収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 茶山儀一さん( 明治30年生)
(昭和57年7月30日収録)
元屋( がんや) の安長( やすなが) の谷の奥に蟹淵( かにぶち) という名前の淵がある。 昔、 元屋の木樵りが木を伐っていたら、 斧を取りはずし、 斧が淵の中へ落ちた。
にわかに滝の面が沸き上がって、蟹の爪が浮いてきた。
すると姫さんが下から現れて。落とした斧を持っている。
「 わらわはこの淵の主である。 そこに大きな蟹がおって、 わたくしを痛めて手に合わない。 今そなたの落とした斧がその爪の根に当たって、 爪が取れて、 その蟹が痛さに跳ね回ったので、 その泡が立ったでしょう。 あなたに頼みがあって、 われは現れた」
また聞いていると「そういうわけで、 まだ片方の爪が残っており、 幸いまだ片爪を出いているから、 もう一回、 あそこの滝の上から斧を落としてくれんないか」と言われる。
それから、 木樵りは半信半疑だったけれども、 滝の上からその斧を滑らしたところが、 またもや一面に泡になって淵が大暴れになった。そうしてまた姫が水の底から現れてきた。 や はり前のようにまた木樵りの斧を持ってきて、
「 木樵りよ、 おまえの手柄によって、 わたしは急にこの蟹の苦労から、 一応逃れることが出来、おおきに助かった。 その恩徳によって、 おまえはこれから長生きをする。 それから身上がよくなることは保険します。 それからこの安長の谷は水量が豊かであって、 いかなる日照りでもここに水の切れることはない。 わたしはこの村の長者の娘であったけど、 故あってこの淵に身を沈めて主になっているが、 元屋の人の雨がなくて日照りが続いたときには、 ここに来て祈願をするように。 必ずやご利益が現れます。 間違いありません」。そう言って姫は消えてしまった。
見れば蟹の爪が二つも浮いている。 その後、 たいそうな大豪水( ごうすい) にり、 蟹の大きな二メートルも差し渡しのある甲羅のある蟹の死体が流れていた。それから後は、蟹の妨害することもなくなった。
だれ言うとなしに、そこは蟹淵と名がついたそうな。
その木樵りも金持ちになったという話です。
今でもわたくしが小まいときも、 雨ごいにはそこへ行っていました。まあ今に、とんと昔ね。
島根県教育委員会の民俗調査で、 茶山さんから昔話をうかがった。 昼の休憩時間に、この話をご存じかどうかお尋ねしたところ、 即座に話してくださった。 その場で収録したので、 かしましい蝉の声も一緒に入っている。
この話は、昭和11 年発行の横地満治・浅田芳朗編『 隠岐島の昔話と方言』( 郷土文化社報告第弐輯) が初出だと思われる。 幻想的な内容が茶山さんの語りでみごとに再現され、私もとても嬉しく思った。なお、 原話は平成2 年( 1990 ) に、民放テレビの「まんが日本昔ばなし」で放映された。
スイッチバック大全: 日本の“折り返し停車場” 江上 英樹/栗原 景▼
明治の津和野人たち:幕末・維新を生き延びた小藩の物語 山岡 浩二▼
時代屋の女房 怪談篇 村松 友視▼
あの頃映画 「時代屋の女房」 [DVD] ▼
『砂の器』と木次線 村田 英治▼
砂の器 デジタルリマスター 2005 [DVD] ▼
砂の器(上)(新潮文庫) 松本 清張▼
フジテレビ開局60周年特別企画「砂の器」オリジナルサウンドトラック▼
出雲国風土記: 校訂・注釈編 島根県古代文化センター▼
小泉八雲 日本の面影 池田 雅之▼
ヘルンとセツ 田渕 久美子▼
かくも甘き果実 モニク・トゥルン (著), 吉田 恭子 (翻訳)▼
出雲人~新装版~ 藤岡 大拙▼
出雲弁談義 単行本(ソフトカバー)藤岡 大拙▼
楽しい出雲弁 だんだん考談 単行本(ソフトカバー)藤岡大拙/小林忠夫▼
人国記・新人国記 (岩波文庫 青 28-1)浅野 建二▼
QRコードで聴く島根の民話 酒井 董美▼
随想 令和あれこれ 酒井 董美▼
日本の未来は島根がつくる 田中 輝美▼
石見銀山ものがたり:島根の歴史小説(Audible) 板垣 衛武▼
出雲神話論 三浦 佑之▼
葬られた王朝―古代出雲の謎を解く 梅原 猛▼
島根駅旅 ─島根全駅+山口・広島・鳥取32駅▼
おとな旅プレミアム 出雲・松江 石見銀山・境港・鳥取 第4版▼
しじみ屋かわむら 島根県宍道湖産大和しじみ Mサイズ 1kg▼
神在月のこども スタンダード・エディション [DVD]▼
クレマチスの窓辺 [DVD]▼
RAILWAYS [レイルウェイズ] [DVD]▼
日本ドラマ VIVANT blu-ray 全10話 完全版 堺雅人/阿部寛 全10話を収録 2枚組▼