• ~旅と日々の出会い~
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46.「ネズミ経と古屋の漏り」隠岐郡隠岐の島町中里

収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 半田弥一郎さん( 明治45年生)
(昭和57年7月27日収録)

あらすじ

 昔。山奥に一軒家があり、おばあさんが一人で住んでいました。旅回りの坊さんが、泊めてもらうことになりました。

 おばあさんはお粥などを坊さんに食べさせ、ふと思いついて、
「仏さんを拝むことを知らんので、今夜はお経を教えてごさっしゃいな」
「教えて進じるだ」と坊さんは答えたが、その坊さんは偽者で、お経を読むことは知らなかったのです。
「どう言わいいかいな」坊さんは考えていましたら、庭の隅からネズミがチョロっと出て入りました。そう思っていましたら、ちょっと止まり、しばらくすると、ネズミがチョロチョロと歩きました。坊さんは、このことをお経に読みました。

  ひょろひょろござった
  はいつくぼった

 これを繰り返し坊さんが言いました。

 おばあさんは、それをしっかり覚え、毎晩唱えておりました。

 ある晩。盗賊がおばあさんを殺してお金を盗ろうとその家へ来ました。おばあさんが仏さんの前で、
「ひょろひょろござった」。こう言いいます。盗賊が驚いて、
「ばあさんは、わしの来たのを知っているかいな」。あわててしゃがむと、おばあさんが、
「はいつくばった」と言います。歩きかけると、
「ひょろひょろござった」。また止まって四つんばいになると、
「はいつくばった」。盗賊は、ばあさんが寝るまで待っておろうと、屋根の庇(ひさし)へ上がって待つことにしました。雨がしょぼ降ってきました。しかも今度は大きい狼が、
「ばあさんを噛んでやらぁ」と思ってやって来ました。

 間もなく、すごい雨になりました。雨漏りがするので、おばあさんは早速 盥(たらい)やバケツを雨漏りの下へ当て
「獅子(しし)、狼より雨の漏り殿が一番恐ろしいわい」と独り言しました。狼は、
「わしよりも恐ろしいものが世の中におる。その雨の漏り殿ってどういう者かな」と考えているとき、屋根にいた盗賊は雨がかかって大変なので、下へ飛び降りました。それがちょうど狼の背中の上でしたので、狼は、
「雨の漏り殿が背中の上に降りた。こりゃ大変だ」と逃げだしました。

 盗賊は盗賊で、
「大きな者の上に降りたもんだな。ばあさんが仏さんを拝んでおるもんだけ、仏さんの力でこういうもんを呼び出せたのじゃろう」。こう考えて、急いでわが家へとんで帰りました。

 おばあさんは盗賊にも殺されず、狼にも噛まれずすみました。

 それというのも、偽の坊さんから教えてもらったお経を、本当のお経と信じて拝んでいたため、仏さんはちゃんとおばあさんを助けてくださったのです。

 スットンカラン。

解説

 県立隠岐島前高校郷土部が都万村(現在は隠岐の島町都万)の民話調査を行ったおり、語り手の半田さんが前もって録音してくださった一つである。

 この話は、有名なものなので、皆様もどこかでお聞きになったであろう。

出雲かんべの里 民話の部屋 「ネズミ経と古屋の漏り」

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