-「木次線の思い出」を東京駅の構内で考えた-
高橋 寧(埼玉県在住)
この場をお借りして、木次線の思い出を通した駅の新しい活用として「町づくり」をお話しさせて頂きます。暫し、私の話にお付き合いをお願いします。
■移動としての駅
子どもの頃の木次線は、松江に行く唯一の交通手段でした。当然、松江から帰る唯一の交通手段でもありました。
松江駅は大きく、食堂や売店に駅弁売りの人もいました。宍道駅、大東駅、木次駅にも売店はありましたが、大半の駅には売店などありません。その代わり、70代以上の世代の方なら記憶されているでしょう、駅前食堂がありました。森繁久彌や伴淳三郎、フランキー堺に森光子が出演した映画『駅前シリーズ』にでる食堂です。
木次線の小さな駅は、出発までの「待合室」。そして運ぶための集合地点。
地元の方が活けた生け花の横に、地元の方が創作された短歌や和歌が書かれた短冊が掛けてありました。ときに何カ月前の漫画や週刊誌もありました。旅人の寄せ書き帳もありました。
手づくりの小さな駅の待合室は、ここを出ていく人同士や見送る人が暫し語り合い、また見送る人と見送られる人が別れを惜しみ言葉を交わす空間でした。
やがて車が普及し、道路が整備されると交通手段は車に移行しました。通勤は車へと変化し、観光客は観光バスに、旅行者はレンタカーに、帰省客も地元の親や親戚が車で迎えに来るようになりました。
人だけではありません。荷物も駅を使うのでなく、家まで取りに来てくれる宅配便へ移行しました。キップで荷物を送るチッキも見なくなりました。
人や荷物が駅からなくなるように、日常生活にも大きな変化の波が打ち寄せました。遠方との連絡も電報や電話局の電話から、自宅の黒電話になり、やがてパソコンや携帯電話の個人使用への変化し、皆のいる居間から自室や今いるところへと大きく様変わりし、生活様式も文化も大きく変化しました。
人はどこかに行く必要がなくなったのです。周遊券で全国を旅したころに旅人同士が互いの連絡に使用した駅の「掲示板」もなくなり、宿の定番ユースホステルでの電話の取次ぎさえ不要になりました。
■変化する駅
「A地点からB地点」(懐かしい言葉)への移動だけの駅ではなくなりました。それを印象付けるのが都市部の駅の「エキナカ」という商業施設です。交通の拠点以外の利用、新たな活用の追求と拡大が始まったのです。店がお客を求め駅に出向くのです。更にポイントカードの特典がうまれました。
かつて構内はお土産屋と飲食店が並ぶだけでした。やがて大型書店ができ、日常雑貨や衣類の店舗、そして高級な総菜屋にはじまり行列ができる銘菓まで、買い物の合間にお洒落なコーヒーショップ。駅は多目的商業施設となり、生活者の消費を創造し吸い上げ、やがて交通費より大きな利益を生むことでしょう。
駅は変わったのです。どこの駅も変わらなければならないのです。変化する社会やマーケットのなかで、変化しない施設や店は淘汰されます。それが消費社会の摂理です。
ところが社会環境や立地条件、自然環境でうまくいかない企業や店があるように、利用者減で苦しむ駅もあります。
あいつが悪い、運がない。人のせいにするのは楽なことです。でも自己努力を怠るものは敗北しかないのです。敗北とは倒産です。
資本は倒産の前に『集中と選択』のお題目のもと、「合理化」という施設の縮小や人員整理に首切りを敢行します。会社対労働者の労働争議です。
資本や財産がない労働者や生活者はどうしたらいいのでしょうか。(話がそれました)
■さて木次線
利用客の減った木次線は、駅から駅員がいなくなり無人駅となりました。1974年上映の『砂の器』の撮影時、亀嵩駅は運営を民間に委託し、蕎麦屋のある駅でした。まだジュリアナ東京など虚業に浮かれたバブル期前のことです。今、木次線ではSuicaカードは使用できません。自動化する投資は費用対効果がないと判断したのでしょう。
ついに木次線の一部廃線が土壌にのり、カウントダウンの声さえ聞こえます。
地元の方や木次線愛好の皆さんが継続を求め色々な活動をしています。自治体も利用のための施策を行っています。地元住民の利用、観光客を増やし木次線の利用、駅と地元連携したイベント開催等。みんな、すばらしい活動だと思います。
でも、みんな交通手段としての駅利用の延長です。駅の利用者を増やす従来と同じ施策です。人が来なければ終わりという呪縛に取りつかれているのです。
そこで提案として、「運ぶだけの駅(線路)」の継続の活動は続けるとして、東京駅などの既に実証された多目的な駅を木次線駅でも考えたらどうでしょう。もちろん既に自治体や地元の方はいろんな手を打ち、駅に併設したスーパー(三成駅)など実施されています。これをもと地元還元型と情報発信型にする計画です。
「町づくり」と「駅の存続」の二本柱とした考えです。将来的には「町づくり」を主とし、「駅の存続」を従とした活動です。出雲坂根駅はなくなったが、スイッチバックは残り、町づくりに活かすと考えてください。
■駅のとなりに広場を創る
駅の資産は誰が所有するのか詳しくはありませんが、きっと駅も構内も、そして鉄道も鉄橋もJR西日本の所有物でしょう。これを利用させてくれと懇願するのは大変なことでしょう。
そこで、駅前の広場に自治体と住民による「駅前施設広場」をつくるのです。そこには地元の方を対象にした市場や無料集会場や飲食店を開設します。観光客がくるかどうか関係ありません。第一歩は赤字前提(人件経費を引いた)の、「地元民による地元民のための地元の広場」をつくりましょぅ。ある意味、駅前祭りですね。法律相談や結婚相談もあっていいでしょう。
規模や期間は小さくてもいいのです。地元の人が集まる場所をつくりましょう。一日だけのテントでも、空き家の利用でも形態は何でもいいのです。高校生の学習室に、通勤や農作業の合間に、各種イベントの打合せに使用してもらいましょう。
次に大切なのは何か。キャラクター制作ではありません。大切なのは、運営の「哲学」です。時代は物売りだけでは成功しません(本音は儲けでしょうが)。誰のために、何故するかの明確な哲学(考え方)を創り、みんなで共有します。次に哲学にそった施策を具体化するのです。ビジョンと目標と実行です。
哲学がないと旅行者に共感されません。物の価値だけでなく、本質の価値が重要なのです。
■広場の中心にシンボルを
第二ステップに向けて大切なのが、地元住民や近隣住民だけでなく、全国に情報を発信できるインターネット発信局(web/SNS等)です。周辺住民向けのラジオ局もいいでしょう。これが外部の人、具体的には旅行者や共感者を呼ぶ、プロモーションになるのです。ここからが第二の勝負です。
昭和の時代、大学が学府と呼ばれた頃、大学には象徴とする時計台やチャペルや並木など象徴する建物や小径がありました。
立派なものである必要はありません。象徴となるもの作りましょう。ただしインスタ映えするデザインにはしましょう。
そこに置く機能が、第二ステップのラジオ局やインターネット発信局です。
哲学、コンセプト、情報発信の内容や運営デザインなどは、長くなりますので、ここでは省略します。ただ、大切なことは、全国に独自なチャネル(伝達手段)で情報を発信することです。テレビや新聞など第三者に任せてはいけません。住民による、住民のための、住民の発信施設です。
「JR西日本」の駅を残すことを目的にするのでなく、駅や線路の存在を活用した新たな価値(アイディア)を創り、それは言い方を変えれば、「町づくり」です。
町づくりにはシンボルが必要です。そのシンボルとは人が集まり、情報が集まり、あらたな価値(ビジネスや商売)が生まれる旗です。その旗のもとに「ヒト・モノ・カネ・情報」が吸い寄せられるのです。
■町づくりとしての木次線存続活動
駅は町づくりのひとつのツール(手段)として捉えましょう。本質は、「住民による、住民のための、住民の広場」です。そこにひとつの機能として駅舎があるのです。
木次線沿いの雲南市と奥出雲町と住民と企業や商店や農家が、「志」をひとつに連携しなければ成功しません。そのためには共通言語としての「哲学」が必要です。
仮に、本当に例えばですよ。駅がなくなり、木次線がなくなっても、町は残り、町づくりの哲学と実績・教訓、そしてなによりも未来につながる町づくりはつづくのです。それは必ず次の世代の財産になります。
■おしまい
わたしには運ぶだけの駅は、思い出の中にあるだけで十分なのです。
駅の意味を町の考えで変えましょう。廃線という難問を町づくりに活かしましょう。
廃線に賛成しているのではありません。反対です。
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