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鉄路から体験へ

-木次線が塗り替える“移動”の価値-

板垣翔大 / Mond inc.

島根県松江市出身、地方観光×モビリティを伴走する立場から、今回は 木次線(きすきせん)を、「鉄道廃線の瀬戸際」ではなく「体験価値再構築の起点」として捉え直したい。


■現況と“限界”の認識

木次線は、宍道駅から備後落合駅までを結ぶ全長約81.9 km、非電化・単線のローカル鉄道だ。日常交通としての需要が極端に落ち込み、末端区間の輸送密度は1 kmあたり23人という報告もある。
これは「鉄道としての収益モデル」がほぼ崩壊した状態と言っていい。
そのため沿線自治体と JR西日本の間で“あり方”をめぐる協議が始まっている。

しかし、ここで「廃線します」と諦めるのではなく、むしろ問うべきは「この鉄道を何に変えられるか」だ。

■観光・体験価値に転換する“鉄道”

過去に成功した観光列車や宿泊列車のモデルがある。例えば、移動そのものを“ホテル体験”としてデザインし、付加価値を高めることで高単価化している事例だ。

木次線にも“スイッチバック区間”“豪雪の山陰山地”“神話伝説の地域”という強力な体験軸が存在する。ここを「単なる通過点」から「体験そのもの」に引き上げれば、ハイレイヤーな旅ニーズを喚起できる可能性が高い。

その際に鍵となるのが次の3つだ:

  • 列車そのものを魅せるインテリア・食・演出
  • 鉄道+沿線宿泊+食体験の一体化パッケージ
  • 運営スキームの見直し(上下分離/第三セクター化/運行受託)

■運営スキームを“鉄道維持モデル”から“体験維持モデル”へ

鉄道維持のハードルが高まる中、単に「走らせ続ける」モデルでは限界が明らか。むしろ、以下のようなスキームに転換すべきだ。

  • 上下分離モデル:線路・施設所有を自治体や地域基金、運行を専門事業者に委託。
  • 第三セクター移管/地域主体運営:地域住民・観光事業者の出資で鉄道を地域の体験コンテンツに再定義。
  • 列車ホテル化・宿泊機能付加:駅舎横・側線を活かして、列車宿泊や宿泊者専用列車を運行。

こうしたスキームを用い、鉄道そのものを“原資”ではなく“アトラクション”に変える。

■沿線を“旅のデスティネーション”として設計

具体的には、木次線を以下のように再構築する:

  • 週末限定・予約制の観光列車運行(例:豪雪期・紅葉期限定)
  • 列車内食体験+地元酒蔵ペアリング+職人ワークショップ付き
  • 出雲横田・木次を起点に、古民家宿泊+温泉+鉄道+体験プログラムを“滞在型観光”として展開
  • 鉄道利用者限定特典グッズ/EC販売と連動し、体験後のフォロー収益を設計

こうして「木次線に乗ること」が目的そのものとなる“旅の動線”を作る。

■地方・観光・モビリティの観点からの希望

島根県出身・地方中小企業支援に携わる僕として、木次線に対して抱く希望は明確だ。
それは、「廃線を防ぐため」ではなく、「体験価値を創るため」に存続を選択すること。
地域の暮らしを守るための交通として残すのも重要だが、それだけでは“鉄道”の価値が希薄化してしまう。

むしろ、この路線を「日本の山陰山地を通る、乗ること自体が旅となる鉄道体験ライン」に変える。そこには、地方における“移動の価値の再定義”という社会的インパクトもある。

あなた自身が地方企業・観光事業者・自治体と向き合っているなら、この転換が“新たな事業機会”でもある。鉄道を“静の存在”として残すのではなく、“動の体験”として活かす。

おわりに

木次線は、確かに日常交通としての機能では瀕死状態にある。だが、それをあきらめる必要はない。むしろ、鉄道を「目的」から「体験」へ再定義し、沿線を“旅の目的地”に変えることこそが、地方・観光・モビリティの未来を拓く鍵だ。

地方発で「移動そのものを感動に変える」設計を考えていきたい。

板垣翔大 / Mond inc.
Mondの代表。現場が好きです。

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