ローカルコメディアン でがらし亭 加島(松江市在住)
一輌の気動車が山間を縫うように進む。架線や支柱はなく線路だけが続く。周辺の風景が間近に感じられ、時折木立の間を抜けていくのがなんとも楽しい。2004年の暮、JR木次線で横田町へ向かうところである。途中の木次駅では十数人いた乗客が四人になり、そのうちの一人は木次駅で乗り込んだ欧米系の若い女性。職業はALT(英語補助教員)ではないかとも思われる。ひょっとして行く先は?
横田町の民家で亭主自慢の手打ち蕎麦がふるまわれ、私は余興の英語落語をすることになった。客は当日船通山登山を終えて駆けつけるグループと数名のALT(外国語指導助手)の方々らしい。
このあたりでは最近まで、正月や祭りのご馳走に蕎麦が欠かせず、打つのは主に主婦の仕事であった。今も所々に粉引き場があり、蕎麦の実を蓄える家も多い。
登山グループの一人から頼まれこの日蕎麦打ちをするのは、元教員の永濱さん。住まいは町外れで、落ち着いた構えの比較的新しい和風住宅。横に農家の納屋のような建物があった。
蕎麦にこだわる永濱さんは、在来種である横田小蕎麦を栽培し、周辺に収穫量の多い出荷用の品種が植えられるとそれとの間で交配が進み横田小蕎麦の純粋さが失われるのを心配している。彼はわざわざその実と他品種の実を比較して見せながら、横田小蕎麦は実が小さく味も香りも違うと言う。蕎麦打ちの腕もよく、さすがに見事な味わいだった。
薬味の大根も格別で、それら食材のほとんどが自家製。むかごご飯と大根鍋。欧米の人達にも向くのかと思うと、木次駅から乗車した女性からI have never eaten Daikon that had a flavor before!(こんなに香気のある大根は初めてだ)と美味しそうな一声。蕎麦は側にあるものでもてなすからソバと言うのか、側に植えるからソバなのかわからないが、その土地ならではの食の幸を堪能した。
英語・出雲弁落語はパーティの冒頭、観客は十数名。外国人と日本人から交互に笑いが取れた。松江から着物を携え旅費を払って落語をしにくる物好きもいれば、見ず知らずの人に自宅と蕎麦を提供する人もいる。
帰途は登山グループのワンボックスカーに便乗した。その日彼らは下山後、船通山の斐乃上温泉で入浴も楽しんできたとか。
ローカルには厳しい時代とも言われるが、ローカルの楽しみは財布にやさしいローカカク、体にもやさしいローカロリーだった。
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