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58.「鶴の恩返し」隠岐郡海士町保々見

収録・解説 酒井 董美
語り手 川西茂彦さん( 明治27年生)
(昭和48年6月17日収録)

あらすじ

 昔、狩人が向こうの小枝に鶴が止まっていたのを撃とうと狙ったところ、それを見つけた貧乏な人が、

「鶴はかわいやナンマンダブツ」とうたったので、それを聞いた鶴はびっくりして飛んで逃げてしまった。

 四、五日たった後、その人のところにきれいな娘さんが来て、「自分を嫁にしてくれ」と言う。その人は、「自分は貧乏ではあるし、嫁をもらっても生活できないからにだめだ」と答えた。しかし、娘さんは、

「食べることは自分ですっから、嫁にしてくれればいい」と言う。断わりきれずに嫁にしてやった。嫁さんは、「今日は枠を借りに行ってこい」「今日は車(木綿車のこと)を借りに行ってこい」と婿さんを使いに出すそうな。

 婿さんが借りてきたら、それで嫁さんが朝から晩まで糸を引き、それで機を織ったわけだ。機ができあがったところ、嫁さんは、

「町へ売りに行け」と言う。婿さんは売りに行ったところ、とんでもないよい値で売れて、帰ると嫁さんも喜ぶわ、自分も喜んでおったって。

 そのとき、嫁さんが奥の一間へ入って、羽のない元の鶴になってしまって、「自分は危ない命をおまえのおかげで助けてもらった。その恩返しに自分の羽で機を織って金に換えさせたわけだから、この金は必ずためになるように使ってほしい。何かいらぬものがあれば買え」と言い残して去って行った。

 そこで婿さんは、「いらぬものがあれば、買うから売ってくれ」と言って、漁師町の方へ歩いて行ったところ、「おもしろい男が出てきた。それなら海岸近くの藻葉を売ろう」と売った。婿さんは金が半分しか残らないし、買った藻葉の始末にも困っておったら、漁師の親方がやってきて、「なんと、一つ相談にきたが、乗ってくれんか」「何ごとかいな」「藻葉を売ったが、藻葉がなくなったら魚がおらんようになって困った。おまえの言うほど金をやるので、契約を解除してくれ」。

 婿さんも本当は金がなくなり困っていたところなのでたいへん喜んで、「おまえらが困っているようなら、契約はやめましょう」と、言うほど金をもらってやめたわけだ。

 それで人に報いれば、必ずそういういいことが報われてくるから、人は助けてあげなければならないと昔から言われている。

解説

 おなじみの昔話「鶴女房」の隠岐版である。知られている話とは少し違うが、特に最後の「いらぬものがあれば、買うから売ってくれ」と藻葉を買うくだりは、一般型には見られない。いかにも漁業の盛んな隠岐らしい話だ。

 バカにして藻葉を売った漁師だが、最後には男が逆転して豊かになる。

 「人に報いればいいことが報われる…」の教訓は、子孫に対する祖先のメッセージとして読み取れる。

出雲かんべの里 民話の部屋 「鶴の恩返し」

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