• ~旅と日々の出会い~
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第一回 あの日、あなたは輝いていた。「変革と提言」

■はじめに

「大切なことは目には見えないんだよ」(サン・テグジュペリ著『星の王子さま』より)

この物語は、かつて「創造の知恵」をもって立ち上がった若きプロメテウスたちが、その羽を再び広げ飛び立つ創意工夫の話です。

思い出が思い出で終わることなく、島根の自然と人びとの出会いと関係を通して新たなビジネス創造を目指す、その活動を紹介します。

創意共創に向けての対話もあれば、島根の自然と文化との魂のふれあいもお伝えします。その過程を通して、仕事をすることを考え、新たな関係からビジネスが創造できればと考えています。

プロメテウスの「プロ」とは「プロローグ」(序章)、「メテウス」とは「知恵を持つ」という意味です。プロメテウスには弟の神エピメテウスがいます。「エピ」とは「エピローグ」(終章)という意味です。『ギリシャ神話』より。

■21世紀の企業像を考える

今から遡ること三十余年ほど前の出来事です。とあるIT企業にて、その頃は「IT」という言葉はなく「電機メーカー」でした。そのとある電機メーカーで、21世紀の企業はどうあるべきかを若手百名によって検討するC21運動が全グループ会社の参加のもとに開始されたのです。若手の集合体を「百人委員会」と呼び、それぞれを「プロメテウス」と位置付けたのでした。

選ばれし百名は10のテーマに分かれ議論をします(実際は拡大されました)。例えば、「高度情報社会」「企業市民」「グローバル」「企業経営」など。

■行動が人を変える、アースディ

画期的な活動で、新聞・雑誌などメディアで取上げられました。従来の概念を大きく破った活動でもあります。そのひとつ「企業市民」グループは、「行動」を通した「意識変革」を提唱し実行したのでした。具体的な活動が、①地球環境と企業の関係をとらえた、国内二回目のアースデイへの参加、②結局は幻の出版となりましたが書籍『地球村に生きる―地球を救うためにできるわたしたちの108の方法』の制作でした。

アースデイのポスター
チラシ
『地球村に生きる』 表紙
「目次」一部

環境問題という新しい試みに、当然ながら既成概念からの非難が内外からありました。それでもできたのは、経営者層に時代を先取りした斬新な洞察力があったからでしょう。

日比谷シティ・アースデイの模様

「企業市民」以外のグループも創造的な活動を行い、「提言書」にまとめ上げたのです。
その頃のメールと言えば、PC-VAN、nifty、そしてunixメールがありましたが相関性はなく、ひとつの媒介を経由しなくては送れない「ネットワーク」環境でした。携帯電話などありません。そんな時代の「高度情報社会」もハードよりの考えが主流でしたが、「高度情報社会」グループの発表は斬新で、オペラのシナリオ形式の提言でした。

■もう一度考えてみよう

過ぎ去った「情念の季節」はいつも輝かしいものです。そして精いっぱいチャレンジした活動の日々は、色あせることなく心に残ります。思い出を肴に酒を飲むこともできます。時として、残り続けた炎は穏やかに心をくすぐることもあるのです。

あれから三十余年、思い出としての日々ではなく、これからの営為に活かせるのではと感じたのも、心にあり続けたプロメテウスの火かもしれません。それが「仕事するを哲学する」といった穏やかな対話の始まりでした。といっても酒の美味さに優ることはなかったのですが・・・。

「働き方改革」といHOWという手段ではなく、WHY・WHATという「仕事をするとはなにか」「なぜ、仕事をすることを嫌うのか」「本来、仕事をするとは喜びではないか」を時代の変化のなかで捉えみようとしたのです。
ゴールには、新たな関係としてのビジネスの創造を置いています。地域創生であり、自然との共存でもあります。

図1 自然と産業

■仕事はたのしい

キーワードを「仕事」において、ある仮説をたてました。
テーゼ「本来、仕事はひとにとって楽しい行為であり」、「自然の人間化を通しての自己実現である」。そしてアンチテーゼは「なぜ、仕事は楽しくないのか」。

「働き方改革」とは、効率化と人員整理のシステム、手段に過ぎず、哲学的課題にはなりえない。「ワーケーション」は、現状(仕事)からの逃避、空間移動という心理手段であると。これらは本質ではなく、手段・現象でしかありません。

二つの現象を過渡期処置として位置付け、仕事(労働)の考えをとらえ直すことからはじめることにしました。

図2 全体の概要

■なぜ、奥出雲地方か

私たちは、奥出雲のたたら製鉄に関係する施設を訪ねることにしました。理由は次の三点です。

・製造業を核に成長した日本。製造業の原点(古代より)である「たたら製鉄」の文化と歴史を見学する。モノづくりと営為。

・循環型農業に示される「産業と自然との共存」(バリューチェーン)を歴史的にも実行してきた。自然との共存、産業と農業・林業の連携。

・「対話して共創する旅行」を通した新たな価値と関係の創出。自立共創。

奥出雲の自然と歴史に触れることを通し、創造をしようとする「試み」です。
これが『奥出雲地方への旅』の始まりです。

仕事の概念を避けて自然・社会との共存はありえません。

さて、私たちは三十余年でいかほど成長したのでしょうか。そしてなにを創造できるのでしょうか。

まだ未完ですが「たたら製鉄」のバリューチェーンを添付します。

図3 たたら製鉄のバリューチェーン

次回は「製造業の原点・たたら製鉄を訪ねて」を随時掲載します。

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