― 二回、三角形は重なると輪になる ―
『さかねとつむぎとキスキ線』(コミックス)。マンガ・たこぱいそん、監修・木次線応援プロジェクト実行委員会、発行・合同会社部活、発行日・2025年12月12日、非売品、A5判192ページ

■書籍紹介 一回目のつづき
一回目の書籍紹介「起承転結」で『さかねとつむぎとキスキ線』を紹介し、このコミックスはあと最低でも三巻出版されると予言した。
今回の書籍紹介も「起承転結」にのっとり、一回目の「起」に続く「承」として『三角形型人間(もの)関係』でコミックスの面白さを紹介する。
一部廃線(出雲横田と備後落合間)の噂が立つ木次線の完全存続を背景にした少女と妖精・精霊の物語。
まず主な人物と場所を登場順に紹介する。さかね(出雲坂根駅に住む妖精か精霊)、出雲坂根駅、つむぎ(大阪から出雲坂根駅の近所に引っ越してきた高校二年生の女の子)、出雲坂根駅の三段スイッチバック、まこと(木次駅から来る友達もいないカメラが趣味の女子高校生)、あめつち(特別列車)、出雲横田駅、歓迎する地元の人たち、音鉄のお兄さん、サイクリングのお兄さん、絵描きのおじさん、つむぎのお父さん(鉄道マニア)、県立横田高校(匿名参加)、つむぎのお母さん(茶葉を仕事にする)、運転手、道の駅・奥出雲おろちループ、備後落合駅、三江線のウイちゃん(話として登場する妖精か精霊)、つむぎの大阪の友達(ひろこ、ふうこ、みかこ)、木次線の名所とロケ地等。
これらの幾つかを木次線をベースとした三角形の関係で紐づけてみる。

■三角形と魅力ある三角形型関係
まず、『さかねとつむぎとキスキ線』物語は、木次線を舞台に、さかねとつむぎとまことの三人の(?)少女(?)を中心にすすむ。
映画でも小説でも三角形型の人間関係が複雑に絡み合うほど面白くなる。
ところで三角形といえば、内角の和は180度、三角比30.45.60、1対2対√3、三角定規30.60.90等々。幾何学的にも測量的にも面白い形であり「概念」である。
ところが、これが人間(動物)社会の三角関係となれば意味深だ。三人の人間(動物)が同時に恋愛関係に陥ると頂点に誰がきて、関係という辺の長さや密度がどうなのか、人間模様(ゴリラ模様)が現れる。
一夫一妻制の日本では、結婚前なら痴話げんかや浮気で片付くが、どちらかが、あるいは両者が結婚していれば、「浮気」や「不倫」ではおさまらず、法律の問題にも広がってしまう。
しかし、古今東西の物語では、三角関係がないと成り立たない。さらに、このからみあいがあるから面白い(筆者の独断)。
※男女とも離婚原因の上位3位に「異性関係」がはいっている
しかし、ここでの話は痴話げんかに発達する「三角関係」ではなく、「三角形型人間関係」(人だけには限定しない)の話である。この三角形型人間関係は、物語の中だけでなく現実の組織(企業)の中でも組織運営に非常に重要なキーワードである。


■さかねとつむぎとキスキ線、三角形型の関係
『さかねとつむぎとキスキ線』では、どんな「三角形型人間関係」が現れているのか。
タイトルからして三角形型の関係である。これは一部廃線の噂のある木次線をベースに、主人公のさかねとつむぎが関わり合うからついた「タイトル」だけではない。木次線を擬人化し、三人が三様の人生と悩みを持ちつつ、それぞれが協力し合い、夢のある未来へと向かう物語であるからだ。
次に大切なのが物語の流れを形成する、生立ちも趣味も生活も異なる三人の女の子「さかねとつむぎとまこと」。「つむぎと父と母」「木次線と地元の人と旅行者」「つむぎと木次線と大阪の高校生」「つむぎの父とまこととさかね」「さかねと坂根駅と雪」。今後期待できる三角形型関係が「つむぎと地元の横田高校生と大阪の高校生」、「横田高校と大東高校・三刀屋高校と大阪の高校」である。
そして、なんといつても重要な三角形型関係が、次の作品への布石として現れたウイちゃんをいれた「まこととさかねとウイちゃん」。さかねは、見ることか出来ても写真には写らない出雲坂根駅に住み着いた妖精か精霊(かもしれない)。ウイちゃんは、まこともさかねも知っている三江線に住み着いた「赤髪で三つ編みの子」の妖精か精霊で、三江線の廃線とともに消えた。ということは・・・
三角形型関係は無限に広がる。「さかねとウイちゃんと廃線の物語」、もしかすると「木次線と三江線と廃線」から「全国の廃線の妖精か精霊たちと木次線に暮らす人びとと木次線を訪ねる人たち」へと拡大するかもしれない。
それはすべて、「出会いと夢と未来」という三角形型ビジョンで出来たコミックスだからだ。たこぱいそん氏も江上英樹氏も、そしてこの木次線の完全継続を願うすべての人の総意でもある。三角形は重なって、また重なって、やがて木次線の「大輪」となり、そしてみんなの心をひとつにする。

■二つの人間関係 V字型と三角形型
『さかねとつぐみとキスキ線』は、誰かだけが幸せになるとか、誰かがリーダーだというのではない。フラットな関係の中で三人が共感・共創する物語だ。「木次線存続」が、「地域の活性化」と「未来に夢と希望を託す人びと」との三角形の関係にあってこそ存続するのと同じように。誰かがが欠けてもいけない。
少しながくなるが、現実の社会の中で織り成される人間関係の形を大きく分ける「V字型」(用事ベースの関係)と「三角形型」(トリニティ構造)を紹介する。これがまた、物語の読み方を楽しくするはずだ。
・「V字型人間関係」
「V字型」人間関係は、中央に1人の人がいて、その両脇に別々の関係を持つ2人がいる状態。上下の関係を持つピラミッド型の関係である。両側がライバル関係や敵対関係になりやすく、板挟みや孤立感を醸成する。悪の組織はこんな人間関係である。
・「三角形型人間関係」
「三角形型人間関係」は、三人が相互繋がっているので、誰か一人が孤立するのではなく、相互に関り認識・理解し合う。情報や考えがオープンで互いの価値を認めやすく、「創造性」と「協業・共感」が生まれやすい。フラットな関係。正義の組織はすべてこの関係だ。たとえば軍人パイロットをベースにした『トップガン』であっても。
・人の繋がりが大切
人の集団は、「人」と「人」のつながり方しだいで、まったく異なる性格を持つ集団・組織になる。リーダーが変わって団体が良くなると、リーダーのマネージメント・スキルを評価するが、その具体的な方法は人間関係の作り方にある。
例えば、テレビの学園物語は、悪教師(教頭グループ)の権威や命令の「V字型」ヒエラルキーと、熱血先生は生徒とのオープンな「三角形型」の生き方の対決を描く。
・習慣と変革
では、すべて三角形型関係にすればよいのではという意見もある。しかし、人の習慣や環境を変えるのはなかなか難しい。ひとは変化を好まない保守的な習性がある。群衆という塊となると一層厄介で、個人の意思から離れ文化・風土・慣習となり伝わっていく。
スタンリー・キューブリック監督『2001年宇宙への旅』のはじまりで、ヒトザルが骨(道具)を手にして対抗する相手を殺害するシーンが映し出される。人類は道具をもって最初にしたことが殺害であることを強調する。やがて人類は希望の星ジュピターへと向かう。飛行船を制御するコンピュータHAL(IBMの上を行くコンピュータ)は、プログラムを改造しようとする人間を殺害しようとする。そうです、殺害からはじまったヒトのDNAは、ヒトが創造したコンピュータのプログラム(今ならAI)のなかに無意識にも組み込まれていることを意味する。
ひとの行動の50%は「習慣」といわれ、親やその親と代々の生活の中で文化や風土まで形成する。そして習慣を変えることは非常に難しいことである。それが近年問われているアンコンシャスバイアスであり、差別意識でもある。
ここで紹介した「V字型人間関係」は、人類の長い歴史の中で定着し、ひとの考え方や生き方に染付いている関係である。雇用者と労働者、雇い主と使用人、上司と部下、親と子、教師と生徒、先輩と後輩等々。これは効率化と統一化を重視する上意下達として形に現れる。マニュアルや校則が身近な例である。それは習慣として深く根付いている。
ところが、「三角形型人間関係」は、自然発生的に生成されることはない。意識して作りあげないとできない。
学園ドラマ。風紀も校内も乱れ、将来を描く希望もなく、かつ協調性もない学校に赴任した熱血先生は、この環境と風土を変革するために取り組む。まずこの小さな三角型人間関係をつくることからドラマは延々と続く。そこには教頭をヒエラルキーとした管理による学校秩序を形成し、落ちこぼれを追放する保守派がいて、熱血先生を追放しようとする。そこに現れるのがマドンナ先生。教頭・熱血・マドンナの三角形型関係人間関係が形成される。すべからく物語は、「V字型人間関係」と「三角形型人間関係」の対立の流れで構成される。
では、『つむぎとさかねとキスキ線』はどのように描かれたか。「三角形型人間関係」の連続ですすむ。ただ、導入のところで「V字型人間関係」が使用される。つむぎの進路の悩みである。目標がみつからなくても、「考えることはない、とりあえず大学にすすめ」。「V字型人間関係」という習慣の押しつけだが、それを解決するのが「三角形型人間関係」との出会いであだ。
■沢山の人に関わった木次線
三角型の人間関係は、意識しなければ形成されないとすべてに延べた。まさに物語創作の醍醐味は、どのような、ワクワクするような、そして意表を突いた、どんでん返しの三角形型の関係を創り出すことだ。その意味で、延べ三年も奥出雲に暮らし、出雲横田駅と出雲坂根駅間の定期を買って五感で触れた総合プロデューサー江上英樹氏の、小学館でのコミックス編集と鉄道マニアで培われた企画創造力に期待する。
あえて私がお願いしたいのは、木次線という小さな枠にとらわれてほしくない。四部作(勝手に決めているが)では、木次線と廃線の三江線にふれるとしても、理念というかビジョンとして廃線と地域の生活を置いて進めてほしい。
そこには旅人もいれば、行商の人もいる、さらには集団就職や働きに行く人もいた。もとついえば、木次線自体が生活空間であり、それを計画し造り上げた人びとの夢や情熱があった。
その総体が「さかね」という木次線の精霊だと推測する。さかねには沢山の精霊の友達がいる。そして、つむぎやまことのような「ひと」の友達もいる。
客車の中にあった達磨ストーブ、集団就職の七色の紙テープ、依頼者の荷物を運ぶ「さんどさん」、誰の凱旋を祝うのか知らないがブラスバンドの演奏、運ばれていく牛や砂鉄や材木。窓から振られる白いハンカチ。切符を切る駅員。
■木次線でつなぐ皆の「輪」
ひとつの三角形が生まれるとその三角形は連鎖して次々に三角形をつくっていく。やがて幾重にも繋がり重なった三角形は「輪」となり、回りだすことだろう。
回り出した輪こそが、喜びに満ちた木次線と住民の人たちと訪ね来る人びとの笑いだろう。
「結」の巻でウイちゃんがよみがえり、そして多くの精霊たちが木次線に集まり輝いてほしい。江上英樹氏がシンポジュウムで話した「銀河へと飛び立つ木次線」に乗って。


🔳問合せ先
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うんなん暮らし推進課 交通政策室 冨岡
〒699-1392 島根県雲南市木次町里方521-1
TEL :0854-40-1014
掲載したコミックスの写真は、「©️たこぱいそん/木次線応援プロジェクト実行委員会」に所在します。無断使用はご遠慮願います。
告知
一回、『線路は続くよ』としての「起承転結」
二回、『三角形は重なると輪になる』としての「三角関係」
三回、『真の目的、そしてビジョンは』としての「上部構造と下部構造」
四回、『私たちのゴールに向けて』としての「ハリウッド式シナリオ・V字型」

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