• ~旅と日々の出会い~
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53.「法事の使い」出雲市大社町宇龍

収録・解説 酒井 董美 イラスト 福本 隆男
語り手 阿部文四郎さん( 明治40年生)
(平成3年10月28日収録)

あらすじ

 あるところにお母さんと兄弟が二人おったと。そいで弟は、東六という名だった。そいでまあ睦まじく百姓をしておったが、お母さんが突然、急死したと。それで東六に、

「東六や、お寺へ行きて和尚さんに拝んでもらわにゃいけんけん、おまえ行きて来いや」と言う。

「おら、行くだども、和尚さんててどんな格好をしとられえか」て。

「黒い着物着ちょうなはってすぐ分かあけん、その和尚さんが出なはったら、『うちの母が死にましたけん、すぐ来て拝んでください』て頼んで来いや」て。

「はいはい」と言って東六は一生懸命、お寺へ行きたと。玄関のところに、鴉が二羽止まっておった。で、

「これがその和尚さんだらか」と思って、「和尚さん、うちの母が死にましたけん、すぐ来て拝んでください」て言ったら、

「カアー、カアー」て言うたてて。

「かあじゃございません、母でございます。早く来てください」て言ったら、また、「カアー、カアー」言って飛んで逃げたので腹を立てて家へ帰ったと。あんちゃんは「東六や、和尚さん、すぐ来なはあか」て言うたら、「いや、

『カアカア』言うて、いっそ『来う』てて言わっしゃらん」

「そら和尚さんだねわなあ、玄関ひゃって、障子を開けて、和尚さんが出なはりゃ、そのこと言わにゃいけんが」「何だい知らんが、あんちゃんが黒い着物着ちょうけん、それで玄関のところの塀に止まっちょられたけん、そいでそげ言いたわ」て。

「こな、どげないならんの」て言うて、自分が行きて、今度は和尚さんに頼んでもどったと。

「そいじゃあ、和尚さんがおいでえけん、酒でも一杯出さんないけん」というので、「東六や、後ろの二階の酒樽に酒が入れてああけん、おまえ、尻をちゃんと持っちょってごせや、あんちゃんは上から下げえけんなあ」「おお、なんぼでも持っちょうけんなあ」言うて、今度、和尚さんがおいでるまでに兄貴が倉へ上がって、酒を下げたと。で、縄でいわえつけて、下げえのに、「いいか、東六や、尻持っちょれよ」「うん、せわない。持っちょうけん」「せわあないか」「せわあない」。それからそろそろそろそろいったら、ズドーンと落ちとる。

「こら、何のことだ。東六、おまえ、尻持っちょれんだねか。樽がめげたがな」手言ったら、

「あんちゃん、このごとくに、死ぬうほど尻持っておお」てて、自分の尻をつめって一生懸命に持っちょったと。

「やれやれ、おまえはことにならんのう」ちいやな話です。とうとう和尚さんにも酒は出されだったが、まあ結局、そういう弟がおって笑ったという話ですわ。

そればっかあ。

解説

 関敬吾『日本昔話大成』では、笑話の中の「愚か聟」に「法事の使い」としてこの話型が登録されている。各地で好んで語られたようである。

 語り手の阿部文四郎さんの話では、子どもの頃、祖父から聞かされた話だとのことです。

出雲かんべの里 民話の部屋 「法事の使い」

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