収録・解説 酒井 董美
語り手 佐々木マツコさん( 昭和5年生)
(平成5年7月21日収録)
あるところに水飴屋さんがあったって。
ある晩にものすごい足音がしてくるんですって。
そしてとんとんと戸をたたく音がするんですって。水飴屋がそれから戸を開けてみたら、何か柴の葉っぱみたいなもんをたくさん持った女の人が来ていて、
「水飴をねえ、ください」って言うんですって。
それからお店の人がねえ、水飴渡したけれども、
「どうもおかしい」と思ってね、後をつけて行ったら、お寺のそばの墓の方へ行って姿が消えてしまったのでねえ、そこへ行ってみたら、何だか赤ちゃんの泣き声がするんです。それで、店屋の人はもうびっくりしてねえ、後からお墓を掘ったら赤ちゃんが生きていたんだそうです。それでその赤ちゃんをだいじに育てたそうです。
これは女の人が死んで、墓に埋められてから赤ちゃんが生まれたので、その女の人はわが子かわいさの一念から、水飴屋へ赤ちゃんの食べる水飴を買いに来ていたものなんですねえ。そんな話をわたしは小さいときに父からよく聞かされましたんですよ。
関敬吾『日本昔話大成』では、本格昔話の「誕生」の中の「子育て幽霊」としての話型が、次のようにして登録されている。
一四七A 子育て幽霊
1、妊婦が死んだので葬る。
2、(a)幽霊になって毎晩同じ時刻に一文銭を持って飴を買いに来る。または(b)地中で子供が生まれた夢を見る。
3、墓を掘ると屍が生きている男児を抱いている。買った飴がかたわらにある。
4、子供を救い出して育てる。(後に名僧になる)。
この話は特定の村の寺院の墓地と結びついて伝説化して伝えられている。
出雲地方では松江市中原町の大雄寺に話がある。明治の頃、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が採集し、広く知られるようになった。そのため「子育て幽霊」といえば、松江市だと思われているが決してそうではない。
益田市高津の教西寺では、墓場で生まれた男の子が成長して大厳和上という偉い僧侶になった伝説として存在している。鳥取県岩美町では曹洞宗の傑僧である通幻禅師である。
稲田浩二他編『日本昔話通観』で調べると類話のない地方は、北海道のほかに岩手、栃木、千葉、神奈川、宮崎のわずか五県に過ぎない。
生まれた子どもの性別は、男性とするのが44例、女性が8例、性別について触れられていないのが110例となっている。男性の場合は墓のある寺に預けられ名僧になったと物語につながるのが多い。
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