• ~旅と日々の出会い~
SNSでシェアする

85.「退治られた猿婿」隠岐郡知夫村仁夫

収録・解説 酒井 董美 
語り手 中本マキ山さん(明治39年生)
(平成6年8月25日収録)

あらすじ

 昔、お父さんとお母さんとおりましたが、そのお父さんは山猟師で、毎日、猟をしに出かけていました。お母さんもついて行っていましたが、お父さんが離れた間に、大きな猿がお母さんを引っ張って逃げてしまいました。

 お父さんは犬を一匹飼っていましたので、その犬だけ連れて帰って暮らしておりました。

 お父さんと犬がお母さんを尋ねて、山へ行ったら、一軒家に猿が、お母さんと暮らしておりました。

 猿は野山へ出て何かの芽を拾ったりして留守でした。 お

 そこへお父さんが、行かったたき もので、お母さんは、「ここに居ら、殺される。おまやぁ帰れ」と言いま した。

 しかし、お父さんは、「仇取らにゃ帰られの」と言って聞かないし、どこかへ隠れておったがええだら」と言う。するとお母さんも、

「ほんなら、戸棚へでも隠れなさい」とお父さんを戸棚へ隠しました。

 戸棚には節穴がありました。お父さんは狩をする鉄砲を持っていて、節穴から弾を込めて撃つようにしておりました。犬は入り口の臼の下に隠しいてろおりいたそうです。

 猿が帰ってきて、猿股立てて囲炉裏にあたっていましたが、

「今日は人臭い。人がおりゃせんか」と言いましたが、お母さんは、

「人はおりましぇん。わしが人だけん臭いだわい」と言いました。猿は、

「どうも人臭いから、だれか呼んで来て見てもらえ」と言います。

「わしが人だだけん、臭いだわい」とそのお母さんが言いますが、

「おまえとは違って臭い」と猿は言います。

 隣の家には、チョッコウリンという名の猫が住んでいま した。

 猿はいよいよ気になったので、

「隣のチョッコウリンを呼んで、拝んでもらえ」と言うので、それを呼んできて拝ましたら、その猫が、

 〽天がヒッカリ、大猿に当たる 。
  つき臼返せば、子猿に当たる。
  しおょうればんばチあ ョッコロリンも
  相伴(しょうばん)に遭う。
  つき臼返せば、子猿に当たる。

と言うが早いか、とんで逃げたそうです 。

 猿がその意味が分からず、

ー不思議だのう、まあ、「おればチョッコロリンも相伴に遭う。つき臼返せば子猿に当たる」て。もう何のことやらーと思って考えちょっところを、戸棚の節穴からねらっていた、お父さんが鉄砲を撃って、その猿を殺してしまい、そのお母さんと犬も連れて、みなで帰ったそうな。

 まあ、そのごんべのは、だ。

解説

 猿が人間の女性を奪って妻にする変わった昔話である。関敬吾著『日本昔話大成』を調べても、この戸籍に属する話はない。ただ類話と思われる話がある。浜田市三隅町で聞いた話だ。狒々が人間の女性を奪って妻にしたが、本来の夫と連れてきた犬に殺される。浜田市の話では、猫が狐になっている。

出雲かんべの里 民話の部屋 「退治られた猿婿」

→「文芸のあやとり」に戻る

→「自然と文化」に戻る


PR

小泉八雲「生霊」
小泉八雲「雪女」
小泉八雲「雉子のはなし」

PR