■『百姓塾』の炭火を囲み
奥出雲町佐白の古民家を改築した『百姓塾』。その広い庭で、炭火の灯を囲み、地元の人々を交え語るのでした。今日、見学したたたら製鉄の数々を、これからの『仕事』のあり方を、そして自然との共棲と地域との連携を。
時に、澄み切った夜空を流れる星に須佐之男命(素戔嗚尊・スサノヲ)の降臨を感じ、弾ける炭火の瞬きに八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の鬼灯(ホオズキ)の眼光を意識し、山の恵みと美酒にクシナダヒメ(稲田姫・スサノヲが助けた娘)の感性を想像するのでした。それは時空を超越したサクセションの物語に参加する閃きでもあったのです。
そうなのです。この自然も、この喜びも、私たちの世代で終わるのではなく、次の世代に、そしてまた次の世代へと果てることなく渡していかなければいけないのです。
四肢と五臓六腑から満足と至福の声が聞こえてくる、ハードなスケジュールでした。
松江からレンタルタクシーで奥出雲の櫻井家可部屋集成館へ。今日一日たたら製鉄の案内をして頂く尾方豊さんと、奥出雲町役場と観光協会の皆様のお迎いを受けました。続いて絲原家絲原記念館、日刀保たたら(鳥上炭銑工場)、大原の棚田を見学し、昼ごはんは稲田姫神社内にある「ゆかり庵」で割り子そば、いしだ豆腐でヘルシースムージーを頂き『奥出雲町のたたらと刀剣館』へ。その後、横田の町にある神社造りの出雲横田駅と教会を見学し、宿泊所でもある『百姓塾』を運営する多根自然博物館にむかいました。
私たちが多根自然博物館を見学し、佐白・長寿の湯の露天風呂につかっている間に、多根自然博物館館長である宇田川和義さんご夫婦、たたら製鉄をご案内頂いた尾方さん、そして地元で農業と共に工事業を営む藤原功さんの皆様に、バーベキューの準備をして頂きました。
たたら製鉄の見学地、多根自然博物館『百姓塾』については、旅先訪問情報と写真と合わせ次回紹介します。また、動画での発信も準備中です。(『島根国』「地方創生の活動」・宇田川和義をご一読ください)
■火は人を穏やかな気持にする
百姓塾の家屋の前の広い庭、私たちを覆うのは、桜木の樹林と草木の濃い陰影で縁取られた満天の夜空だけです。時折、線香花火の瞬きのように炭火が弾けるのでした。
地元『仁多牛』と野菜をバーベキューで頂きます。宇田川さんの奥様から頂いた佐白の米で作ったおにぎり、地元の友人に頼んだ煮しめ、そして地元の酒、簸上正宗の「七冠馬」と奥出雲酒造の「奥出雲」を飲みながら、農業をする藤原さんから、一反から六俵しか収穫しない考えや田んぼの土壌と展望を聞きます。「一過性の見学でなく、継続に繋がる仕組みを考えてください」と呟いたのはたたら製鉄を話してくれた尾方さん。「地域との関係をどの様な形にするか大切です」と提言された宇田川さん。私たちのメンバーからも「これまでの経験を体系化する制度やシステムも必要」と提案された。
もちろん一回の出会いで、結論やビジョンが生まれるものではありません。しかし、自然と地元の食の中で感動した感性の驚きは、十分アイディアの刺激となりました。
たたら製鉄の旅とその準備の中で「仕事を哲学する」ヒントとビジネスの方向を幾つか得ることが出来ました。その考え方の主軸三点を次に紹介させいただきます。
【仕事するを哲学する】三本柱
■なぜ働くのか?
このごろ会社で、「目的をもて」とか「ゴールイメージを」など、ポジショニングを求める意見をききます。コロナ禍を経て「働き方改革」にも拍手がかかりました。「多様化」とか「不確実性」とか「変化」も耳にします。「デザイン思考」に「アート思考」。視点や価値観の転換と目まぐるしい勢いで問われます。そこで、皆様にお尋ねします、「なぜ働くのですか?」
いろいろな意見があります。本音でいう人もいれば、建前でいう人もいるでしょう。それが上記の図です。
私は、仕事をする原点や理由など人それぞれで、理由に優劣などないと考えています。何でもいいのだと。日々の中で変わっても変わらなくても。退職するまで「細々と暮らすために」働いてもいいと思います。「ローンの返済」でもいいでしょう。
随分昔から「マズローの欲求」などと研修で学び、「自己実現」の必要性など指導されます。私にすれば「体のいい従順な労働者づくり」にしか思えません。給与や環境に不満があっても「高尚な欲求で働きなさい」と。
いいのです。彼女や彼や、奥さんや旦那や子供の笑顔のために働いても。もちろんお客様の笑顔のために、自己実現のために働いても良いのです。でも、働く理由に上下や貴賎があるとは思いません。そうです。生活の為により自己実現が高いとは思えません。欲求にランクを付けるなど実にバカバカしく、リーダーマインドのない管理職が好みそうな説教です。
欲求に下級も上級もありませんが、ただ、そこで考えましょう。ひとは一人では生きてはいけない動物であることを。ひとは生まれた時から「類」という集団の中で育ち、「関係」をもち、「関係」を拡大していくことを。
集団という企業にあれば、ひとや社会との関係が生まれ、関りのなかで成長するのです。自分の欲求の為に仕事をしても、どこかの社会に存在して、関りの中で活動をしているのです。
■類的存在
「ステークホルダー」。企業は利害の対立する存在を意識します。商品やサービスを製造・販売し、社会に存在する限りは必須な関係です。そしてひとは一人で存在しているのではないことを知るのです。
・ステークホルダーとは
一言でいえば「利害関係者」。しかし、対立の関係として考えないほうがいいと思います。「矛盾」というより「アウフヘーベン」する関係です。
企業活動とは、自然やひと・社会に働きかけるのです。極端に言えば「自然を破壊する」ことで人類は発展してきました。人類の成長、人類全員の幸せは、「自然の破壊」を通してのみ実現したのです。その事実から何人たりとも逃れることはできません。
かつては経済成長の名のもとに「公害」が隠蔽されてきました。企業利益重視から不法な販売拡大も許されてきました。株主の為にと企業活動は行われてきました。しかし、現在、そんな考えは学校教育の中でさえ「否定」されています。
私たちは「ひと」として、自然や社会との関係抜きにはありえず、健全な生活を営むことはできないのです。「何のために働く」とは、個人で自由に考えればいいのです。しかし、社会との関係に置いては、自分だけではすまされないのです。
面倒だなどと言わず、自分の位置、会社の存在を社会や自然との関係で捉えましょう。そこにしか今後の自分も会社もないのです。
「矛盾」で終えず「止揚(アウフヘーベン)」へ
「つじつまが合わない」ことを指して使われる、その一方で、同時には成り立たない二つの命題の関係を指す、論理学の用語。(韓非子の故事)
ところが、これを言っているのは机上論界の観念の遊戯。
「正」・「反」の対立を矛盾とするならば、高い位置で「統合」する道がある。
止揚(アウフヘーベン)。
「思考」とは、途中で片付けることではなく「考え抜く」ことで新しい道を見つけ出すことである。それを立証するのが行動を通した人間関係。
■資本主義経済
資本主義経済というと妙に反発し、「自由主義経済だと」と反論される方がいらっしゃいます。これも、どうでもいいのです。名称など何でもいいのです。ただ特徴を分かりやすくつかんでほしい。
・企業が利益を出す方法は三つ
資本主義経済では、企業が「利益」(金儲け)をだす方法は、三つしかありません。ギャング企業なら、強奪とか、詐欺とか犯罪によって利益を出すことも出来るのでしょうが、犯罪で得た金は「申告」できませんからね。それは経済学的にはありえません。政治学や犯罪学ではありますね。戦争による収奪、遠い島への税金対策。そんなことは例外とします。
図を見てください。
・絶対的剰余価値
高く売るか、経費の削減などです。リストラや悪質なサービス残業、派遣社員の不当な雇用などもあります。
「働き方改革」と高尚なことを言っていますが、多くの内実は業務改善による「経費削減」です。「在宅」「ネット」も、美辞麗句に踊らされることなく価値創造の観点から考えましょう。(価値・利益創造の働き方改革の提案については、(株)オウコーポレーションにご連絡ください)
厳しくなると企業は「有名な」コンサル会社に調査を依頼し、利益拡大の支援を求めます。
だいたい業務フローのヒアリングから始まります。全社的な活動ですから期待は膨らみますね。ところが大半のコンサル会社は業務改善で終わります。そして、経費削減の提案です。第一がリストラ、続いて接待・広告・交通費の削減でしょうか。結果は半期でで、利益が出ます。当然です、無駄を斬るのですから。
次が顧客管理ですね。そこで●●という高いシステムの導入が提案されます。事例は素晴らしいのですが、往々にして使いこなせないようです。
・相対的剰余価値
顧客が出たところで、次に考えられる利益を出す方法は、沢山売ることです。市場の独占、シェアナンバーワン。
方法は、プロモーションとか宣伝・キャンペーンですね。いわゆる「代理店」が活躍する領域です。マーケテイングと分析、そして施策。しかし、数多くある競業会社に勝ち抜くには月並みな方法で勝てる訳がありません。やらせや無駄もあります。一方、しっかりしたコンセプトとお客様に寄り添った商品開発で勝ち抜いた企業も沢山あります。地域創生の商品・サービス開発はここですね。
・特殊的剰余価値
新しい製品や事業領域の開発です。時間も費用もかかり、成功が約束される領域ではありません。
最近の成功事例ではiPhone。ちょっと前ならウォークマン、昔ならダイナマイト。誰も造っていない製品やサービスの提供で新たな市場を生みだし、独占的に販売することで得る利益です。
アイディアとスピードのあるベンチャー企業が活躍する世界です。
■仕事するを哲学する
「仕事するを哲学する」領域として、もちろん直接、金銭に関わらない領域、たとえば自分のための家造りや家庭菜園の「仕事」を考えることも大切ですが、「賃金を得る」「利益を出す」領域で考えることにします。
すると「特殊的剰余価値」の領域での仕事を考えた方がよさそうです。価値創造のなかにこそ、仕事をすることの原型があります。ここでの仕事や関係を考えることとします。
次に大切なのは、地域や自然でみるステークホルダーです。その関係で仕事を考えます。
次に経営の貸借対照表を置いてみます。お金の動き、資産の流動ではありません。情緒的価値というか、自然と社会の貸借対照表です。たたら製鉄の「バリューチェーン」分析の過程で閃いた概念です。
一部を見れば環境破壊、しかし次のステップでは環境への配慮。さらには総体としてどのように社会や視線環境へ還元しているか。
この総体の中で、「仕事するを哲学」してみることにしました。
私たちの奥出雲「たたら製鉄の旅」はまだまだ続きそうです。
皆様の参加をお待ちします。
施設名 奥出雲百姓塾 実施者 公益財団法人奥出雲多根自然博物館 住所 〒699-1434 仁多郡奥出雲町佐白335 問合せ 0854-54-0003(奥出雲多根自然博物館) 近くに温泉あり 長寿の湯
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