収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 田和朝子さん( 明治40年生)
(昭和47年4月30日収録)
昔。あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
正月の若水を汲みにおばあさんが行って、水を汲んでいたところ、杉の木にヨズクがとまって、
♪ テレツケホーセー ホーホー
テレツケ ホーセー ホーホー
と鳴くので、
「われはヨズクか、わしゃ福づくだ」と言っておばあさんが水を汲みました。その水を家へ持って帰って、台所の流しへ置いて、餅を煮て食べるため、その水を汲みに行ったら、水桶の中に白いものがたくさんあるではありませんか。何があるのだろうかと思っぜてん よく見たら、なんとそれは白金(しろきん)ではありませんか。
おばあさんはそれを膳に置いて、神さまのところへ持って行って飾っていました。そこへ隣のおばあさんがやって来ました。
「まあ、ここにはどげしたことかい。えらいたくさん、銭がああが」と言いますので、その家のおばあさんが、
「そりゃあ、おらが若水汲みに行きて、水ぅ汲んなかいにヨズクが来て、テレツケ、ホーセー、テレツケ、ホーセー言いもんだけん、『われはヨズクか、わしゃ福づくだわ』言いて、持ってもどって流しに置いて餅を煮て食わぁと思うたら、ちゃぁんといっぱい、こうがあったもんだけん、そうかぁ、神さんに飾っちょうとこだわね」と答えました。
「やあ、こりゃいいことを聞いた。おらもほんなら、いんでそげぇすうぞ」と隣のおばあさんは、それから、すぐ翌日の朝、水汲みに井戸へ行って、水を汲んでいたところ、またヨズクが来て、木にとまって、
♪テレツケ ホーセー
テレツケ ホーセー
と鳴くので、「われはヨズクか、わしゃウズクだわい」と、「福づく」と言うところを聞きまちがえて、「ウズク」だと言ってしまったばっかりに、帰ったらとても体がうずいて、とうとうそのおばあさんは死んだそうです。
それで、他人がよいことをしたからといって、自分も真似をしてよいことをしてやろうと考えることは、まちがいということです。
それで昔こっぽし。
お宅でうかがった話である。
残念ながら関敬吾博士の『日本昔話大成』にも出ていない単独伝承の話であるが。わが国の昔話に多い隣人タイプをしていることはお分かりいただけると思う。
話の舞台であるが、神との交流が許されるまだ薄暗い早朝に設定されている。
さて、神の使いか、神自体かも知れないフクロウに向かって、主人公は「われはヨズクか、わしゃ福づう ずく」と縁起のよい言葉を発しところ、言霊信仰の作用で幸せになるが、真似をした隣人は「福づく」を間違えて「疼く」と不吉な言葉を言ったたため、言霊信仰により不幸な結果を招くのである。
このようにこの昔話は、古代信仰を背景に持ったものなのである。
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