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第一回 世界遺産「石見銀山」は3つのエリアの複合遺産

はじめに 

2021年7月現在、日本の世界遺産は、文化遺産20件、自然遺産5件の計25件が登録されています。世界全体では、文化遺産897件、自然遺産218件、複合遺産39件の1154件です。

最近の日本での世界遺産認定は、2021年7月、「奄美大島、徳之島、沖縄北部及び西表島」の自然遺産と、「北海道・北東北の縄文遺跡群」の文化遺産です。

石見銀座が世界遺産に登録されたのは、秋川雅史の『千の風になって』が流行った2007年(平成19年)のことでした。

1 世界遺産登録「石見銀山」

そんな世界遺産の石見銀山を観光めぐりとは別の視点で紹介します。

1-1 世界遺産「石見銀山」を構成する3つのエリア

まず、世界遺産「石見銀山」は、3つのエリアで成り立っています。

この3つのエリアが、「石見銀山」の世界遺産認定となる『世界遺産認定基準』の3点の『基準(価値)』と重なっています。このことが世界遺産認定活動の特徴ともいえます。

さて、3つのエリアと3つの『基準(価値)』が重なることで、認定に向けて頑張ってこられた地元住民の皆様、調査研究を担われた関係者の皆様のそれぞれの特徴ある活動を具体的に理解することができます。そんな皆様の活動を知ることも世界遺産の楽しみ方です。

それは認定を得ることの活動も大切ですが、その後の保護・保存し続ける活動がもっと重要という考え方に繋がります。そこに旅行者としての関わり方も生まれてきます。

なお3つのエリアは、有機的に結合・関係しています(別々の存在でありながらも相互に影響し、関係しあうこと)。最終的には、統合した視点で考えてください。

1-2 3つのエリアとは

3つのエリアとは次の地域です。

①銀を採掘、精錬した「仙ノ山」(せんのやま)周辺です。
 ※石見銀山という山も地区もありません。
②代官所や役人、そして銀に係わる商人や運搬業者などが暮らした「大森町」一帯です。
③銀の運搬や銀山で働く人々に食料などを運搬した日本海の港に続く二つの「銀の道」です。鞆ヶ浦道(ともがうらどう)と温泉津沖泊道(ゆのつおきとまりどう)です。
そして江戸時代は、中国山地を馬で運ぶ大阪の御銀蔵への尾道ルートです。

世界遺産「石見銀山」とは、この3つの地域をあわせたもので、それぞれがあってこそ世界遺産の「石見銀山」です。すなわち、いずれかがなければ認定されていなかったでしょう。

ここに人々の生活文化と海外との交流が付加されました。

1-3 世界遺産認定の基準

世界遺産の認定基準とは次のことです。

「世界遺産リストに含まれるには、候補は顕著な普遍的価値あると共に」、10の基準(※)のうち少なくとも一つを満たす必要があります。そして「性質の保護、管理、信頼性と整合性との間に有意な相互作用があると認識された文化的景観」が求められます。

10の基準(※)については、「ユネスコ世界遺産センター・選択基準」を検索、ご覧ください。

1-4 石見銀山認定の価値と判断

石見銀山は、「選定基準」の10の中から、次の3点の価値によって認定されました。すこしくどい説明ですが、お付き合いください。

1)認定基準3の「現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である」(※)。

=これは、銀を採掘、精錬した跡が良好に残っている現状のことです。発掘調査によって検証されました。

2)認定基準5の「あるひとつの文化(または複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は、人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの)」(※)。

=銀の採掘・精錬から生産だけではありません。その生産に従事する人々の住居や、監督・運搬、あるいは生活を成り立たせる産業など、その周辺に至る全体像が明らかで、また街道や港が現存していることです。大森町の景観保存や古民家再生が顕著な例です。

3)認定基準2の「建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわたる価値観の交流又はある文化圏内での価値観の交流を示すものである」。

=世界的に重要な経済、文化交流を生み出し、それが現存、もしくは資料として立証されていることです。ここでは世界との交流や関係です。また銀の産出による世界経済への影響です。

1-5 3つの認定基準に重なる3つのエリア

さて、3つのエリアをよくよく見ると、「世界遺産認定基準」の各3項目にピタリと該当していることに気づきませんか。

認定基準3が、①の仙ノ山の発掘・精錬・住居から大森町
認定基準5が、②の大森町から銀の道と港や町
認定基準2が、③大森町の生活文化と港を経由した海外交流

です。

このように繋げることで、石見銀山一帯をどのようにして世界遺産「石見銀山」として認定してもらうか、住民の皆様、研究者、行政の皆様の思いや深みが見えてきます。

石見銀山観光に出かけられたら、この認定に向けて、それぞれの皆様がどのように関わり、そして認定後もその保全・保護維持のためにどのような活動をされているかご覧ください。

世界遺産に限ることなく、残された歴史・文化、あるいは自然の遺産は、認定までが大変なのではなく、その後の保存・維持の活動と共存がいかに大切なのか理解できます。

観光で出かけた私たちが何をすべきか、おのずと明確になります。

ゴミを捨てないなど当たり前です。保存や再生のために活動し、景観維持の努力を続ける人たちにどのように関わるかです。それは旅行者としての新しい意識付けともなるはずです。また、そこに関わることで旅行者としての意義深い思い出創りともなるでしょう。

1-6 石見銀山は意識的に3つに分けて見学し、最後に頭のなかで俯瞰する

まず、銀を採掘、精錬した「仙ノ山」(せんのやま)の見学をお薦めします。

町中は車での移動は禁止です。最寄りの駐車場に停め、レンタル自転車をお借りください。行きは坂道を上る走行となります。電動式自転車が楽です。また町中の相乗りの電動車もありますので、時刻を確認の上、ご利用ください。

ここから大森町の全景を一望しましょう。できることなら国土地理院の地図を用意し、マーカーで線を引きつつ書き込みをして、戦国武将の参謀にでもなった気分で貴方ならではのマップを作りましょう。

   

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