• ~旅と日々の出会い~
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48.「毘沙門天からの福もらい」邑智郡美郷町都賀本郷

収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 高橋ハルヨさん( 明治35年生)
(昭和49年7月29日収録)

あらすじ

 昔。正月の一日の朝間に宮参りをしており、隣の爺さんに、
「参りなさらんかい」と言ったら、
「神さんによろしゅう言うて、福の神さんがありゃあ、もろうてもどっちゃんさいや」と言う。
「参りもせんのに…福の神はだれがやろうにゃあ」と思って。

 隣の悪いおじいさんが参って「福の神さんは、わしに授けてやんなさい。隣は横着して参らんが、わしゃあ参っただけえ」と一生懸命頼んだげな。そしたら、高いところから、何か袋が落ちたそうな。

「ありがたよ。福の神やわしがもろうた。大けな音がしたけえ、金がえっとある」と袋の口を開けたら、人の首が出た。「やぁれ、こがぁなもんなら、隣の親父い投げこんでやるがええ」と腹をたてて、人の首を抱えてもどったげな。

 そうして隣のじいさんの家の窓から、
「もどったで。福の神ぅもろうたでやるで」と、その首を隣の家の座敷へ投げこんだげな。
「わしゃあ横着うしたのに、あんたあ福の神をこれえくださるかい。すまんことをしたのう」と言う。
「なに、喜びゃあがったけえて、人間の首だぁや。たまげあがるけえ」と思って、自分の家へ帰るとすぐに窓を閉めて寝ているのがよいと思ってそうしたげな。

 首を投げこんでもらった家では、袋を開けてたら、黄金がいっぱい入っていて、
「もったいないことだったのう。お初穂ほどないと持って行かにゃあすまんけえ、礼とぼに行こう」と思って、神さんに供えて、お燈しをあげて拝んで、膳の中へ小判のお初穂を入れ隣へ持って行って、
「おっつぁん、おんなさるかな」と言ったら、
「じいさん、寝てしもうとらあな」と言って、ばあさん、えらい声が荒いげなから、隣のよいじいさんは、頼むけえ開けちゃんさいや、お礼に来ただけえ」。

 あんまり言うものだから、ばあさん、ちょっとばかり開けたら、
「これにゃあ、えっともろうてもどりんさったことだろうけえ、こがぁにゃあ要るまいが、そいでた まもげ心ばかりのお初穂だけえ、どうぞしもうといちゃんさい」と言って小判を持って行ったものだから、ばあさんは、魂消返って、
「どがぁしたことか」

 それから、じいさんもあつ起こきう ぞあうごがん って、あんまり腹が立つものだから、また宮へ馳けって参ったげな。

 それから、神さんに悪口雑言を言ったら、神さんが出られて、
「しかたがないよし。んおじようまえは平生横着で、今朝早う参ってごいたけえいうてもお初穂をやることはできんのよ。隣のじいは平生から真情に参ってごいたで、それがお金になっただけえ、」ということを神さんが言われたそうでなあ。

 それこっぷり。

解説

 稲田浩二編『日本昔話通観』の分類で見ると、この話は「毘沙門の福授け」として登録され、全国的にも類話がある。筆者も山陰両県でいくつか同類を収録しており、山陰でも親しまれている昔話である。

出雲かんべの里 民話の部屋 「毘沙門天からの福もらい」

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