• ~旅と日々の出会い~
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65.「かちかち山」出雲市乙立町呂

収録・解説 酒井 董美
語り手 伊藤アキコさん( 大正5年生)
(平成5年7月4日収録)

あらすじ

 とんとん昔。おじいさんとおばあさんは前山の兎を手前の娘のようにしてかわいがっていた。畑を打っていたら狸が出て来て、

 あほのじいさん畑打ち

 豆のないのに    えっさっさ

と種の豆をみんな食べてしまうので、おじいさんが腹を立てて、追いかけても逃げてしまったげな。

 おじいさんは明くる日、野良仕事をしていたら、狸が出てきて、

 あほのじいさん出てきたか

と言いかけたけれど、足が動かないようになってしまったげな。

「こな狸、鳥モチを岩につけちょいたら」というわけで、狸を捕まえて、持って帰って、それから天井から吊り下げておいたげな。、

「おばあさん、今夜は狸汁でもすうがいいけに」と言って、おじいさんが畑仕事に出ていったら、ー狸汁てて言ったが、自分を殺さかと思っちょうかーと狸が思って、

「おばあさん、殺されえ前におばあさんにお手伝いがしたいけに、この縄解いてごさんか」と言った。おばあさんは狸の縄を解いてやり、杵を狸に渡したら、

「おまえをついて殺いてやあ」と狸はおばあさんをたたいて殺いてしまって逃げてしまったげな。

 おじいさんがもどってみたらおばあさんが死んでおり、悔やんでいたら、兎が出てきて、

「このかたきは取ってあげる」と明くる日に兎が狸のところへ行った。

「山へ薪こりに行かんか」

「ほんなら行きてみいがいいかも知れん」と狸が言うので、一緒に木こりに行って、狸に一荷負わせてついて帰るとき、火打ち石で狸の荷に火をつけたげな。

 狸の背中で火が燃え、熱くて狸は川へ飛び込んで火を消したって。兎は逃げてしまったげな。狸は、苦しくて寝ていたら、また兎が出てきた。

「狸さん、どげしたことかね」

「あぎゃんこと言うな。おまえが火つけたで、背なが焼けた」

「そぎゃんことしたやなら、薬つけてあげえわ」と言って、トウガラシの練ったやつをつけたので、狸はまた川へ飛び込んで、薬をきれいに洗い落として寝ていたげな。

 明くる日に兎がまた来て、

「舟に乗って出てみょこい。泥舟の方がええやつが出来ぃかも知れんけん」と狸には泥舟こしらえ、兎は木で舟をこしらえたげな。

 舟に乗って出かけたら深いところで泥舟が溶け出したから、

「兎さん、助けてごしぇ」と狸が言う。兎は狸の舟を向こうへ押して、

「おばあさんのかたき討ちだけん」と言ったげな。とうとう泥舟は沈んで狸は死んでしまったげな。

解説

 語り手は明治生まれの方だが正確な年齢は不詳である。出雲地方にも、タヌキの歌が省略されず語り注がれてきた。形があまり崩れていない本格的な語りが存在していたのである。そのことを知るだけでも、うれしく思うのはわたしだけであろうか。

出雲かんべの里 民話の部屋 「かちかち山」

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