることです。幕末と今と比べることで、物の見方に気付くきっかけになると思います。
貴方の貴方による貴方のためのコースを計画して、メモ帳を持って津和野を散策しましょう。
津和野の町の建物を眺め、郊外の田畑の小径を歩き、津和野城や名所旧跡から眺め、『百景図』と見比べましょう。聞こえてくるはずです、水の流れる音に、軒下を畑や木々を抜けて来る風の音に、四季折々の光と翳に。
大きく息をしましょう、自然の醸し出す匂いや息吹が溢れていることに気づくはずです。城山の城石に大木の幹や流れる水に触れてみましょう、そこに自然の呼吸を感じるはずです。それは今であり、もしかすると幕末の津和野であるかもしれません。
知識は大切なものです。でも諸刃の剣でもあるのです。知識に感性やものの見方が規制されてしまうこともあるのです。いわゆる思い込み、そして自分は何でも知っているという考えです。仕方のないことでもあるのです。
「知識」というものは人を惑わすのです。やっかいなことは知識をつければつくほど、学べば学ぶほど人を傲慢にするのです。
貴方はそんな人を沢山見てきたはずです。でも失礼な言い方をしますが、時に貴方もそうかもしれません。かく言う私もそうです。
知識は大切ですが、知識は時にひとを惑わすのです。だからひとは時に、書を捨てて街をでて旅をするのです。山に登って自然の大切さを考え、海を眺めては未知に気づき、畑を耕して育てる大切さを再認識し、動物園や植物園でほかの生命との共存を考えるのです。それを実践といい、課外活動といいます。
知識至上主義にならないために大切なことが、自然や社会に触れるとともに「考える」ことです。
考えると言ってもどうやって、と思います。そこでいい例が「比較する」ことです。自分の背が高いか低いかは、他人と比較することで分かりやすくなります。数を増やせばもっと分かりやすくなります。客観化ということです。
ここで比較とは知識があるか無いかではなく、考えるということです。昔と今はどこが違う、その違いとはなに、なぜ違うのか、その背景にはなにがあるのか。出来たら友人やお子さんと一緒にしたらどうでしょうか。
「へー、そうなのだ」。その気づきが、津和野での旅をもっと楽しくし、心に残る物語にするのでしょう。
そんな楽しみ方が津和野にはあります。
■ 問合せ先
津和野日本遺産センター
〒699-5605 島根県鹿足郡津和野町後田ロ253
TEL:0856-72-1901 FAX:0856-72-1902
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