• ~旅と日々の出会い~
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51.「エンコウ婿」浜田市三隅町鹿子谷

収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 山川テルさん( 明治25年生)
(昭和35年1月31日収録)

あらすじ

 昔、おじいさんとおばあさんと娘が三人おりました。

 おじいさんが田の水を見に行けば、水の道をはずしてあります。

 元のように水を当てておけば、エンコウ(河童のこと)が後からやって来てそれをはずします。おじいさんはエンコウに、「家に娘が三人おるけえ、どれでも一人やるけえ、水をはずしてくれんなや」と言うと、
「娘をもらわれりゃ、はずしゃあせん。娘をくれえ」と答えました。

 明くる朝、おじいさんが、いくら経っても起きません。一番上の娘の方がやって来ました。
「お父さん、起きてご飯を食べんさい」「ご飯を食べようがのう、おまえ、エンコウの嫁さんに行ってくれんかい」。  おじいさんは頼みました。「だれがエンコウの嫁やなんかに行こうかい」娘はそう言って逃げて行きました。そうしたら中の娘が来て言いましたげな。それも、「エンコウの女房やなんかに、だれが行こうにゃあ」と逃げましたげな。そこで三番目の一番末の妹が行って言いました。「お父さんが言いんさることなら、どこへでも行きます」。おじいさんは、「おお、行ってくれ、すまんが」言って、起きてご飯を食べました。そしてその娘に、「何がええかい。要るものを買うてやる」と言います。

 娘は針を千本買ってもらってエンコウの家へ行きましたげな。

 行ってみますと向こうのお母さんには虱がいっぱいおります。それで娘はその虱を取っては、持って行った針に挿し、一つ取っては針に挿しして、とうとう千本の針をみんな使ってしまいました。

 そうするとエンコウのお母さんは、あんまり楽になったので、「兄いが出た留守だけえ、いんでくれえ、よう虱を取ってくれてありがたぁ。そいから、この箱をやるけえ、いんで悲しいときにゃあ、開けて見てくれ」と言って、その箱をくれ、また、猫の皮も娘にやりましたげな。「もし、息子がもどりよったら早う薮に入って、猫のふりをしてニャンニャン言っておれ」と言いました。

 それから、帰って行く途中、向こうから息子が来たのですけれど、娘はもらった猫の皮をかぶって、薮へ飛び込んで、ニャンニャン鳴きました。息子は猫がいるかと思って、そのまま通り過ぎてしまいました。

 帰ってみれば、姉さんたちは着物をたくさん広げて虫干ししております。それから、「悲しくなったときに開けてみなさい」ということだったからと、エンコウのお母さんの言葉を思い出して、箱を開けてみましたら、姉さんたちのよりもまだまだきれいな着物が、たくさんたくさんありましたげな。

 やっぱり、親の言うことを聞く者でないとだめだということです。

解説

 関敬吾『日本昔話大成』では、本格昔話の婚姻・異類聟に該当する。

 筆者がこの研究を始めて最初に訪問させていただいた時、聴かせていただいた記念すべき話の一つである。コタツに当たりつつ、ネコもそばにいて、小学校低学年の孫の男の子二人も一緒だった。そのときのことが昨日のことのように鮮明な印象で残っている。懐かしい限りである。

出雲かんべの里 民話の部屋 「エンコウ婿」

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