• ~旅と日々の出会い~
SNSでシェアする

56.「大判が怖い話」松江市八束町二子

収録・解説 酒井 董美
語り手 足立チカさん( 明治27年生)
(昭和44年7月26日収録)

あらすじ

 とんとん昔があったげな。役者が巡業に出ていましたが、母が病気になったりしたので、途中で帰らなければならなくなりました。

 晩になって、七類(美保関町)のところを歩いていると蛇が出てきて、
「飲んでしまう」と言う。
「今夜は許してくれ、明日の晩には必ず飲まれてあげる。母に一目逢ってから飲んでくれ。母が恋しくて帰るところだから」
「ほんなら、約束を違えずに明日の晩に来い」
「おまえの好きなものを土産に持ってこようと思うが、それは何だかい」
「兎でも鶏でも何でもいい。生ものがいい」
「ほんならやに、一番嫌いなものは何だかい」
「煙草の脂が一番怖い。この池に脂が入ったら、わしは生きてはおられぬけん」
「ああ、分かった。そんなら肉でも鶏でも持ってくるけん」。こう言うと、今度は蛇が役者に聞きました。
「おまえは何が嫌いだか」「大判や小判が一番嫌いだ。これ見たら、もう寿命がなくなる」
「ああ、そげか」
「それでは明日の晩は必ず来るけん」

 それから役者が帰って、母に逢いました。そして約束通り行かぬと大蛇がどのようなことをするやら分からぬからと、煙草の脂を壷にいっぱいためて出かけました。
「蛇殿、蛇殿、約束通り来たけん」と言って、その壷を沈めたら、蛇は狂い回って人を飲むどころではありませんので、役者はそのまま帰ってきました。そしてその明くる晩、蛇がやって来て、
「夕べはえらい目にあわせられたが、かたきを取りに来た。一番怖いものを持ってきちゃったけん」と大判をザザーッと投げ込んで、
「今度はこれが小判だぞ。一番怖いもんだらぁが」と言って、座敷いっぱいにそれらを投げ込んで帰って行ったということです。

 何と言っても人間と畜生のことですから、人間が一枚上手だったのです。

解説

 この話は「何が怖い」、あるいは「田之久」として分類されている昔話であり、笑話に属する。「何が怖い」の主人公は特に役者とは決まっていないが、「田之久」の方では役者である場合が多い。そしてどちらの話も人間が知恵を働かして動物をやりこめ、大金持ちになる人々の願望を反映した話である。県下でも同類が各地で語られている。

 浜田市三隅町門殿で聞いた「何が怖い」系統の話では、蛇の代わりに狐が愚かな動物として登場し、役者の代わりに爺が出ている。狐の怖いものは犬で、爺は白金になっている。結末は狐が白金を爺の部屋へ投げ込んで去り、爺は大金持ちになる。

出雲かんべの里 民話の部屋 「大判が怖い話」

→「文芸のあやとり」に戻る

→「自然と文化」に戻る


PR

小泉八雲「生霊」
小泉八雲「雪女」
小泉八雲「雉子のはなし」

PR