• ~旅と日々の出会い~
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13.「蟹渕の主」 隠岐郡隠岐の島町上元屋

収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 茶山儀一さん( 明治30年生)
(昭和57年7月30日収録)

 元屋( がんや) の安長( やすなが) の谷の奥に蟹淵( かにぶち) という名前の淵がある。 昔、 元屋の木樵りが木を伐っていたら、 斧を取りはずし、 斧が淵の中へ落ちた。

 にわかに滝の面が沸き上がって、蟹の爪が浮いてきた。

 すると姫さんが下から現れて。落とした斧を持っている。

「 わらわはこの淵の主である。 そこに大きな蟹がおって、 わたくしを痛めて手に合わない。 今そなたの落とした斧がその爪の根に当たって、 爪が取れて、 その蟹が痛さに跳ね回ったので、 その泡が立ったでしょう。 あなたに頼みがあって、 われは現れた」

 また聞いていると「そういうわけで、 まだ片方の爪が残っており、 幸いまだ片爪を出いているから、 もう一回、 あそこの滝の上から斧を落としてくれんないか」と言われる。

 それから、 木樵りは半信半疑だったけれども、 滝の上からその斧を滑らしたところが、 またもや一面に泡になって淵が大暴れになった。そうしてまた姫が水の底から現れてきた。 や はり前のようにまた木樵りの斧を持ってきて、

「 木樵りよ、 おまえの手柄によって、 わたしは急にこの蟹の苦労から、 一応逃れることが出来、おおきに助かった。 その恩徳によって、 おまえはこれから長生きをする。 それから身上がよくなることは保険します。 それからこの安長の谷は水量が豊かであって、 いかなる日照りでもここに水の切れることはない。 わたしはこの村の長者の娘であったけど、 故あってこの淵に身を沈めて主になっているが、 元屋の人の雨がなくて日照りが続いたときには、  ここに来て祈願をするように。  必ずやご利益が現れます。  間違いありません」。そう言って姫は消えてしまった。

 見れば蟹の爪が二つも浮いている。 その後、 たいそうな大豪水( ごうすい) にり、 蟹の大きな二メートルも差し渡しのある甲羅のある蟹の死体が流れていた。それから後は、蟹の妨害することもなくなった。

 だれ言うとなしに、そこは蟹淵と名がついたそうな。

 その木樵りも金持ちになったという話です。

 今でもわたくしが小まいときも、  雨ごいにはそこへ行っていました。まあ今に、とんと昔ね。

解説

島根県教育委員会の民俗調査で、 茶山さんから昔話をうかがった。 昼の休憩時間に、この話をご存じかどうかお尋ねしたところ、 即座に話してくださった。 その場で収録したので、 かしましい蝉の声も一緒に入っている。

この話は、昭和11  年発行の横地満治・浅田芳朗編『 隠岐島の昔話と方言』( 郷土文化社報告第弐輯) が初出だと思われる。 幻想的な内容が茶山さんの語りでみごとに再現され、私もとても嬉しく思った。なお、 原話は平成2 年( 1990 ) に、民放テレビの「まんが日本昔ばなし」で放映された。

出雲かんべの里 民話の部屋 「蟹渕の主

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