収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 塩山コフエさん( 明治42年生)
(昭和54年8月9日収録)
お父さんが死んで、お母さんと子どもが四人いた。お母さんは働きに行って、子どもたちに食べさせていたと。
ある晩。お母さんは隣村に働きに行き、握り焼き飯を四つ土産にもらって帰りかけたら、アマンジャクが出て「焼き飯ごせ」と言う。
「子どもにやらにゃならんけ、ごされぬ」「そいなら、取って噛むぞ」。
しかたなく、一つやって、急いで帰っていると、アマンジャクは「焼き飯ごせ」と次々食べてとうとうお母さんを引き裂いて食べてしまった。そしてお母さんに化け、子どもたちのところへやって来た。
「お母さんが帰ったぞ」と言った。
二つか三つの小さい子は喜んで飛びついて行く。しかし、大きな子はどうもは違うと気づいて、「行くな」と言うけれど、小さい子どもは飛びついて行ったと。お母さんは、「寝よう」と言ってみんな寝た。
夜中にぼりっぼりっと音がするので、次の小さい子どもが、「お母さん、何食べちょう」と聞いた。「うちの干し大根だ」とごまかしたけれど、本当は一番小さい子どもを寝ながら食べてしまったのだって。
気づいた一番大きな子どもが、二人を連れ家の裏、井戸の側の榊の木に登って。二人に、「あれはアマンジャクだけな。お母さんじゃないけん」と教えてやった。
朝。アマンジャクは、捜しに出て来た。
「井戸の中へ落ちりゃせんかいな」と井戸をのぞくと子どもたちが映っていたので、タモ持ってきてすくっちゃれ」とすくうのだそうな。いくらすくっても子どもがすくえるはずはない。その格好がおかしいので、一人がこらえきれなくなって、「くっくっ」と声を出したので上にいることが分かったアマンジャクは、「どうして上がった」と聞く。「木の蜜に牛の糞つけて上がったわの」と言うと、アマンジャクは。油をつけてまた牛の糞をつけると滑って、井戸の中へ落ちてしまったって。
子どもたちは喜んで木から下りて来たら、井戸の中からアマンジャクが大きな蜘蛛に化けてごそごそ出て来たので、
「親のかたきだ。オトチコセ-チコ」と言いながらたたき殺したって。それで、「夜の蜘蛛は親に似ていても殺せ」と言うそうです。
関敬吾博士の『日本昔話大成』の分類では、「本格昔話」の「逃竄譚(とうざんたん)」に属し、その中の「天道さん金の鎖」として位置づけられている。詳しい解説は出雲かんべの里の「民話の部屋」で確認していただきたい。
隠岐の島町の話ではアマンジャクが登場しているが、関敬吾博士の一般的な話では山姥とか鬼、鬼婆、狼、虎となっている。
隠岐の島町ではアマンジャクの化けた蜘蛛をたたき殺し、「夜出る蜘蛛は親に似ていても殺さなければならぬ」と、由来譚として語られているところに特徴がある。
※隠岐地方では、おにぎりを焼いて味噌をつけたものを「焼き飯」といいます。
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