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38.「敬助の浄瑠璃聴き」松江市八束町二子

収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 足立チカさん( 明治27年生)
(昭和44年7月22日収録)

あらすじ

 とんとん昔があったげな。

 敬助がお月さんの夜に下駄はいてカランコロンカランコロンと寺津へ行きよった。

 そげしたとこめが、寺津の阿弥陀さんの堂で、琵琶のような三味線をデーンデーンと弾くもんがおお。敬助も好きだだけん、

「今晩は、ああおまえさんは義太夫をやらっしゃぁますか」てて言って行きたら、
「はい、まあ下手な横好きで,マネごとですが」て言う。
「なんと、おらも好いちょうが、一段聴かせてごさっしゃらんか」てやなことだった。
「そんならまあ、聴いてごさっしゃい。ここに座布団の上に座ってごしぇぇ」
「いや、ここで結構ですが」
「いいや、必ずここに座って聴いてごさな、義太夫やらん」

 浄瑠璃弾きがそう言うので、
「ほんなら、まあ座らせてもらいます」てて、敬助が座った。

 そうしたとこおめが、
「何やあましょか。太閤記の十段目が十八番でございますが」
「そんならそれを聴かせてごせ」

 デーンデーンと太閤記の十段目を夕顔棚からやぁだいたげなが、

 そうしたとこめが、なんとけぇ、その三味線弾きめが、座布団ぐるめにクルクルクルーっと敬助を巻いて天井へ上げてしまった。

 天井へ上がったとこおが、鏡のような目をしたクモがおったげな。

 そうから、敬助はきょうとておぞてねぇ(恐ろしくて恐ろしくて)
「助けてぇー、助けてぇー」てて、天井でずんどん大騒ぎしたら、

 堂のそばの人が目を覚ましてションベ(小便)しに出て、とうとうどげだだやら堂の方で、「助けてぇー、助けてぇー」てていう者がああだけん、

 そおから、

ーまあ、こりゃ大事だわーてて、
「まあ、早こと堂のかどまで出さっしゃい」てて、寺津じゅう触れ回って、みんなは熊手やら鎌やら持ってきて、天井をぶち割ったら、敬助はクモの巣の中へ引き入れられて,今まあ食われぇばっかりのとこだった。

 そぉおを寺津の人たちが助けてねぇ、クモを退治したげなてぇ話で、

 そればっかぁ、こっぽぉ。

解説

この話は、関敬吾著『日本昔話大成』にあたったが類似する話はない。ただ、本格昔話「愚かな動物」の「蜘蛛女」が近い。

正確にいうなら、「敬助の浄瑠璃聴き」は昔話ではなく伝説に属する。それは寺津地区の堂というように特定の場所があげられているからだ。

同じ地区の安部伝さん(明治18年生)から、赤坂の寺の堂に出る化け物の話をうかがったが、大筋が「敬助の浄瑠璃聴き」と同じだった。面白いことだ。

出雲かんべの里 民話の部屋 「敬助の浄瑠璃聴き」

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