収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 家中カンさん( 明治42年生)
(昭和51年7月29日収録)
とんと昔があったげな。
あるところにおじいさんとおばあさんとが猫を飼っていたって。 そして、 おばあさんが大根を干していたら、
「 ばばよ、 ばばよ、 雨が降ってきたぞ」 と、 その猫が言ったって。
「 やれ、 恐ろしや。 こりゃ猫がものを言うようになったら、 離さにゃいけんぞ」。 おじいさんとおばあさんは猫を離したのだって。
おばあさんが麹( こうじ) などを買いに行ってもどりかけたら、 紺の風呂敷を負ったきれいな女が出てきた。
「 おばあさん、 おばあさん、 われはおまえに飼われた猫だ。 われを江戸の吉原へ持ってって売らんか」
「 おまやあ、 吉原へ持って行って売ったてて、 ニャオウ言やあ、わしゃ困るだがや」
「 そげなことは絶対せんけえ、 吉原へ持って行って売れば、 がいな( たくさんな) お金が取れるけえ」。
おばあさんも猫の言うことを聞いて、 猫を吉原へ持って行って売ったって。
そうしていたら、 器量はよいし、 お客はどんどんつくし、 船頭が迷って行っていたのに、 その女がもう寝たと思ったのに、 耳がピリッピリッピリッピリッと振れるのだって。
「 こりゃぁ、 人間の耳が振れるはずはない」。 船頭はそう思って、 またじっと見ていると、 一時( いっとき) したらやはり耳がピリピリピリピリッと振れる。
「 こりゃ、 人間じゃない。 定かならぬ者だ」 と船頭は、 その女を殺したのだって。 そうしたら、 そこの帳場の者が船頭をいじめかけたのだって。 しかし、 船頭は、
「 もう少し待ちなさい。 一時したら、 どんな者になるか分からんけえ」 と言ったって。 そうしているうちに、 その女が大きな大きな大猫の死体になったって。それでそこへ葬ったのだって。
まもなく、 そのあたりから大きなカボチャが生えて成ったって。 そして船頭もまたそこへやって来たって。 船頭はもともとカボチャが好きだったので、吉原の店の者が、その船頭に、
「食え」と言ったところ、
「そのカボチャは、どこからものした( 生えた) か」と船頭が聞いたので、
「こうこうした」と答えたところ、
「 そりゃあ、 そこを掘って見にゃ承知せん」 と船頭が言ったので、 掘って見たところ、 猫の頭のところからカボチャが生えていたって。
もしそれを船頭が食べれば、 命を取られるところだったって。 けれども、 船頭もえらかったので、 食べなかったのだって。
それ以来、「自然生えのカボチャは食べることはできぬ」 ということになったのだって。そのごんべのは。
関敬吾博士の分類によると、 二つの話がいっしょになった話である。 両者とも「本格昔話」 に属し、 前半は「 動物報恩」 の「 狐遊女」 の話で、 ここで紹介の話は狐が猫となっている。 後半は「 愚かな動物」 の「 猫と南瓜」 の話である。 この二つが合体して今回の話が成立している。
昔話も伝承の過程で、このような離合集散が見られることもある。
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