• ~旅と日々の出会い~
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71.「天道さん金の鎖」隠岐郡知夫村仁夫

収録・解説 酒井 董美
語り手 中本マキさん(明治38年生)
(昭和51年8月1日収録)

あらすじ

 とんと昔。お父さんとお母さんと子どもが三人おったとえ。

 そうしておったら、お母さんが亡くなったとえ。

 そいで山姥が人間に化けて、そこの後妻に入ってきてお母さんになった。そして、お父さんは働きに出ていないし、お母さんが幼い子どもを抱いて寝ちょったに、夜になったら、子をボリボリ噛み始めたとえ。それで他の子どもらは、
「お母さん、何を食べちょる」
「われは魚(いよ)の骨を食べちょる」
「わしらにもごさっしゃいな」
「子どもが魚の骨食べるもんじゃない」と、ボリボリ食べるものだから、
「わしらにもちいとでいいけん、ごさっしゃい」と言ったら、足、手の指を一本ずつくれたとえ。
ーやれ、こりゃ、子どもの指だ。や、われわれも噛み殺されっだが…ーと思って、山姥が働きに出た後、二人は家を抜け出したとえ。

 それから、晩になって山姥がもどってきて、子ども食べようと思っていたけれど、子どもがいないので、
ーさあ、どけ行きたやらーと思って、ぐるぐる家の中や外を尋ねるけれど、子どもたちは見つからないとえ。

 そうしているうちに月があたってきたら、桑の木に登っておる影が映ったとえ。
「さあ、ここだ。どうして登った。われにも習わせ」。
「足に鬢(びん)つけ(鬢つけ油のこと)をつけて登った」。

 鬢つけ油をつけたら、なおつるつる滑る……、
「うそ言え!    本当のこと言え」と言ったら、今度は、
「水をつけて登った」。

 つい本当のことを言った。

 それから山姥は足に水をつけて登ったら、登られて、もう一尺ほどで手が届くようになったら、二人の子どもはとても恐ろしくなって、
「天の神さん、助けてください」と言ったら、天から金の綱がゾロゾロっと下りてきたので、それにつかまって二人は天へのぼっていった。

 山姥も上がろうと思って、
「われにも金の綱をくださぁい」と言ったら,腐った縄をくれたので、それをのぼって行く途中、腐った縄が切れてしまい、山姥は地面に落ちて死んでしまったとえ。

 それで三人の子どもが天の星になったとえ。あの三つ並んでいるのがそれらしいとえ。

 その昔のごんべのはぁ。

解説

 島根県立隠岐島前高校郷土部が、知夫村を対象として民話調査を行ったさい、中本さんからはたくさ
んの昔話を聞かせていただいた。「その昔のごんべのはぁ」は、知夫村独特の昔話の最後を示す結句
である。

 関敬吾博士の『日本昔話大成』によれば、これは本格昔話の「逃竄譚」の中に「天道さん金の鎖」として登録されている話である。

出雲かんべの里 民話の部屋 「天道さん金の鎖」

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