収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 徳山千代子さん( 明治37年生)
(昭和47年2月26日収録)
昔々、遍路さんがサイの神さんのところで休んでいました。
さて、夜中になって、「サイの神さん」と起こす者がおりました。箒(ほうき)の神と檐桶(たご)の棒の神でした。「村にお産がある。時間になったから、サイの神さん、行きましょうや」「そんな一緒に行くだわい」。神さんたちは村へ下って行き、夜明けに帰ってきた。遍路さんが聞き耳を立てていると、「よかった。お産は無事にすんだけど、男の子の方は気の毒だいど、しゃあがねえだな」「女の子は、がいに幸せな子で、一日に塩を三合も使う身分を持って生まれとるけど、男の子は一年に一合の塩を使うだけしか運を持っておらんが、しかたがねえだわい」と話し合っていたそうです。
遍路さんは、「おかしなことを言うわいな。わしゃ夢見ちょっだらあか。とにかく聞いてみら分かっだけん」と、それから村へ下って「夕べ、この村に産がありましたか」と聞いたら、「ありました。男の子と女の子と生まれて、女の子の方は、特にいいとこの子でもないけれど、男の子の方は、とてもいいとこの子だ」と話してくれたそうです。
何年も経ちました。遍路さんは、神さん の言ったことを確かめようと、その村へ行きました。そうしたら、男の子は死んでしまってもうおりませんでした。しかし、女の子は酒屋の嫁さんになり、とても繁盛しておりました。村の人に男の人のことを聞きますと、 「身体が弱いでもないのに、することなすことが、いい方へ向かんで、乞食のやあな生活しとって、酒屋さんの嫁さんが同じ年の同じ日に生まれたいうで、兄弟のようにかわいがって、いつも握りして食わしたりしちょったに、旦那さんが奉公人にも示しがつかんし、家へ入れて食わすっことはならん、言われて、しかたがないだけん、風呂場へ連れて行って、火焚くとこの釜の前へ座らして、そこでいつもご飯食べさしておったのに、け、こっとり死んだとえ。その女の子の方は墓立ててやって、今でも祀ちょとえ」と話してくれたそうです。
ですから、人間はいつもいいことしなければいけませんよ。ことに女の子は子どもを生むとき、箒の神さんも檐桶の棒の神さんも回り荒神さんも、みな寄ってこられなければお産はできないのだから。ちゃんと扱わなければいけませんよ。
この話は本格昔話の「運命と致富」に属し、「産神問答」の名前で分類される。さらに、男女の福分型、炭焼きの子型、虻と手斧型、水の神型に分かれている。徳山さんの話は「男女の福分型」に属する。
サイの神とは集落の境に祀られている神で、道祖神ともいわれる。集落を守護し、集落に子どもが生まれるおり、運命を決める役割を持っている。因幡では縁切りの神で、嫁入り行列はその前を避けて通る。伯耆では縁結びの神と対照的な神の性格とされている。いろいろあっておもしろい。
スイッチバック大全: 日本の“折り返し停車場” 江上 英樹/栗原 景▼
明治の津和野人たち:幕末・維新を生き延びた小藩の物語 山岡 浩二▼
時代屋の女房 怪談篇 村松 友視▼
あの頃映画 「時代屋の女房」 [DVD] ▼
『砂の器』と木次線 村田 英治▼
砂の器 デジタルリマスター 2005 [DVD] ▼
砂の器(上)(新潮文庫) 松本 清張▼
フジテレビ開局60周年特別企画「砂の器」オリジナルサウンドトラック▼
出雲国風土記: 校訂・注釈編 島根県古代文化センター▼
小泉八雲 日本の面影 池田 雅之▼
ヘルンとセツ 田渕 久美子▼
かくも甘き果実 モニク・トゥルン (著), 吉田 恭子 (翻訳)▼
出雲人~新装版~ 藤岡 大拙▼
出雲弁談義 単行本(ソフトカバー)藤岡 大拙▼
楽しい出雲弁 だんだん考談 単行本(ソフトカバー)藤岡大拙/小林忠夫▼
人国記・新人国記 (岩波文庫 青 28-1)浅野 建二▼
QRコードで聴く島根の民話 酒井 董美▼
随想 令和あれこれ 酒井 董美▼
日本の未来は島根がつくる 田中 輝美▼
石見銀山ものがたり:島根の歴史小説(Audible) 板垣 衛武▼
出雲神話論 三浦 佑之▼
葬られた王朝―古代出雲の謎を解く 梅原 猛▼
島根駅旅 ─島根全駅+山口・広島・鳥取32駅▼
おとな旅プレミアム 出雲・松江 石見銀山・境港・鳥取 第4版▼
しじみ屋かわむら 島根県宍道湖産大和しじみ Mサイズ 1kg▼
神在月のこども スタンダード・エディション [DVD]▼
クレマチスの窓辺 [DVD]▼
RAILWAYS [レイルウェイズ] [DVD]▼
日本ドラマ VIVANT blu-ray 全10話 完全版 堺雅人/阿部寛 全10話を収録 2枚組▼