-あなたの心とどく古代と未来の息吹-
「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。 よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。」。鴨長明の『方丈記』の冒頭の文より。
神魂神社(かもすじんじゃ)の石段の下から国宝の本殿を眺めた時に常に思う。この静寂さと張り詰めた空気は。前回来た時と似て非なるものであり、かつ石段を見上げる自分もあの日の自分ではないと。
永遠に流れ、永遠に流れゆく時空を意識しつつ、苔に染み入る滴り落ちる冷水にそば立てる。このなんと刹那き響きであることか。
音となり、風となり、翳となる。
『夏も楽しい、島根』、第一回は、松江市大庭町にある神魂神社です。
松江駅からバスで小一時間のところにある「風土記の丘」。今でこそ文化指定地として保護され、田畑と自然に囲まれている一帯ですが、古代のころは出雲の国を治める地として経済・政治の要として栄えました。
神魂神社は、島根国でも何度も取り上げています。静寂でありつつも厳格な雰囲気からは、古の息吹さえ感じます。
・歴史
社伝によると、出雲国造の大祖・天穂日命が天降って創建したと伝えています。だが『延喜式神名帳』や『出雲国風土記』には記載されていません。創建は平安時代中期頃とみられています。
神魂神社のある大庭(おおば)には、出雲の国分寺や国府もあり、古代出雲の政治・経済・交通の中心地でした。また神魂神社以外にも熊野大社、真名井神社、揖夜神社、六所神社、八重垣神社があり、あわせて意宇六社と呼ばれています。
時間に余裕がある方は、是非、すべての神社の参拝をお薦めします。
・主祭神
主催神は伊弉冊大神で、配祀神は伊弉諾大神です。伊弉冊大神(イザナミ)ま、伊弉諾大神(イザナギ)とともに国造りと多くの神様をおつくりになりましたが、火の神を生むことで火傷でなくなりました。その後、イザナギがアマテラス、ツクヨミ、スサノオの三貴神を成されました。詳しいことは、『島根国』の「出雲神話の神々」をご覧ください。
・参道
バスや車で来られた方は、つい二の鳥居から途中参拝されますが、ここは是非、一の鳥居まで進んでからの参拝をお薦めします。
春ならば桜花の舞う参道を、夏ならば肌に染み入る深緑のなかを、秋ならば舞い散る枯れ葉と戯れて、冬ならば地吹雪舞う参道を、お楽しみください。
二の鳥居の横には「神魂神社」と刻まれた石があり、その厳粛さを静寂さへと導く木立が続きます。重厚感ある自然の石を積み重ねた石段は、神社の歴史と共に、存在の意思を示しています。お年寄りや体の不自由な人の方がいらっしゃれば、共に支えとなり手水舎まで進みましょう。
時なら夕立に出会うならくれぐれもご注意召され。また晴れた日でも、静寂な帯を渡る花嫁のようにしずしずと進みましょう。
・手水舎(ちょうずや)
大きな石をくり抜いた苔むす手水舎、手づくりの竹筒から流れる清水、体内の熱気をおさめる冷気にしばし佇み、静かに呼吸を繰返してみるのもいいでしょう。あせることはないのです。貴方の間と思いにまかせ、しばし現世とは別れましょう。
心に余裕が生まれれば、柄杓で手と口を清めましょう。もし歩き続けてきた貴方なら、首筋にそっと水を流してもよいでしょう。心安らかにするには、まず体の邪熱を払いましょう。
悠久の時を彷徨う冒険者であり、探検家であり、そして好奇心の旺盛な旅人でもあっても、これから歩む貴方は心穏やかな「風」と「光」と「気」と成るのです。
・現存する最古の大社造
石段を上る前から見える大社造の社殿。
礼を尽くするのは当然として、お静かに、正面からはカメラ(もちろんiPhoneも)を向けない、そして蜂に注意。信仰がどうとか作法ではなく、礼儀です。
大社造は日本の神社建築様式です。太くて立派な大柱、美しい曲線の屋根、屋根の上には千木(ちぎ)が装飾されています。
1346年に建立される本殿は落雷によって消失、1583年に再建された建物です。現存する大社造の社殿としては最も古く、1952年(昭和27年)に国宝に指定されました。
参拝後は速やかに離れ、暫し距離を置いて眺めましょう。かつて小泉八雲がしたように。
文頭にて変わらないものはないと申しました。いつか立派な建物も朽ち、心優しき心も萎れ、そして肉体も滅んでいくことでしょう。それが永いか短いかは相対的なことでしかなく、やがて地に、空間へと霧散するのです。
今、出会った建物との感動と今という貴方の感性との出会いを、しっかりと時という記憶に刻み込みましょう。しばしの瞑想です。
本殿の両脇には末社が並んでいます。賽銭をケチらずに静かにすすみ、手を合わせてください。驚きの末社に出会います。有名なのは、杵築大社(きつきたいしゃ)や伊勢社、重要文化財の二間社流造(にましゃながれづくり)の貴布祢稲荷両神社(きふねいなりりょうじんじゃ)などがあります。
祭礼の日以外は見ることはできませんが、本殿の扉の内側に太陽と月の絵が描かれています。また本殿の天井には9つの瑞雲(ずいうん)が描かれています。これは絵葉書でご確認ください。
・杉の大木
大きいのに見落としがちな杉の大木。蜂に注意の看板に、近づきにくい大木ですが、下まで近づいて見あげ、ぐるりと360度、ゆっくり身体を回転してみましょう。
微かな振動が貴方の感性を刺激して、一瞬、古のざわめきを耳元へと誘うことでしょう。あるいは眩暈に閉じた瞼の裏側に古代の風を映すかもしれません。
かりに何もなかったとしても、貴方の体内には清らかな冷気が染み入ったことでしょう。
神魂神社はよくある古い神社ともいえます。手入れの行き届いた森の中の神社とも、観光客の来ない神社とも、いかようにも言えます。その神社をとりあげたのは、歴史や文化、民俗や儀式などではありません。
冒頭に取り上げた「変化」です。手水舎の石も、竹筒より流れる水も、濡そぼつ苔も、変わらぬと思えども常に変化し、訪ねる貴方の心も変わり続けるように、この静寂と厳粛の中であらためて問うてほしいのです。
「変化ってなに」
「成長」とか「衰退」とは異なる、「変化」
私たちは、この変化を意識することが大切かもしれません。その「変化」は、やがてあなたの意思と重なり「変革」となることでしょう。
意思を持たない木造建築物、杉の大木、蜂さえも時とともに「変化」するのに、意思を持つ人類が「変化」から「変革」へと進まなくてどうするというのでしょうか。
鎮守杜が伐採されてなくなったのは変化ではなく、ひとの意思による「変革」です。
変わり続ける神魂神社のなかで、変化について考えてみましょう。この夏、貴方は意識して変わってみませんか。
島根の旅は、思い出づくりの旅ではなく、新しい貴方の旅たちのきっかけにしましょう。
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