• ~旅と日々の出会い~
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18.「子守歌内通」 浜田市三隅町東大谷

収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 竹内藤太さん( 明治9年生)
(昭和35年6月15日収録)

 子どもを育てるおりに、 りっぱな子守が育てれば子どもがりっぱになるというので、 りっぱなような子を捜して子守に雇うたんです。 学問のある子どもをなあ。

 ところで、 ちょうどその家の親父と隣の親父が泥棒をやっていたそうで、 それでよそから金( かね) を持った者が泊まろうとすれば、 わが家を宿に貸して、その人を殺して金を盗っていたそうです。

 一方、 子守をする女の子は、 それが気の毒でならないと思っておりました。

 さて、 それから、 こんど、 だいぶ金持ちの坊さんが宿を借りて泊まっていたそうです。

 ここにおれば殺されるんですからねえ。子守の女の子は、

 - 今夜は助けてあぎょう- と、 こういう考えで、 坊さんが眠らないうちに、 子守は子の尻をつねって泣かしたんだそうです。

 そうすれば、 子が泣くのをあやさないといけません。 子守はそのときに子守歌にうたったんです。

   りんかあじんと  かあじんと
   ににんがもうそう  ごんすれば
   たそうをせっすと  ごんすぞ
   やまにやま
  かさねて
   くさにくさぁ  かさねて
   デ-ン  デ-ン  デ-ン

 このようにうたったんです。

 ところが、 それが坊さんのことで、 りっぱな学者ですから、 その歌を聞くと、 すぐにその意味を悟られて、 急いでその家を出てしまいなさったそうで、そのため坊さんは助かったそうです。

解説

僧侶が泊まった宿屋はまともな宿ではなく、客が金持ちならば殺して金を奪う宿でした。それでいながら、わが子はりっぱな人間に育ってほしい願いを持っていた。 そんなことで、子守には学問のある娘を雇っている。それは「自分さえよければよい」 とする現今の社会風潮にもよく似ている。

さて、邪悪な宿屋ではあるが、雇われた子守は偉かった。悪にくみすることを潔( いさぎよ) しとせず、わざと子どもを泣かせて子守歌をうたい、学のある僧侶に危険を悟らせようとした。試みは見事に成功し、危ないところで僧侶は虎口を脱し、 無事に逃れることができた。

この話のおもしろさの一つは、機知に富んだ子守の歌と、それを察した僧の教養のすばらしさにある。そしていま一つのおもしろさは、この歌の詞章の内容にある。漢語の持つ魅力だろう。

 りんかあじんと  かあじんと ————–  ( 隣家人と 家人と)
 ににんがもうそう —————————  (二人が申すを)
 ごんすれば ————–———————–  ( 言すれば)
 たそうをせっすと ごんすぞ ————-  (他僧を殺すと  言すぞ)
 やまにやまぁ かさねて ————–—— ( 山に山を 重ねて)
 くさにくさぁ かさねて ————–——  (草に草を 重ねて)〈 草々に= つまり「 早々に」の意味〉
 デ- ン デ- ン デ- ン ————–—- ( 出よ 出よ 出よ)

大意は以下のようになる。

隣の人とうちの主人の
二人が話すのを言いますならば
よそから見えたお坊さまを殺そうと言っています  ( ですから、 貴方は殺されないうちに)
急いでここを出発なさってください

僧は無事に逃げおおせたのである。
関敬吾博士の『日本昔話大成』 に、「本格昔話」「14 愚かな動物」の中に「子守唄内通」として紹介されている。

出雲かんべの里 民話の部屋 「子守歌内通

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