• ~旅と日々の出会い~
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86.「河原雀の敵討ち」仁多郡奥出雲町竹崎

収録・解説 酒井 董美 
語り手 田和朝子さん(明治40年生)
(昭和47年(1971)5月6日収録)

あらすじ

 昔。河原(かあら)スズメが子を生んだげな。鬼がそれを聞いてやって来て、
「河原スズメさん。おまえ、子を生みなさったそうだが、見せてごさんか。おら、赤ん坊見に来たが」

 子どもを鬼の前へ出したら、
「いい子だことはいい子だが、目が片細い」と言ってゴンピリ飲んでしまった。それから、また、
「もう一つ見せっさい。こんだ飲まあへんわのう」と言う。出したら、「いい子だことはいい子だが、こらぁ鼻の穴がひとつ細い」と次々飲んでしまって、それから、「さいなら」と帰ってし まったげな。

 河原スズメが腹を立てて、
「かたき討ちい行く」とキビ団子をこしらえて、行っていたら、マムシが道のへりから出たげな。、
「河原スズメさん、おまえはどこへ行かっしゃりゃ」
「おらぁ、鬼のところへかたき討ちに行かあかと思う」
「そのキビ団子を一つごさっしゃい。おらあついて行くけん」

 マムシはキビ団子をもらって食ってついて行くげな。今度はハチもキビ団子をもらってついて行く。竹の棒も団子をもらってついて行ったげな。そのようにしてドングリやくされ縄や臼やカニやクモなんかもキビ団子をもらってついて行った。

 鬼がおる家の障子の穴から見たら、鬼はいい火をたいて居眠りしていたから、河原スズメが、
「だれんも集って言いことを聞いてごせえ」と、だれにも役割をしてから、今度は手をふったげな。

 ドングリはいい火の中へとんだげな。竹の棒がかまどから、いろりを混ぜたら、パツーンと鬼の背へ火の粉が跳やけどんだそうで、「やあれ熱いなぁ。火傷けどにゃ味噌とやれ」と味噌桶の味噌を出そうと手をつっこんだら、マムシがガーンズリかんで、

「こりやぁ痛ぁていけんわ。早、水の中へ」と水の中へ手をつけたら、カニがズーンガリつめって、
「ここじゃあいけん、後ろ口へ出よう」と思ったら、赤んバチが来て刺したげな。今度は、玄関口へ出ようと出かけたら、クモの巣が顔へいっばいひっついて、目が見えん。

 戸口へ出ようかと思ったら牛の糞を踏みつけてすべって転んだら、上からくされ縄が、手を放したそうで、ストーンと臼が落ちてきて鬼を押えつけ、そこへ河原スズメが行って、鬼の首い切って、かたきを取ったげな。それ、昔しこっぽし。

解説

 河原スズメというのは、セキレイの地方名である。『島根県方言辞典』(島根県方言学会)にも記載されている。関敬吾著『日本昔話大成』では、動物昔話の「雀の仇討」として出ている。これで見ると、助太刀はドングリ、針(ハチ、ムカデ)、カニ、牛の糞、臼などであり、おおむね田和さんの話に符合する。ただクモ、竹の棒、くされ縄は田和さんの話にはあっても、関敬吾博士の分類の中には登場しない。そのようなところに地方色を見ることができる。また、「サルカニ合戦」や「サルの夜盗」などの話とも交錯している。

出雲かんべの里 民話の部屋 「河原雀の敵討ち」

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