橋本雅之先生(講師)の「風土記史観」(※①)に触発され、リモートでの講演を拝聴しながら頭のなかは、上空を飛ぶドローンの写す島根の田畑や山河、そして海岸線を思い描いていました。こんな風に。
ドローンが飛び立ちました。まず、『国引き神話』の八束水臣津野命(やつかみずおみずののみこと)が、国造りの一大事業を成し遂げて大地に杖を立て「意恵(おえ)」と叫んだ東松江の「意宇(おう)」の里一帯の田園風景。次に八束水臣津野命が引き寄せて造った島根半島のリアス式海岸。そんな上空からの「出雲国」がパソコンの画面に連なっていきます。
想像は古事記編纂1300年を契機に『古事記』や『出雲風土記』を少し読んだからでしょう。先生が最後に述べられた「地方再生のヒントは、あるいは古代の『風土記』の中にあるのかもしれない」の指摘も頷けます。
やがて、ドローンで見る映像に飽きた私は、意のままに映像を繋ぎ、時を超越して古代へと飛びます。見る視点も階層を交叉し官職になり、働く肉体労働の民にもなります。また男になり、女性にもなって眺めます。私は時空を越えた創造者となっていました。今回はそんな上空からの視点で橋本雅之先生の「国引き神話」に係わる自然や旧跡を紹介します。
注① レジュメ1ページ 「風土記史観という視点」より「古代の各地に生きた名もなき人々の『生活史』を浮き彫りにして・・・『里の暮らし』を再現することを目的とする歴史観とそれに基づく古代研究の新たなフィールド」(橋本雅之『風土記 日本人の感性を読む」)
・区画整理された「意宇の里」で直角飛行
・ジグザグの海岸線と鋸(のこぎり)山の島根半島
まず松江駅からバスと徒歩で30分ほどの「八雲立つ風土記の丘」に向かいます。田園と竹林、雑木林に囲まれた展示学習館で「意宇の里」の史跡、古墳や神社などを学び、大まかな地形を頭に刷り込んで屋上に上ります。残念ですが全景を俯瞰できません。それでも大体の方向はつかめるはずです。想像にリアル感を増すために岡田山古墳や竪穴式建物を見学することもおすすめです。
さて、ドローンから眺める気分で出かけましょう。レンタルサイクルにまたがるのもよし、みんなで歩くのもよし。ここでの楽しみ方は、古(いにしえ)の風と薫りを、自分の体力と五感で感じることです。それが一番の思い出創りです。
まず「古代山陰道」(推定)を進み意宇の杜を見学することをおすすめします。でも徒歩では大変かもしれません(2キロ強。自転車か車)。
八束水臣津野命(やつかみずおみずののみこと)が、杖を立て「意恵(おえ)」と叫んだ意宇の杜。車だと行きすぎてしまうので要注意です。あぜ道にも意外な石碑があります。春ならば野草や野花を楽しんでください。
記念撮影が終わったら、今来た道を振り返りましょう。右側が真名井(まない)神社、山代郷南新造院跡や古墳のある茶臼山、左側が六所(ろくしょ)神社や大原古墳群のある意宇川です。どちらを選ぶかは。杖を置いて倒れた方か、マップを眺めて決めるのか、それとも出雲の神様にお願いするか、すべてあなた次第です。ゆっくり考えてください。時間があれば両方を堪能ください。(なお国造りに関係する意宇六社は、揖夜神社、熊野神社、六所神社、真名井神社、八重垣神社、神魂神社です)
今回はどちらか一方を選択したとします。「八雲立つ風土記の丘」の下についたら、そのまま進んで「神魂(かもす)神社」を参拝し、「はにわロード」を抜けて「八重垣神社」に向かいます。八重垣神社の近所で神部の里で借りた自転車を乗り捨てすることができます(※②)
八重垣神社にご縁のお礼とお願いに参拝される方も、ゆっくり意宇の里を散策し、穏やかな気持と和やかな気分でお参りされると、感謝も願いも気持よく伝わるのではないでしょうか。縁とは風のように、光のように、いつもあなたの傍にいます。
注② 風土記の丘内のレンタルサイクルについては、事前に確認してください。私がお借りしたときは、貸出しは「出雲かんべの里」で、普通の自転車は無料ですが、電動自転車は有料でした。また台数も少なく臨機応変に計画を立てることが肝要です。そして走行範囲もあります。
おべたがね。ドローンと言うかね、突然、飛んできて。えなげなことは出来んが。そげでも、きしゃがわるし、そげで、にょうばんこと逃げたわ。付いてくうが、何しちょうかと聞いたわ、そげしたら、旅しちょうと。ちょんぼしええ男ん子だった。
羽田から飛行機で縁結び空港(出雲空港)に向かう場合、右の窓際をお勧めします。富士山ももちろん気兼ねなく見ることができますが、今回はそこではありません。着陸前に島根半島の海岸線と山々をじっくり見ることができるのです。『国引き神話』で出来た島根半島を俯瞰してください。
さて「出雲の国は若くて小さい国だ。余っている土地を継ぎ足そう」とやつかみずおみずののみことは見渡しました(『国引き神話』)。まず引き寄せたのが①『杵築の地』、次が②『狭田の地』、③『闇見(くらみ)の地』、最後が④『三穂の地』です。それで造られたのが島根半島です。
へたな「島根半島」の地図でイメージしてくださいとは難儀なことですね(島根の観光案内雑誌かパンフレットを検索してください。申し訳ありません)。目安として、①の杵築の地に「出雲大社」、③の闇見の地に「加賀の潜戸」と松江市、④の三穂の地に「美保神社」と美保関町があります。それぞれ引き寄せられた四つの地の境目には、見た目でわかる溝があります。①と②の間が「去豆の折絶(たえ)」、②と③の間が「多久の折絶」、③と④の間が「宇波の折絶」と呼ばれています。
上空から島根半島を見ると、なにやら「国引き神話」も現実味を帯びてきますね。鋸のような山並みは、国引き神話通りに、激しく大地がぶつかり合ってできた隆起でしょうか。是非、上空からご覧ください。またギザギザのリアス式海岸線にも神秘で謎めいた遺跡や神社が沢山あります。そんな島根半島、今回のおすすめは闇見の地の「加賀の潜戸」、三穂の地の「美保神社」です。
闇見の地の「加賀の潜戸」
松江駅からバスで小一時間のところに「加賀の潜戸」があります。潜戸鼻から続く断崖や海岸線は大山隠岐国立公園に指定されています。遊覧船での見学がお勧めです。神話と神秘、そして命の儚さから尊さを知らされます。本サイトのトップでも使用していますが、加賀の夕景は絶景です。
旧潜戸・新潜戸は通称で、旧潜戸は「仏潜戸」、新潜戸は「神潜戸」と呼ばれていました。
新潜戸の「神潜戸」は三つの入口があり、洞穴には遊覧船が乗り入れます。鳥居のあるところが、佐太大神(松江市鹿島町の祭神)のお生まれになったとこと伝えられています(『出雲国風土記』)。水がしたたり落ちています。その水を「乳水」と呼んでいます。旧潜戸の「仏潜戸」には、石が積み上げられ、亡くなった子供を供養しています。ほかでも言えることですが、地元の人々に長く引継がれた地であることを忘れずに。
本サイトの「古代史の小径」の「小径4 神話と大地の神秘! 神の生まれた洞窟「加賀の潜戸」」をご一読ください
三穂の地の「美保神社」
松江駅からバスで50分の所に美保関町があります。漁師町の美味しい香りが歓迎してくれます。海鮮料理を食べるのも、参拝の後にお酒と食べるのも、貴方の胃袋と時間次第です。さて、石段を登り振り返ると眼下に美保湾が広がり、海の香りを五感でも感じることができます。雨に濡れると淡い青色になる石畳が敷かれ、神秘なパワーに包まれています。
御祭神は三穂津姫命(みほつひめのみこと)と「えびす様」の別名である事代主神(ことしろぬしのかみ)です。出雲大社の大国主大神(地元では大黒様)と美保神社のえびす様の両方をお参りすることを、地元では「えびすだいこく両参り」と呼んでいます。美保神社は全国3000以上あるえびす様の総本宮です。
さてここには独自の神話や言い伝えが残っています。えびす様とニワトリの因縁の話には、思わず笑ってしまいます。どんな逸話か? それは直接訪ねてお聞きください。かつてはニワトリの卵も食べなかったと、本当か嘘ともつかぬ話が伝わっていました。
さて、みなさま、鳥にでもなった気分で島根を旅し、古の出雲の都や海岸線を散策してください。
叔父さんのお嫁さんの実家が島根半島の漁師町にあります。そこでは、「さめ」のことを「わに」といいます。神話の『因幡の白兎』にも「わに」とでてきますが、「さめ」のことです。なぜなのか知りません。誰か教えてください。そうそう、美保神社のえびす様も足を「わに」に食べられそうになりました。その話、子供の頃は意味が分からなかったけど、大黒様も・・ですね。((笑))
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