• ~旅と日々の出会い~
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26.「大歳の火」仁多郡奥出雲町竹崎

収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 田和朝子さん( 明治40年生)
(昭和47年5月5日収録)

あらすじ

 昔あったげな。あるところに旦那さんと女中さんといて、女中さんは新しく入ってきたばかりなので、大歳の晩になると、旦那は、言ったげな。

「おまえに教えておくが、今夜は大歳なので、囲炉裏の火を消さないようによく埋めて寝なさい。明朝は、これで餅を煮るのだから」
「はい」

 女中さんがよくよく火を埋めて寝、朝早く起きるとその火が消えてしまってひとつもないげな。
「あら、困ったことをしたな、旦那さんがあれだけ言われたのに、こりゃどうしたらいいだろうか」  

 戸口を開けて外へ出ると、下の方に火がポーッと見える。
「あら、あそこに火が見えるが、どこへ行くのだろうか、ここへ来れば火を分けてもらって雑煮を作らねば」

 待っていると、こちらの方へ来る。よく見ると葬式の行列のようなだけれど、しかたがないので頼んだげな。
「なんとすみませんが、その火、ちいとばかし分けてござっしゃいませんか」
「ああ、分けてあげるが、この棺桶を預かってごされにゃあげられん」

 女中さんは困ったけれど、どうしようもないのでそれを預かり、臼庭の隅に運んでムシロをかけておいたげな。

 朝、給仕していても女中さんの顔色が非常に悪いので、旦那さんが、
「おまえはえらい顔色が悪いが、なしてだい」と尋ねると、女中さんもしかたなくそのわけを話したげな。旦那さんは、
「いや、そげなことだったか。ほんなら二人して担って捨てちゃらこい」と言われるので、担い棒をかけて女中さんが持ち上げるとひょっこり上がる。けれども旦那さんが担おうとすると重くてとても上がらない。
「まあ、こら、とてもいけんわ。蓋はぐって見ちゃらこい」
「それもようございましょう」

 それから棺桶の蓋を開けてみると、白金がいっぱい入っているだけだげな。
「いや、こりゃあ、おまえは福の神さんだ。わしが女房になってごせ」

 とうとう女中さんはそこの奥さんになったげな。

解説

 この話は、全国的に知られている本格昔話の「大歳の客」の中にある「大歳の火」のこと。

 大晦日の夜は寝るのではなく、また、囲炉裏の火は消さずに新年に持ち越す。これが継続の意味を示し、一家繁栄に通ずるとされていた。このような風習を背景にしてできた話だ。

 女中(お手伝いさんのこと)が棺桶と思った桶は、実は正月の床に飾る年桶だった。正月の神が女中の心を試したのだ。火を再生しようと努力した彼女の勇気を讃え、幸せを授けた話である。

出雲かんべの里 民話の部屋 「大歳の火

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