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35.「キツネとカワウソとサルの拾いもの分配」松江市玉湯町下大谷

収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 春木 務さん( 明治44年生)
(昭和61年8月18日収録)

あらすじ

 とんと昔があったげな。キツネとカワウソと、それからサルが塩と小豆とゴザを拾ったげな。それでキツネが言うことには、

「おまえ、サルさん、木の上にいてだけん(いるのだから)、ゴザがいいかも知れん」とゴザをやった。それからカワウソには、

「おまえは水のああとこにおってだけん、塩気がなかろうから塩を持っていんだらええ」。カワウソは塩をもらって行く。キツネは、

「ほんなら、おら、小豆持っていぬる」と持って帰った。

 明くる日になった。

 サルは木の上にゴザを敷いて寝たら、滑って大怪我をするし、カワウソは塩が溶けてなくなってしまった。 ところが、キツネは小豆を腹いっぱい食った後、小豆の皮を顔の方にひっつけて、二人が怒ってやって来たら、「うう-ん、おらもおまえ、ものが出てえらい目にあった」と言って、二人をだましたということだ。こっぽし。

解説

 出雲かんべの里館長の錦織明氏が大谷小学校長だった頃、語り手の春木務さん(明治四十四年生)を紹介して頂いた。出雲弁の素朴な語りで、筆者の希望に次々と語り、歌ってくださった。

 私が勤務していた島根大学の研究室にアメリカのセントラルワシントン大学から留学してきたアリータさんを、つれお訪ねした時も大変歓迎された。

 さて、「キツネとカワウソとサルの拾いもの分配」について解説する。

 関敬吾『日本昔話大成』によれば、動物昔話の「動物分配」の中にある

 類話は東北から九州まで分布している。福岡県築上郡や高知県高岡郡などではキツネに代わってタヌキが主人公になっている。どちらかというとキツネの方が多いようだ。島根県内では大田市富山町や江津市都治町に類話がある。大田市の二例ではキツネとタヌキの両者の場合が別個に存在し、江津市の方はタヌキとなっている。

 ここ玉湯町ではキツネが主人公で、その知恵を生かして狡猾者たる本領を発揮し、人のよいサルやカワウソを騙して一人だけよい目を味わうという結果で終わっている。ここで思い出されるのが「猿蟹合戦」であろう。

 今回の話はサルが被害者になり、「猿蟹合戦」で蟹の柿を独り占めしたサルが罰を受けることはない。

 また、似た話として「猿と川獺の交換」ある。

  1. 猿は、豆の実を食い、皮はからだにはりつけて水に潜ると魚が獲れると主張。川獺は、茣蓙は木の上に敷いて寝るとよく眠れると主張。お互いに交換する。
  2. 猿は川獺のいうとおりに実行したが一睡もできなかった。川獺は一匹の魚も獲れなかった、お互いに交換したものを返すことにした。

どことなく類している。

出雲かんべの里 民話の部屋 「キツネとカワウソとサルの拾いもの分配

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