• ~旅と日々の出会い~
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82.「俵薬師」隠岐郡知夫村仁夫

収録・解説 酒井 董美 
語り手 中本マキさん(明治39年生)
(昭和51年8月1日収録)

あらすじ

 昔。荘八という嘘ばかりつく貧乏人がおった。隣は親方で、その荘八が隣村から牛を安い値段で買ってきて、お金を飲ませ隣の親方に、
「毎日、お金をひるので間もなくおまえに追いつく」と話しておった。

 隣の親方が、「千円で売ってごしぇ」と頼むので売ったげな。

 初めは牛は五銭出し、十銭出ししていたけど、腹に残っている金を出したら、金を出さんことにな 9 るから、荘八は親方が怒って来ると分かっているので、お母さんに、
「たたかれりゃ死んだふりをする、太鼓をたたいてくれ。われが生きったふりをする」と約束しておいた。

 親方が怒って「だまされたんだ。荘八をたたき殺してしまえ」と若い者を連れてきて、荘八をたたいたら、荘八は死んだふりをした。荘八のお母さんが、
「たたけば生き返る太鼓があるのでたたいてみる」とたたいたら、生き返ってきたので、「太鼓を売ってごしぇ」と頼むけど、「生き返る太鼓だけに売られの」と荘八が言うけれど、親方の娘がいつもテンカンで死にそうになるので太鼓がほしい。それも千円に売った。女の子がテンカンで倒れたけど、なんぼ太鼓をたたいても生き返ってこない。

 親方が怒って、「こんな荘八に沈め石をして海に持って行きて投げ込こんでこい」と若い者に言った。若い者みなで担ぎ、峠を上がって行ったものの、ひと休みしよったら、また荘八が嘘をつくそうな。
「おまえらちに千円わてあげる。庭の隅にあるけに取れ」と言ったら、男たちは帰って金を捜しはじめた。

 その後、片目の魚屋のおじいさんが魚を担いで峠に来た。また荘八が、「片目でおるが、われは両目がなかったけど、一週間、縛られて通夜しちょったら目が治った。おまえもここにお通夜をしぇぬか」とおじいさんに縄をほどいてもらって、反対におじいさんを縛って、そこへ投げておいたそうな。

 荘八はおじいさんの魚を担いで、逃げてしまっていなくなっている。

 男たちは、そこに投げられちょるじいさんを担いで、「われは荘八じゃない」と言うけれど、「今度ばっかしゃだまされのけん」と魚屋を海の中へ投げ込んでしまった。

 荘八は魚を担いで、親方の所へ行った。「海で竜宮城へ行きたら、乙姫さまやら何やらで遊んでおった。飽きがきたけに魚売りに来た。買ってください」と言う。

 すると親方が、
「われも行きたい」と言う。荘八も、「おまえも行くがええ」と言って、親方を沈め石をつけてして殺してしまったとや。

 わたしらは今でも嘘つく者を「こな荘八」と言って笑っております。その昔のごんべのは。

解説

 昔話は大きな悪を容認する残酷さを持っている。この昔話の主人公は、ウソで固めた人生を楽しんでおいて、親方まで殺してしまう。話では特に非難をしているわけでもない。これは人間の非常さの一面を示しているのであろう。

出雲かんべの里 民話の部屋 「俵薬師」

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