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88.「トシトコさまの由来」鹿足郡吉賀町椛谷

収録・解説 酒井 董美 
語り手 大田サダさん(明治30年生)
(昭和38年(1963)2月2日収録)

あらすじ

 わたしのおじいさんのそのまたおじいさんの昔からあった伝えですが、それは「人に飲まし食わしを惜しゅうじゃあ、その家に福が来ん」ということです。

 トシトコさまは片足の神様で、居間の神棚に片足の草履をあげるものとされています。どうしてトシトコさまが片足しかないのかといいますと、それには次のようなわけがありました。

 昔、ある家のおばあさんが昼前に味噌をすっていましたら、神棚におられたトシトコさまが、

「やれ来い。今ごろ飯がはなわるけえ(準備ができるから)、早う来いよ」と言って人を呼んでいました。それを見たおばあさんが、

「こんな外道が、いつもいつも人を呼おでこれ(この家)の飯ゅう食わす。これは貧乏になる。これにはそねいに人に食わする米はなあ」と言って、トシトコさまに味噌をすっていたレンギを放りかけたら、トシトコさまの足に当たって折れてしまい、片足になられたそうです。

 それ以来、そこの家は一方から貧乏になって行き、人も来んようになって全滅してしまったといわれています。

 そういうことだから「人に飲まし食わしを惜しんだりして欲を言うちゃあいけん。人に食わするほどはこの家にあるの」と昔のおじいさんは言っていました。わたしはよく聞かされていたものです。

解説

 これは由来譚であり、どちらかといえば伝説に属している。

 さて、トシトコさんというのは、正月に来臨する神様で、正月が過ぎれば去って行かれるのが大方の考え方である。トシトコさんは、別に「歳神」とか「歳徳神」とも呼ばれている。また農村では農業神、漁村では豊漁の神と信じられている。

 そのような素朴な信仰から、各家では大黒柱に藁で編んだワラジとか草履が片一方だけ下げられていた。これはトシトコさんが片足だからだ。その理由は各地で独特な説明がなされている。

 また、正月の神を歓迎するわらべ歌も各地にある。ここでは松江市島根町多古と隠岐郡隠岐の島町犬来の歳事歌を挙げておく。

〽正月の神さん
 どこまでござった
 大橋の下まで
 破魔弓を腰に挿いて
 羽子板を杖にして
 えーいえと      ござった
(伝承者 松江市島根町多古小川シナさん 明治32年生)

〽正月つぁん 正月つぁん
 どこまでござった
 大満寺の腰まで
 土産はなんかいの
 椎    茅    勝栗    蜜柑    麹    橘
(伝承者    隠岐の島町犬来出身 中沼アサノさん  明治39年生)

出雲かんべの里 民話の部屋 「トシトコさまの由来」

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