-時空が伝える自然と生活-
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった」(川端康成『雪国』、冒頭の分より)
海外旅行は趣味ではないが、テレビ朝日の『世界の車窓から』が好きでよく見た。23時過ぎに始まる五分ほどの番組で、読書を終え寝床づくりにはいる前の一区切りみたいなものだ。
ナレーターの石丸謙二郎が悪いのではないが、車両のぶつかり合う音や駅舎の喧騒だけで十分だった。ときに部屋を薄暗くし、テレビの音も消してバーボンを舐めつつ見ることもあった。五分ほどの旅。
なぜ好きか、何度も考えた。これだという理由はまだみつからない。ただ、見知らぬ地を、何を考えるのでもなく過ぎ行く感覚が、一日の終わりに相応しいと思ったからだろう。そう、ぼっーとしつつも心に残る感覚だ。
冒頭に引用した川端康成の『雪国』。出足が好きで、何度も読んだ。川端康成が好きではなく、『雪国』の冒頭が好きだった。その延長で、舞台になった上越線に乗り、清水トンネルを抜けた。また越後湯沢にも泊った。通過するたびに駒子が形を帯びてきた、その時の心模様を映すように。
一部廃線がささやかれる「木次線」。存続を求める活動のひとつとして雲南市は、毎年『木次線』のカレンダーを制作し販売する。『島根国』でも紹介した。今年も制作することだと思う。是非、購入してほしい。(あらためて販売日は紹介します)
月初めにめくり、木次線を走る列車の勇姿と風景を眺めるのを楽しみにしている。写真の下に表記された駅名を読むたびに、駅舎や駅前周辺の町並みを思い出し楽しむ。
そんな時、過るのが『世界の車窓から』の映像だ。木次線の車窓から風景や人々を見たくなる。
母に連れられ父が入院する病院に向かった子どもの頃、松江の高校に進み長期休暇の折に帰った道、卒業と共に島根を離れ、気が向いたら帰郷したころ。やがて家族ができ、子供を連れて帰ったころ。
木次線の列車を見るのではなく、木次線の列車から田園風景を、山並みを、そして点在する家々を見ていた。都市部に比べ大きく変化することのない町、変わることのない山々や川。しかし、人生という流れと共に異なる感慨を受け、思い出が現れる。一方で、変わることのない『存在』を感じた。
それを絶対的『美』と位置付けている。美しいという『美』ではなく、存在としての『美』。人によってはなんの変哲もない風景かもしれない。
『砂の器』で話題となった亀嵩から出雲横田に向かう下りの木次線。トンネルを抜けるとやがて横田盆地が見え隠れし、線路が大きく右に曲がり、左手の車窓いっぱいに横田の町並みの後方に中国山地、それも『八岐大蛇退治伝説』の地、船通山の山並みが、あたかもうねる八岐大蛇(ヤマタノオロチ)のごとく広がる。
この景色が、木次線の車窓から見る風景で一番好きな「瞬間」。そう、スポットという場所ではなく、時間の流れと共に景色を体感する時空だ。
ここに奥出雲の歴史と文化、そして伝説が凝縮されている。なぜ、素戔嗚尊(スサノオノミコト)が高天ヶ原を追放されると斐伊川に沿って奥出雲に辿り着き、櫛伊奈姫(クシイナダヒメ)を娶り家族を作ったか。なぜ「仁多米」が美味いか、なぜ「蕎麦」が美味いか、なぜ「日本酒」が「水」が美味しいか。すべて分かる、風景という観念で。
車窓から見る風景。それは動いているから一際映える。なくしてはいけない。それは自然や文化とともに、流れという「時間」が示す移り変わり。
横田盆地だけではない。木次線の車窓から見る素晴らしい風家はいたるところにある。そこには、悠久の時を刻んだ自然と喜びも悲しみも織り成した人々の営為がある。
木次線から見る景色を残すためにも、木次線を残そう。
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