収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 稲垣カズコさん( 明治39年生)
(平成3年11月16日収録)
昔。だらず婿がいた。また山の山の奥の方の一軒屋で呼ばれえことになって、川には橋はなかって、飛石を渡ってぴょんこぴょんこ跳んで呼ばれて行くことだけん、たいへんはずんで行きたげな。
そしてお膳が出たら、大きなお椀にお団子がいっぱい入れて、そうして、豆の入った、今でいうぜんざいのことで、「まいこと」言って何にも例えられんほどまいご馳走だったげな。
そうから、「いんだら忘れんやにかかさんにこっさえてもらわないけんがなあ」と、まことに団子のことばっかあ思っておったげな。
「今日は何て言っていい日だったやら、一番好きな団子のご馳走呼ばれて、こら忘れんやにいんで言わんなんけん」て、ま、そこの家の人に礼の一つも言わならんに。
そうからいよいよ別れて自分のとこへいなんならんに、駆けってその飛石をぴょんぴょぴょんぴょん渡りよったら、「団子」てことが頭から忘れてしまって、「困ったなあ。どげだったかいなあ」て考ええだどもなかなか「団子」てことが言われん。
いろいろ考えたども、どうもしゃんとしたことが分からん。
そうから、わが家、もどって、
「今もどったわ」て言ったら、そこのおかかが出て、「もどったか。ご馳走があったらがの。何のご馳走になっただや」「はあー”ご ”のご馳走になったで」「”ご”のだけ言ったてて何のことだい分からんがな。どぎゃんもんだった」。
あんまり、かかが責めえもんだけん、「ああ、あげだった。。ヒョンゴ、ご馳走になった」
「ふーん、そらまた変わったことだなあ。どげなもんだったかい」
「どげもこげもねえわい。ヒョンゴのご馳走になった」
そうしたら、かかさんが怒って、け、そこに火を吹く吹き竹があったやつ取って、
「こーんなばかめが、ほんに。だらくそにもほどがああ」てって、
その吹き竹でけえ、頭をツッカーンとこうたたいたげな。そげしたら、
「やーあ、痛かった。こな、かかさん、たいてい知れたもんだがの。言われんってたてて言っちょうにかあに。はーあ、痛かった、痛かった。ま-あ……、あら、まあここに団子みたいな瘤が出たがの、まあ、かかさん、こらあ。ここ見てごっさい」て言った。
「はあ、ほんだったなあ。そーらまあ団子より大っきな瘤だがなあ」
「あっ、あげだった団子のご馳走だった」てって、だらず婿がそこで初めて分かったということで、こっぽり。
皆さんもどこかで聞かれたことのある懐かしい昔話だと思う。ただ、婿が「ご」と誤って言うところは、地方によって「ピットコショ」「ヒョンゴ」など様様である。
関敬吾『日本昔話大成』によれば、笑話の「愚人譚」、「愚か聟(息子)」の中に「団子聟」として、この話型が登録されている。
山陰地方ではこれらを佐治谷話として語られている場合も多い。
スイッチバック大全: 日本の“折り返し停車場” 江上 英樹/栗原 景▼
明治の津和野人たち:幕末・維新を生き延びた小藩の物語 山岡 浩二▼
時代屋の女房 怪談篇 村松 友視▼
あの頃映画 「時代屋の女房」 [DVD] ▼
『砂の器』と木次線 村田 英治▼
砂の器 デジタルリマスター 2005 [DVD] ▼
砂の器(上)(新潮文庫) 松本 清張▼
フジテレビ開局60周年特別企画「砂の器」オリジナルサウンドトラック▼
出雲国風土記: 校訂・注釈編 島根県古代文化センター▼
小泉八雲 日本の面影 池田 雅之▼
ヘルンとセツ 田渕 久美子▼
かくも甘き果実 モニク・トゥルン (著), 吉田 恭子 (翻訳)▼
出雲人~新装版~ 藤岡 大拙▼
出雲弁談義 単行本(ソフトカバー)藤岡 大拙▼
楽しい出雲弁 だんだん考談 単行本(ソフトカバー)藤岡大拙/小林忠夫▼
人国記・新人国記 (岩波文庫 青 28-1)浅野 建二▼
QRコードで聴く島根の民話 酒井 董美▼
随想 令和あれこれ 酒井 董美▼
日本の未来は島根がつくる 田中 輝美▼
石見銀山ものがたり:島根の歴史小説(Audible) 板垣 衛武▼
出雲神話論 三浦 佑之▼
葬られた王朝―古代出雲の謎を解く 梅原 猛▼
島根駅旅 ─島根全駅+山口・広島・鳥取32駅▼
おとな旅プレミアム 出雲・松江 石見銀山・境港・鳥取 第4版▼
しじみ屋かわむら 島根県宍道湖産大和しじみ Mサイズ 1kg▼
神在月のこども スタンダード・エディション [DVD]▼
クレマチスの窓辺 [DVD]▼
RAILWAYS [レイルウェイズ] [DVD]▼
日本ドラマ VIVANT blu-ray 全10話 完全版 堺雅人/阿部寛 全10話を収録 2枚組▼