収録・解説 酒井 董美
語り手 安部イトさん(明治27年生)
(昭和45年4月26日収録)
昔。山子(やまご)(樵夫)の家の池に毎日娘が三人来て水浴びで騒ぎ、山子は昼寝ができない。そこで山子は着物を一枚隠した。娘たちは水から上がったが一人の娘の着物がない。
山子は「捜してあげるから、ぼくの嫁になってくれ」と言ったら、
「嫁になるから捜しておくれ」と言う。山子は着物を出したげな。娘は「私は天のものだから、おまえが天に上がって来たら嫁になるから。この豆を植えて大きく長くなったら、豆の木につかまって上がって来るように。そうしたら嫁になる」
山子はその豆を植えて肥やしをやり、天に届いたようなので、それにつかまって上がったそうな。ら、天は広いもんだそうですね。
それから、天へ上がってりっぱなお宅へ入って下男をさしてもらえば、そのうち娘さんに会われれるだろうと思い頼んだところ、釜の下のヘイボウ(灰坊)に使ってもらう。
ある日、お嬢さんがヘイボウの顔を見たら、具合が悪くなった。八卦見に診てもらったら、「この家で目についた人があって、それと盃して夫婦になれば治る」と言う。
それから、みなの者に風呂に入らして、いいこしらえやご馳走して、ずうっと並んでいると、お嬢さんが盃を渡した者が婿になるというので、それから、出いてじろじろ見ていたが、だれにも盃をやらずに引っ込んでしまった。
まだヘイボウがいるというので風呂に入って、いい着物を着て座ったげそうな。そうしたら、嬢さんが、本当にヘイボウに盃渡して、酒ついだので、そこの若旦那になった。
それから、川の向こうのナスビ取りに婿が行かねばならない。行くときに嫁さんが、
「二つ取ってはいけないよ、一つだけでないと大水が出て帰られなくなるから」と言ったそうなが、婿が。
「二つ取ってやれ」と二つ取ったら、川に大水が出て帰れなくなった。
嫁の嬢さんが川の向こうから、
「一年に一度会おうよ」と言ったので、一年に一度会うことになった。それが七夕さんだ。昔こっぽし。
『日本昔話通観』の「天人女房」では次のように表現されている。
①男が水浴をしている天女たちの羽衣の一つを隠すと、一人の天女が昇天できず、男の嫁になって子を生む。
②妻は子に教えられて羽衣を見つけ、瓜の種を残し、瓜の蔓を伝って天に昇ってこい、と書き残して天に帰る。
③夫が言われたとおりにして天に昇ると、いやがった妻の親が畑仕事の難題をつぎつぎに出すが、すべて妻の助言で課題をなしとげる。
④親に瓜畑の番をさせられた夫が、妻の警告にもかかわらず瓜を縦切りにして食うと、あふれ出た大水で川むこうへ流される。
⑤妻が、七日ごとに会おう、と言うが、夫はそれを七月七日と聞き違え、二人はその日しか会えなくなる。
安部さんの話は、大枠でこの「天人女房」の話である。話の途中に「灰坊」タイプの婿選びの部分が挿入される複合型でもある。
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