― 一回、線路は続くよ ―
『さかねとつむぎとキスキ線』(コミックス)。マンガ・たこぱいそん、監修・木次線応援プロジェクト実行委員会、発行・合同会社部活、発行日・2025年12月12日、非売品、A5判192ページ

イントロ
物語はこうだ。一部区間の廃線の噂が立つ木次線。その該当駅のひとつ坂根駅に大阪から転校してきた高校二年生「つむぎ(紬)」、沢山の人が来ることを待ち望む少女「さかね」、そして木次に暮らす写真が趣味の高校生の「まこと(真)」。その三人を中心に織り成される。
これからの進路に悩むつむぎは、木次線の魅力を教えるさかねたちから木次線の魅力を知り、いろんな人と語らうことで目的に気づきはじめる。それがコミックスの真の目的・ゴールなのか、と思わせるところが意味深な仕掛けである。
■非売品のコミックス
このコミックスは非売品である。買うことはできない。それなのに、なぜ、紹介するか。
Webサイト『島根国』をご覧いただいている方にはお分かりだ。このコミックスの発行は木次線の一部廃線がささやかれる「横田駅~備後落合駅」間をなんとか存続させたいと願い、存続の活動をする人々と、それを応援する人々によるクラウドファンディングの形で制作・発行されたからだ。
買えないコミックを、なぜ、取上げるか。これも簡単な理由だ。木次線を全線残したいという思いから紹介するのだ。その意味では、このコミックス発刊の趣旨とまったく同じである。
どうしても読みたい方がいたら、木次線の旅をして体感して頂くか、最後に記載したところに電話をかけて、どこに行けば読めるか相談してほしい。
しつこいが、書店にはない。でも、読んでほしい。そして木次線について考えてほしい。「買えないのに読んでくれ」。矛盾している。その矛盾した思いは、冷たい雪なのに好きという淡い矛盾と同じだ。そして、私は、矛盾は対立ではなく、必ず新たな道を生む出会いだと信じている。それは、「さかね」と「つむぎ」の出会いのように。

■「起承転結」とは
物語の構成は、つむぎの視点にたてば「起承転結」で終わる。しかし、コミックス発刊の本来の趣旨(木次線の完全継続に向けてのきっかけ)から見ると、木次線という主人公は「さかね」である。そのさかねには「起承転結」がなく、意味深に終わる。なぜか。「鉄道好き」の創作者の新しい構成なのか。違う。それはコミックスの発行趣旨に戻る。
現在も学校教育にあるのだろうか、「作文」の時間は。そこで初めに習うのが、文章の書き方としての「起承転結」である。私が小学生の時は、次の例で習った。
「京都三条糸屋の娘(起)、姉は十八妹は十五(承)、諸国大名弓矢で殺す(転)、糸屋の娘は目で殺す(結)」
中国の漢詩(絶句)に由来する物語や文章を構成方法で、話を「導入、展開、転換、結末」で成す。「起」で物語や話の設定や紹介を行い、「承」で起のところで紹介された内容を受けて展開する。「転」でこれまでに対し意外な展開やどんでん返しを行って内容を大きく変え、「結」の結論では転で変化した内容をおさめて全体を締めくくる。
大半の書籍やドラマ・映画はこの構成である。例えば長編の『あしたのジョー』(少年マガジン)、『火の鳥』(COM)、『カムイ伝』(ガロ)、『沈黙の艦隊』『課長島耕作(今は出世された)』(モーニング)『東京ラブストーリー』(ビッグコミック)も、永くてつかみにくいが、「起承転結」の積み重ねである。(読んではいないのだが「キングダム」、「鬼滅の刃」)も同じだ。
この方が物語として完成されているというより、読む側も安心する。典型的なのが『水戸黄門』で、毎回印籠(転)によって勝負がつく展開だ。だからみんな安心して見ておられるのだ。『巨人の星』も同じだ。いつもいつもぐじくじ悩む星飛雄馬も最後は解決する。いつまで悩んでいるのだといいたいが、人という動物は、苦悩解決が好きなのだろう。

■鉄道オタク
このコミックスの総合プロデューサーの江上英樹氏は、2025年12月のシンポジュウムにてこう述べられた。「漫画家は鉄道好きな人にした」。大切なことである。「好きこそものの上手」である。好きだから、細かなところまで気がつく。またたくみな表現ができる。その意味で、木次線のホームや沿線の描き方に好奇心や興味の壺が刺激される。さすがだと思う。たこぱいそん氏も、何日も木次線に乗り、地元の多くの人と語らっている。そんなところはルポライター的な資質と、表現者としてのクリエイターの質をお持ちだ。
最後、進路や目的に悩んでいたつむぎは、「鉄道にはまる」。「まだ木次線だけだから」と照れながらも。それが結だ。
総合プロデューサーの江上英樹氏は鉄道だけでなく、スイッチバックについても日本全国や世界のスイッチバックを調査して『スイッチバック大全』を編集され、またジオラマ模型作成のために奥出雲町に住まわれた人だ。こんな人たちが手を組めば、鉄道好きだけでなく、木次線への思いも趣味ではなく「真心」「使命」、いやいや「志」と言ってもよい。
ごとう隼平氏と松本勇祐氏が制作協力し、さらには木次線応援プロジェクト実行委員会や木次線利活用推進協議会の多くの人々が支援している。木次線情報たっぷりのコミックスに出来上がっている。鉄道ファンだけでなく、奥出雲に興味のある方、ワインや桜花、永井隆博士、たたら製製鉄や世界農業遺産に関心のある方にも是非読んでいただきたい。
しかし、買うことはできない。残念。というか、「残念」という気持に、制作者の皆さんが答えている。待ってと。もうちょい待ってくんなませと。というのは・・・
それが「起承転結」の構成である。たしかに「つむぎ」を中心に置けば、進路の目標をもつことで片付いた。しかし、このコミックスの趣旨は「青春ドラマ」ではない。木次線の完全継続である。ということは、沢山の人が坂根駅に来てスイッチバックに乗り、景色を堪能してほしいと願う「さかね」の「起承転結」が完成されなくてはならない。
最終ページ、坂根駅のホームにひとり残された「さかね」は降る小雪を見ながらつぶやく。「冬眠に入るとき、もう春になっても列車は来なくて、そのまま終わりになっちゃうかもって、不安になったけど・・・」「今年は、なんだか全然怖くない!」「春が楽しみだなっ・・・!」
カラーページのリード部分で、表情のない「さかね」はつぶやく。それは成長した「さかね」にも見える。「とうとうかぁ・・・いつまでも・・・この先も・・・」「ずっと・・・続いていくって・・・思っていたのに・・・」「みんなの笑い声・・・途絶えちゃった」
そうだよな、本来の主人公の「さかね」。それは木次線の妖精でもあり、木次線の魂でもある「さかね」の「起承転結」はまったく展開されていない。これでは不完全燃焼だ・・・・
とおもったら、漫画家のたこぱいそん氏と総合ディレクターの江上英樹氏は、こう最後のページを飾る。なんと・・・『序章 完』と。
おいおい、『序章』だったのかと。ということは・・・

■線路はつづくよ、どこまでも
そうだよな、さかねの起承転結がないのは、この非売品のコミックスは「序章」だからだ。すなわち「起承転結」の「序」の位置なのだ。あと最低、三巻は出版されるということだ。
ということは、このコミックスが欲しい、読みたいと思う方への朗報である。きっと次の「承」の巻で「序」にあたる今回の作品内容の概要が述べられるだろう。乞うご期待。
ということで、私たちwebサイト『島根国』でも、書籍案内を四回にわたって行うことにした。
今回の一回目は「起承転結」、二回目は「承」にあたる「三角関係」、三回目は「転」にあたる「上部構造と下部構造」、そして「結」に当たる最後は「ハリウッド式シナリオ・V字型」。
作品の構造主義的視点から述べることにする。
ひとり、小雪舞う坂根駅のホームでさかねは、「明日は出雲横田からこっちは運休・・・今年はこのまままる迄運休・・・」「・・・だね」
木次線の出雲坂根駅と備後落合間は、雪の降り積もる期間は運行が中止され、タクシーでの振替え運行となるのです。廃線ではない。
木次線はつづく。そしてコミックス『さかねとつむぎとキスキ線』も続く。
■おわりに、『雪』
私のような世代は(1950年代生まれ)は、『雪』というと、まず過ぎるのが、イルカの『なごりゆき』か、アダモの『雪が降る』、そしてJR東海の東京駅ホームのCMだろうか。あるいは都はるみの『北の宿から』やダークダックスの『雪山讃歌』『雪の降る街を』などを思い出すかもしれない。しばらくすると『私をスキーに連れてって』とかが出てきて、主任研修で受けた新田次郎『八甲田山雪の彷徨』に繋がり、北海道へと飛んでいって高倉健の『鉄道員』になる。
『雪』には、重くはないが秘めた思いを感じさせるものがある。だから最後が雪で終わるドラマや映画は、ずるい。というのも、雪をみせられると、これで終わりではなく永遠(とわ)へと続く余韻を感じてしまう。それも何かがあるのではなく、果てしなく続く。
雪を思うと、小さな頃、母に手を引かれ、吹雪の中を積もった雪に足をとられながら歩いた姿が思い出される。街灯の灯と雪明りしかなく、白い雪と白い闇が果てしなく続いていた。
歩いても、歩いても家には着かない。母はなぜ、私を連れて歩いたのだろうか。そしてどこに向かおうとしたのだろうか。その後のことは思い出せない。ところが、幼い頃の記憶は不思議で、記憶は囲炉裏の横で祖母に手を温めてもらう幼子の姿へと繋がる。すべて夢かもしれない。少年時代に母にたずねたことがある。隣りにいた祖母が呟いた、「それは雪女の話をきいたからだ」と。幻の女性、雪女。妖精かもしれない。
飲み屋で彼女と別れ話をして、外に出ると雪だった。足跡のない路を見て、どちらからとなく、やり直そうかと言ってしまう。逆の方向に靴跡を残すわけにはいかないからだ。あの頃の青春は残酷だが優しかった。そして君の温もりが欲しかった。
子どもが出来、積もった雪で雪だるまをつくる。笑いがあった。何が可笑しかったのだろうか。冷たい雪なのに、雪は温かかった。それは、この大切な時を次に残したいという思いが生まれたからだ。今は自分のためだけにあるのでなく、未来の子供たちのためにもある。
映画『ひまわり』や『ブッラクレイン』のような雨ならばどうなったのだろうか。しかし、やはり雪がいい。最後は雪がいい。雪は先が見えなくても永遠へとつづく幻想的な魅惑がある。
さて、このコミックはなぜ、雪のシーンで終わる。現実を知れば、寂しくなる。それはこの区間の廃線の理由になるからだ。だから、私は、この雪は、希望という未来へと繋がる心模様と置き換えて、コミックスを閉じる。
少女「さかね」は木次線の文化であり、歴史であり、思い出であり、情念であって、すべてを含んだ妖精である。

告知
一回、『線路は続くよ』としての「起承転結」
二回、『三角形は重なると輪になる』としての「三角関係」
三回、『真の目的、そしてビジョンは』としての「上部構造と下部構造」
四回、『私たちのゴールに向けて』としての「ハリウッド式シナリオ・V字型」
掲載した写真はすべて、「©️たこぱいそん/木次線応援プロジェクト実行委員会」に所在します。無断使用はご遠慮願います。
🔳問合せ先
雲南市 政策企画部
うんなん暮らし推進課 交通政策室 冨岡
〒699-1392 島根県雲南市木次町里方521-1
TEL :0854-40-1014

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