収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 小野寺賀智さん( 明治23年生)
(昭和 41年2月26日収録)
あるところにおじいさんとおばあさんが、子どもを授かるよう神さまやも仏さまに祈っていました。
おばあさんがお茶を摘んでいたら、 かわいいカタツムリが「 わたしが子になるんでございます」 と言いますから、 手の腹に乗せて帰りました。
明くる日。 おじいさんが酒屋へ薪( たきぎ) を持って行こうと馬に積んでいましたら、 カタツムリは「 苞( すぼ) の中にわたしを入れて、 馬の鞍( くら) につけてつかあされえ。 そしたら持って行く」。
そうしたら、「 たせへせ、 たせへせ… 」 とカタツムリの子は馬を使って、 酒屋の門( かど) へ行きました。そこにはきれいなお嬢さんが三人もおられて、「 まあ、 かわいい」 とお金を苞の中へ入れ、 カタツムリも入れてやりました。 わが家へ帰ったカタツムリはご飯も食べず寝てしまいましたので、 おじいさんとおばあさんは隣のおばあさんに様子を聞いてもらうと、
「 酒屋に娘が三人おれたが、 どの娘さんか嫁にほしい」 と言います。 酒屋へ行って頼みますと、 今度は酒屋の親方が寝てしまいました。
一番上のお姉さんが「 起きてご飯をあがれ」 と言いましたら、「 カタツムリの方( かた) へ嫁に行ってくれれば食べる」「 わたしゃ、 乞食( ほいと) しても行きません」。 しかたなく二番目の娘に言うと「 わたしゃ、紙袋( かんぶくろ) 下げて歩いても行きません」。
一番小さい娘に言いますと、「 行きますから、 起きてご飯を食べてください」。
お父さんは起きてご飯を食べて、 二人の大きい娘は追い出し、 一番下の娘に支度をして嫁にやりました。
ある日。 カタツムリは「 海辺へ行こう」 と行った。 カタツムリは、「この石の上へわしを置いて、 この石でわしをたたきめいで針に糸を通して海へ放ってくれい。下から引いくれたらすぐ上がるから」。
そうしたら、 カタツムリは男になり。 打ち出の小槌を下げて上がってきた。 家へ帰って小槌を振って「 米出え」と言えば米が出る。「錢出え」と言えば錢が出る。たいへんな金持ちになったそうです。
しかし、 二人の姉は、 追い出されたため、 助けてもらわなければならないと、 お父さんのところへ行っても許してもらえませんし、 妹の嫁に行った先へ行っても、「 親にそむくような者は、 絶対に寄せつけてはならぬ」 と言われているので、 二人の姉はずっと乞食をして歩いたそうです。
ですから、 親の言うことはよく聞かねばなりません。
関敬吾博士の分類では、「本格昔話」の「誕生」の項目の中に「田螺(たにし)息子] として登録されている。
語り手の小野寺賀智さんは、 昭和 55 年に 90 歳で亡くなられた。 明朗で魅力的な方だった。ご自分のことを「カブの婆」と称して、 知り合った方々に民話についての便りをこまめに書いておられた。
筆者は昭和37年から 5 年間、当地にいたので、よくお宅へお邪魔した。
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