収録・解説 酒井 董美
語り手 塩山コフエさん( 明治42年生)
(昭和54年8月9日収録)
昔、毎日何もせず、遊んで行かれることはないかと考えていた若者が、山奥の山の神様にお祈りし「三週間参りますけん」と、毎晩丑の刻に起きて川で体に水をかけて清めて参ったそうな。
山の神様が出て来て「三週間、寂しい山道をよう来た。おまえの願いをかなえてやる。明日の朝、船が来ても一番初めや二番目の船にも乗んな。三番目の船に乗れ」と神様が言った。若者が「ありがとうございます。どうぞお願いします」
神様はすうっと消えてしまった。若者は、喜んで帰ったそうな。
他の人が寝ているとき川で待っていたら、船がギーコラギーコラ来た。初めの船や二番目の船には乗らず、三番目の船に乗った。とてももてなしがいい。お茶を飲んだり、ご馳走を食べていると竜宮みたいなきれいな城のとこへ着いた。
ご馳走を毎日出してくるのでそれを食べたりいろいろな景色のところを見せてもらったそうな。
そこには大きな屋敷があって倉が九つもある。「この倉に何が入っとっか見たい」と言うと、「宝物がどっさり入っとって、見してあげます」と八つまでは見せたけれど、九つめの倉は見せない。「これだけは見せることはできない」と言う。
その晩、倉が気になって、どうでも見てやろうと、みなが寝た時分、そっと倉の戸を開けたら開く。下には大きな洗面器があり、上には人間を吊り上げて、矢が刺してあった。血が洗面器に落ちてくる。
「こりゃたいへん。われもここにおったら殺される」と思ったら、上に吊りさげられた男が、「ここまで来い。おまえに言わんならんことがあっけん、教えてやっけん」と言う。
その男はもう息絶え絶えながら。
「われは、おまえと同じやあに、神様に頼んでこんな目にあった。おまえはこの後ろに一本道があるから急いで逃げ」。
その男は一生懸命でその道を行ったら、寺が一軒あったそうな。
「和尚さん、明日からは一生懸命で働きます、どうぞ助けてやってください。」と言ったそうな。
追っ手は鬼を使っているところであり、今までご馳走してくれたのは、人々を肥えさせて、その人間の血を吸っていたところだ。
若者の言葉を聞いた坊さんが、
「早くこの行李へ入らっしゃい。助けてあげる」と若者を行李に入れて天井に吊るして隠し、追っ手を追い払うことができたそうな。
男は助かって、それからは心を入れ替えて、村一番の働き者になったということだそうな。
隠岐島前高校(当時)の山岡雄一郎教諭が聞かれた昔話である。本格昔話では逃竄譚の中にあり、「脂取り」として登録されている。類話は松江市北堀町の川上静子さん(明治33年生)からも伺った、現在、出雲かんべの里民話館で語りをしている孫娘の山田理恵さんに伝えられている。
楽をして暮らしたいと思う人間の願望が生み出した話である。