• ~旅と日々の出会い~
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第九回 覚書・奥出雲たたら製鉄旅を哲学した➁

― 人類の進化の中で「仕事(労働)」を考えた・前篇 ―

はじめに

現生人類のホモ・サピエンス。

600万年前、猿人ともチンパンジーとも分からぬ奇妙な生命体が地球に誕生したらしい。200万年前に人類のような(あるいは猿のような) さまざまな生命体に分化し、その幾つかの生命体が道具や火を使い進化した。シナントロップペキナンシス(北京原人)、ピテンカントロプス・エレクトス(ジャワ原人)、ネアンデルタール、クロマニョン、そしてホモ・サピエンス。
  ※(括弧)は中学の歴史で学んだ種名

ネアンデルタールは40万年前にヨーロッパや中東で進化し、サピエンスは30万年前にアフリカで進化し、7万年前に大量な数がアフリカを離れ、世界へと旅立った。人類の進化のロードでもあり、「果てしなき旅路」の始まりである。それは大型動物の絶滅の序章でもあった。

ホモ・サピエンスとは「賢い人間(知恵ある人)」。他の種を滅ぼし地球に君臨した人類を「賢い」と付けるなど、おごれる18世紀の西洋人らしい発想だ。事実、体格は大きいが小集団生活のネアンデルタールを滅ぼしたのはサピエンスであるという説がある(3.5万年前)。大型動物のマンモスなどを「賢い頭」で捕獲し、食いつくしてきたサピエンスの生存欲と思考から推測すればありえることだ。映画『2001年宇宙への旅』のコンピュータ「HAL」と同じように。

弱小な体格のサピエンスは、生きるため、生存のために旅立ち、旅で得た知恵で創造力を高め言語や芸術を生み、生存のための組織化と組織の組み合わせを習得し、そして道具(石器武器・骨からの針・毛皮等)や火の活用(猛獣を追い払い大量に捕獲する・焼いて煮て美味しく食べる・強固な武器の製造等)に磨きをかけた。

そんなDNAを引き継ぐ人類にとっての「仕事」「労働」とは何であるかを、今回と次回で考えることにする。

恐竜のモック(奥出雲多根自然博物館)

1 「仕事」「労働」を概念規定する

「仕事するを哲学する」を考えるに当たり、前提として「仕事」「労働」をとりあえず大雑把に概念規定する。議論する過程で、この概念を破壊、再規定、細分化することもあろう。

1-1 「仕事」「労働」

働くことで賃金を得る、あるいは契約関係のあるものを「労働」、賃金の交換がなく、雇用と異なる関係や単独を「仕事」とする。奴隷や小作人の働きは「労働」、何かしらの交換物を得る子供の手伝いは「仕事」に分類する。

生活継続のために必要な賃金獲得とともに大切なのが、働くことによる充実感や満足感である成し遂げた「自己実現」。これは「労働」にも「仕事」にも存在する。ギリシャ神話や旧約聖書も「働くこと」を『罰』として扱っているが、働くことが掟を破った罪として捉えるのは「生産性」を忌む階層か「怠け者」だ。

1-2 ハンナ・アーレントの労働と仕事

「第六回『働く』という概念規定を考える」でアーレントの労働と仕事を引用したが、これを「満足度」から再考する。

「アーレントは人間の営みを労働・仕事・活動の三つに分けています。① 「労働」は生命を維持するための営み。 ②「仕事」は耐久性のある物を製作し、それを通じて人間世界を創造する営み。 ③「活動」は他者との共同行為、特に言葉を用いたコミュニケーションです」

そして次のように比較対比して整理した。

『①労働 (Labor)とは

「必要(必需)」necessityに従属。
「労働」は、もとある素材を混ぜ合わせ、生命を維持するための営み。消費される必要物の生産に関わる営み。

②仕事( Work)とは

「仕事」は、思考によって作品を制作する「作品」「工作」「制作」。
人間は有限な(必ず死ぬ)存在なので、時間を超えて世界に存続しつづけるモノの創造に関わる営み。日本語でいう一般的な「仕事」は労働の概念に近い。』

こんなにきれいに分けられないが「働くこと」を「生産的行為」と「創造力の具体化」に分けている。

ハンナ・アーレント『人間の条件』

1-3 ジミー大西とロビンソン・クルーソー

明石家さんまの弟子でありお笑いのジミー大西の逸話である。評価されてきたが絵をかくことを辞めた。その理由を、一作品を描き上げる時間単価とお笑い番組に出演する時間単価を比較すると安すぎるらしい。彼が絵を描くドキュメントを見ると注ぐエネルギーは並大抵のものではなく、今後の創造力の向上を考えれば販売価格以上の、そして価格以外の計り知れない価値があると思う。しかし、現時点の社会評価は番組出演より安価で割に合わない。お笑いの「ネタ」か、笑い芸人という付加価値を使った販売戦略かもしれないが、仕事か労働かを考える参考になる。

山の中でロビンソン・クルーソーのように生きていくとしても、霞を食って生きてはいけない。脱サラをして家族で山の中に入り、雇用関係も給与も得ることのない自活の「仕事」をする。それでも初期は誰かの支援を得るか、これまでの貯えを崩すか、細々と物々交換をしながら基盤を築くしかない。もっと言えば開拓者の如くがむしゃらに働く人もいるだろう。それでもその働きは「仕事」と置く。その理由は後ほど。

川下(かわしも)と呼ばれる製造工程の単純で変化のない肉体「労働」を日々繰り返す二人の若者。彼は一緒に働く女の子に恋をしていた。彼女の顔を見るだけで幸せで充実した日々だった。いずれお金を貯めて告白することを夢見ている。女の子にも夢があった。貯めたお金でダンスを学びにニューヨークに留学することだ。二人には労働を通して叶えたい夢「目的」があり、この作業は決して辛いことではなかった。なによりも食うためではなかった。それでも二人の行為は「労働」と置く。しかし、注意しなくてはならないことは、二人は今でなく未来を描き、それに向かって生きていることだ。

賃金を得ることを「労働」と分類しつつも、心的な領域や主体的な行動の中では一概に「労働」と言い切れない点を問題提起しておく。

「労働と仕事」について、客観的な分類から主体的な行動に目を移してみよう。企業の活動の中で「労働」と置いても、「仕事」の概念で捉える領域があるかもしれない。その条件付けである。

たたら製鉄に従事する人々(絲原記念館)

2 職場で自分を活かす

とある企業で行っている教育(トレーニング)について、その目的と工程の要点を紹介する。

2-1 無知の知

教育(トレーニング)の前提とするのが『変化(自己変革)する』ことである。当事者意識をもって受講することを前提とした教育(トレーニング)であること説明し、そのように行動をとるための演習を行う(主体性)。知識の集積の座学でなく、変化するトレーニングである。

社会は常に変化し続けるのに、自分が変わらなくては「後退」「退化」、「敗北」以外何ものでもないからだ。これは企業経営にもいえることだ。だいたい駄目な会社は変化を怠る。

前提にあるのがソクラテスの「無知の知」。自分には知らないことが沢山あることをつねに意識する、「気づき」の自覚と実践である。

変革も、無知も人から教えてもらうことは可能である。それに沿ってアドバイスを受け自覚し、訂正することも可能である。しかし、変化する、無知であることを知ることは知識ではない。マインドも含めて自分の主体的な実践行為である。教えられることや学ぶことでなく、自らが気づき、試行錯誤して、汗水流して行動しなくては、「変革」や「無知」と継続的に関わることはできない。
ところが年配者や成功体験者、傲慢者にはなかなかできにくい。なぜならば「知識」として受け止めてしまい、変わることを必要としないからだ。

プラトン『ソクラテスの弁明』

2-2 知識・人間力・思考力

ここで、会社で働くことに限らず、変わるために、無知であることに気づくために(働く・生きていくために)大切な3点を説明する。

図「知識・人間力・思考力」
  1. 知識。資格取得やマーケテイング論などの学習だ。この特徴は試験で査定でき、基準を物差しにして評価やランク分けができ、具体的にアドバイが出来る。もっと言えば「傾向と対策」という過去問を基準にして成績の向上を指導できる。なぜならば、知識とは過去の出来事の記憶に過ぎないからだ。暗記の領域。
  2. 人間力。リーダーシップやマネージメントなど、組織を成功や変化に導く個人の資質である。これは常日頃の活動に如実に表れる。残念なことは、変革を求めない企業文化にあって、変わることを提唱するリーダーは異端視され、潰されることだ。
  3. 思考力。考える力である。考えることによって、創造ができ、現状を破壊し、変化を生みだす。だが知識のように測定できない。なによりも自分では分からない。「考えています」というが、その大半は「考えていない」。なぜならば思考のプロセスの大半が説明できないからだ。思考力とはプロセスを明確に提示できなければならない。

変革や気づき、当事者意識は、この「思考力」のプロセスによって具体化され、整理される。学校教育で、また人生で考える機会のなかった人ほど「考え方」が雑であり、なによりも「考え」抜かない。つい、知識に頼る。よくあるのが「あの人はこう言った」「こういう事例があります」という教条主義だ。

私の行う教育(トレーニング)は、徹底した「思考力強化」を通した「自己変革」である(当事者意識)。じゃあ、どうやって思考力を高めるか。すでに述べた「無知の知」とは何であるかを意識しつつ、「なぜ・なぜ・なぜ思考」で問い詰めることである。その手法が前回示した「抽象化と具体化を行ったり来たりする思考と表現」である。

「知識」は過去の成果の集積である。「思考力」は考えることによって切り拓く未来や次のステップの提示である。知識が思考力を高めるが、もろ刃の剣で「過去の成功体験」「習慣」などの古い文化ともなり変化を妨げる。

考え抜く「思考力」の訓練ことそが創造につながる。

かつて新たな生活の場を求めアフリカから長い旅路に出発した我らが祖先ホモ・サピエンスは、何百万年もかけて創り出した他の猿人類にも動物にはない能力、それが「思考力」である。思考力によって芸術をつくり、弱者が大型動物を捕獲する戦略をうみだし、集団でいること集団の統制に気づかせた。それが道具や組織の向上として具体化させた。

「哲学する」もこの「思考力」である。知識や人間力で補うことはできにくい。ゆえに「働くこと」のなかに「思考力」の強化を置くことにする。

海を渡る小舟(上野・科学博物館)

3 哲学する

企業が常に思考力を強化する団体であれば、変化に対し積極的な活動をする。小集団活動やアメーバー経営も会社のやらせだとは位置付けず、思考力として考えればきわめて貴重な活動である。ただ私事だが、私の会社の小集団活動は形だけだった。それも古い体質を称賛する情けない活動たった。
変化を怠る企業はいつか滅びるかクジラのように海の底に戻っていくだろう。

ここで『第一回 あの日、あなたは輝いていた。「変革と提言」』を読み直し、某IT企業の戯言としての「C21運動」としてではなく、どこの企業や組織にとっても必要な「変化・変革」の視点から再度考えていただきたい。いわゆるC21の抽象化である。

アースデイ・ポスター

続く     

【後篇・目次】

3 哲学する
3-1 「仕事するを哲学する」ロジック
3-2 5W1Hで「仕事するを哲学する」の枠をつくる
  ・過去と未来と中間
3-3 ビジョンと実行プロセス(抽象化と具体化)
  ・個の自立とフラットな組織
3-4 バリューチェーンで考える(関係) 
  ・人は一人で生きているのではない

4 仕事を哲学するとは
4-1 webサイト『島根国』で考える
  『島根国』の意味と意義
4-2 存在 鼎に生きる
  ・個と、社会(会社)・自然(次世代)・生存(具象化)
  ・疎外された労働観では暗くなる
  ・滅私奉公では悲しい
  ・共創と共感と感動で働く

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