― 紅花で染めし手拭をつけ ―
桶川は、JR東京駅から高崎線で一時間、新宿駅からでも湘南ライナーで一時間程のところにあります。さて、祇園祭とは関りがありませんが、一点歴史的資産について触れておきます。
桶川駅から川越方面に向かってタクシーで30分ほどのところに、ホンダエアポートに隣接する形で2020年に完成した「桶川飛行学校平和祈念館」があります。詳細はサイトをご覧頂くとして、前身は熊谷陸軍飛行学校桶川分教場 で、敗戦の年の4月5日、ここから陸軍初の練習機による特攻となる振武第79特別攻撃隊12名が知覧基地に向け出発しました。敗戦が濃くなると特攻隊員の養成基地となったのです。極秘の使命で赴く特攻隊員にまつわる多くのエピソードは書籍にもなっていますが、ここで説明を受け、考えていただければ幸いです。京都市上空を通過する別れのシーンには深く考えさせられます。
近くには紅花の畑が多く、花咲く頃には山吹色の野に一辺します(6月)。紅花染めを楽しんで下さい。
毎年7月14、15日に祇園祭が開かれます。五基(現在)の神輿が夜店連なる旧中山道や路地をうねり進む祭りには、近在の多くの人が集まり賑やかな夏の風物詩です。かつては神輿ごとに担ぎ手がいて、「三代続いた家の者しか担げない」と聞かされたこともありますが、昨今は外部の神輿担ぎ手たちに頼る状態です。また的屋(てきや)衆の夜店もずいぶん減りました。
同じ時期に全国でも祇園祭が開かれます。京都の祇園祭、博多の祇園山笠、会津田島の祇園祭、鎌倉の祇園祭、長野の深見祇園祭。
「おっしょい」の祇園山笠、「よいさ、よいさ」の鎌倉、そして「こんちきちん」の京都の祇園祭と、それぞれに掛け声や音があって地域の特性を表しています。
京都の祇園祭・八坂神社、鎌倉の祇園祭・八雲神社も、『全国の出雲の神々』にて紹介しています(9回20回)。また22回の岩手県・黒石寺の「さようなら、闇を裂く須佐之男命の影」も関りがあります。あわせてご一読ください。
桶川の祇園祭が始まったのは、江戸時代の元文2年(1737年)、田沼意次が19歳で家督をついだ年のことです。桶川宿・本陣近くに素盞鳴尊(スサノオノミコト)一族を祭神とする市神社を「天王社」として祀ったとされています。
元文3年(1738年)、市神社の前を中心に百八燈の灯籠を灯し、疫病流行の退散を祈願します。現在、市神社には銀行の建物が立ち、碑が建っています。
桶川宿や隣接する地域は、荒川の氾濫などによって水害厄難に襲われました。当時治水工事と祈願は人々にとった大切なことでした。出雲国の斐伊川の氾濫を八岐大蛇の大暴れにたとえた説もありますが、水害は町の発展とともに人びとの生活に深く関わっています。
寛延2年(1749)、桶川宿の祇園祭が復興されました。記録によると祇園祭は華麗なものと変化します。初めて各町内の神輿が市神社前に勢揃いし、各町内も競って花台(提灯等で飾り付けた屋台)をつくりました。
ひとびとは須佐之男命を祀る「天王社」にお参りし、無病息災・家内安全を祈願しました。
天明治元年の神仏判然令の発布から8年後の明治9年(1876年)、市神社は稲荷神社境内に移築され、八雲社として合祀されました。
桶川宿を視点において他の祇園祭を考えるのはいささか心苦しいのですが。このわずかな紹介文の中でも全国の無病息災の神に天照大御神ではなく、素戔嗚尊を置いていることが読み取れます。
京都や福岡の祇園祭の名称を通した素戔嗚尊伝説、鎌倉の八雲神社の名称を通した素戔嗚尊信仰、牛頭天王(素戔嗚尊)と厄払いの「茅(ちがや)の輪くぐり」の風習。
小さな桶川宿の祇園祭から全国の祭りを見ると、八百万の神々とは別の牛頭天王=素戔嗚尊が見えてきます。為政者としての国治めではなく、無病息災・家内安全という大衆の基本的欲求が見えてきます。
もしかすると八百万の神々とは素戔嗚尊の分身や仮身が、人々との出会いの中で土着の神へと変身したのではないのでしょうか。
桶川宿の稲荷神社から三キロほどの17号線を越したところにある「坂田八雲神社」。牛頭天王を祀っています。祭禮は祇園祭とは別に実施されます。
大宮には氷川神社の一の宮があります(「全国の出雲の神々」でも紹介)が、桶川宿の隣、上尾には「上尾二ツ宮氷川神社」があります。関東地方、とりわけ埼玉を中心にある氷川神社は、素戔嗚尊をと妻神の稲田姫命を祀っています。
人びとはいろいろな形で素戔嗚尊の力に頼ったのです。そんな民衆信仰の中に、古事記や日本書紀の神の系譜と異なる神の定着を垣間見ます。
■お問合せ先
・桶川市役所
桶川市泉1丁目3番28号
電話番号:048-786-3211
・歴史民俗資料館
桶川市川田谷4405-4
電話:048-786-4030
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