収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 大滝忠敬さん( 明治38年生)
(昭和52年7月31日収録)
昔。あるところにな、じいさんとばあさんがおった。
「ばばよ。今夜は焼き餅焼かあや」
囲炉裏で焼き餅を焼き、腹いっぱい食ったげな。ところが、一つ残った。「ばば、食えな」「じいさん、食わっしゃい」。譲り合っていると囲炉裏の隅の穴に転がりこんだ。
じいさん、尻からげて、囲炉裏の隅っこの穴からもぐって行ったが。途中に地蔵さんが立っとる。「なんと、地蔵さん。ここを焼き餅が通りゃせだったかの」「うん、さっき通ったわ」「そうですか」。
次々地蔵さんが立っているので三体目の地蔵さんは「あんまりうまさげなもんだけんなぁ、一口かじってやったわい」と言う。
じいさん、それからまた一生懸命で追っかけて行ったら、何やら音がする。
〽猫さや来ねば、
国ゃわがもんだい。
スットンカタン。
スットンカラン。
と言って、ネズミが、米ついちょる。
じいさん、物陰から、
「ニャーオー」と…、何とネズミがおびえまいことか。
「そら、猫が来た」っていうので、みんな一目散に逃げていった。後には米がどっさり残って、じいさんはその米を臼からすくい上げて、戻ってきた。
これを聞いた、隣におった欲の深いじじとばばが、「われわれも一つやってみるか」「うん、よからぁ」
囲炉裏の側の穴の中に焼き餅を入れてやった。
じいさん、尻つば(尻からげ)して、後から追っかけていったわい。
それから、三番目の地蔵さんを通って行ったところが、ネズミが、
〽猫さや来ねば、
国ゃわがもんだ。
スットン カタン。
スットン カラン。
って臼ついちょるわい。
じいさん、物陰から、
「ニャオー」って、猫の鳴き真似をしたところが、
「そりゃ、また夕べのじいが来た。今夜、敵討ちやるか」
「よかろう」と言うので、ネズミがバラバラバラッと飛び出してきて、じいの足や手に食いつくやら、身体中あっちこっちへ噛みついたので、じいは血だらけになって、米どころかほうほうの体で戻ってきたちょ。
その昔のスットンカタン。
「ネズミと焼餅」について、隠岐の中でも地域別な特色がある。まず隠岐型として島前地区(海士町、西ノ島町、知夫村)、島後地区(隠岐の島町)に共通していることは、爺と婆が焼き飯(チャーハンではなく、隠岐独特の小醤油味噌を焼いて握り飯の上にまぶしたものを、現地では「焼き飯」と呼んでいる)を二人で食べるが、一個余り、それをお互いに譲りあう点である。これを「謙譲型ネズミ浄土」とする。
次に異なる点は、島前地区は畑や漁に出かけるなど、屋外で焼き餅を食べる屋外型であるのに対し、島後地区は家で焼き飯を食べる屋内型である。
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