収録・解説 酒井 董美
語り手 佐々木誓信さん(明治25年生)
(昭和36年9月12日収録)
花子さんが南蛮黍(とうもろこし)の根元が赤いわけをおばあさんに聞いたら次のように話してくれました。
昔、豆腐屋さんのおばあさんが寒い朝、豆腐箱を負って峠の辻のお地蔵さんの前で休んでいたところ、霜が降っています。
「かわいそうに。…今夜は頭巾を縫うてあげる」と町で赤い継ぎを買いました。見ると、お地蔵さんの手に小さい鋏がありました。
「早う縫うてくれ言うて、鋏をくれたのだろう」と帰って、鋏を当てれば、ひとりでに、継ぎが切れて行きます。糸を針に通して縫うと、頭巾ができあがりました。
明くる朝、お地蔵さんに頭巾を被らせてあげました。「足が冷やかろうけえ、今日は足袋ゅう縫うてあげる」。足袋はすぐできました。
お地蔵さんをつかまえて足袋をはかせようとしたけれど、重たくてできません。おばあさんは、「わしが足袋をはこう」とはいて町へ豆腐を売りに行くと、坂を上がるのに苦しくありません。うれしいので隣のおばあさんに話したのです。
その隣の意地悪おばあさんが、
「鋏を貸しちゃんさい」。おばあさんは鋏を貸しました。
ところが、意地悪おばあさんが鋏を使うと一生懸命使っても継ぎは切れません。それで腹を立て、
「わしに偽物の鋏を貸して、地蔵さんにもろうた鋏だちゅうてからに」と隣へ行きました。
「わしをだまくらかあたんだ」
「だまくらかしゃあせん」そう言っても聞きません。
意地悪おばあさんが、ひどい剣幕ですから、よいおばあさんは恐れて走って逃げだしました。
ところが、お地蔵さんにあげる足袋をはいているものですから、速いとも速いとも。意地悪おばあさんも一生懸命に追って行ったところが、よいおばあさんの前に一本の糸が下がってきました。その糸につかまって天へ向かって上りました。
意地悪おばあさんも後を続いて、糸につかまって上ってきました。
よいおばあさんの足へ意地悪おばあさんの手が届きそうになりましたので、持っていた鋏で自分の足元のところから、糸を切りました。
すると意地悪おばあさんがぐるぐると畑の中に落ち、身体が三つに割けたそうです。一つは粟の根元へ、一つは唐黍の根元へ、一つは南蛮黍の根元へ行ったそうです。その血で南蛮黍と唐黍と粟の根は真っ赤になったそうです。
花子さんのおばあさんは、こう話してくれました。
花子さんが話を所望すると、それに応えておばあさんが話を語るという話の中に話が入っている二重構造を持った昔話である。
この昔話は、天から下がってきた綱につかまって逃げる兄弟姉妹の主人公たちを、別な綱を所望して天の邪鬼がそれにつかまった主人公を追いかける話「天道さん金の鎖」と似た筋書きである。
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