• ~旅と日々の出会い~

十一話 出雲王国の滅亡

第三の使者

さ~てと、オオクニヌシが出らっしゃる神話の最後だな。いよいよ、アマテラスに『葦原の中つ国』を譲るときが来てしまいましたわ。スサノヲの降臨からはじまって、オオクニヌシの試練から国造り、ところが、その国は我が子のものだと言わっしゃったアマテラス。第一使者も、第二使者もうまくかわしたオオクニヌシだが、さてさて、第三の使者はどんな神様か、どう立ち向かいますか。はじまり、はじまりだ。

●緊張した童の瞳が爺さんに張り付いている。

またもや遠征に失敗したアマテラスは、神様を集められ、「次はだぁを送るか」と相談された。三番目の使者のことだな。そげすと、神様が言わっしゃった。

「天の安の河の上流の天の岩屋におおますイツノヲハバリがええですわ。駄目なら、その神の子のタケミカヅチがええですけん。そげだも、なんぼええといっても、タケミカヅチは天の安の河の水を堰き止めて道を塞いでおぉますけん、泳ぐことができるアメノカクを使いに行かせるしかあぁませんが」

タケミカヅチはな、イザナギが火神を剣で切り殺したときに血が飛び散って生まれた神様だ。そげだけん、まあ、戦ごとの好きな、武闘派の神様だ。アマテラスも話し合いでは無理だと思わっしゃたのだな。

そこで、アメノカクがアマテラスの使命をもって行きなさった。会ったイツノヲハバリも、タケミカヅチが「ええ」と言うもんで、アマテラスはアメノトリフネを付け、第三の使者として出雲に送らっしゃった。アメノトリフネとはな、空を自由に飛べる神様だ。

●出雲神話の最後と思うからか、童たちの眼も真剣だ。どこかに「出雲国」をアマテラスに譲りたくない思いがあるからだろう。とくに年長の男の童が前のめりで、今にも飛びかかりそうだ。

稲佐の浜

タケミカヅチはな、出雲大社の近くの稲佐の浜に降臨されるとな。十掬(とつか)の剣を抜き、切れる刃のほうを上にし、柄を打ち寄せる波がしらに刺し、そげして尖った剣の上に胡坐をかいて座らっしゃった。

●爺さんは、中腰になると尻の下に短い木刀を当てらっしゃった。

●「けつの穴に刺さるが」、「いてーよ」、「むずむずすうが」。男の童がちんちんを押さえる。 

稲佐の浜

そげだな、たまらんな。こげな格好でオオクニヌシに叫ばれた。挑発だな。そこがタケミカヅチの戦略と言うか、戦法だった。

「我はタケミカヅチ、アマテラスとタカギの神様の仰せに従って、おぬしに問うためにやってきた。アマテラスは、この葦原の中つ国は我が子が治めるべき国であるとおっしゃった。そこで聞くわ、われの考えはいかに」。

わしが思うにタカギの神様はタカミムスヒだと思うちょう。

●「爺さん、カムムスヒが出雲の神さん側で、タカミムスヒがアマテラス側だろう」

●爺さんは頷いた。

よう、覚えちょった。

そこで、オオクニヌシは答えらっしゃった。

「わしは申し上げられん。すでに隠居した。あとを継いだ息子のコトシロヌシに聞いてくれ。しかし、やつは魚を獲りに美保の岬にでかけちょうが」

●小さなの童が手を挙げて尋ねた。「オオクニヌシさんがスクナビコナに会わっしゃったとこかね」。

そうだな、わしもそげだと思うは。小さいのにしっかりしちょうな。今の島根半島の左にああのが出雲大社に稲佐の浜だな。そげして右端が美保の岬だ。

ちょんぼ難しい話だが、この「稲佐の浜」の「稲佐(いな)」はな、「諾否(いなせ)」の変化した言葉だという説もああよ。「諾」は「承諾(しょうだく)」という「了解します」の字だ。「否」は「否定します」の字だな。そうがくっ付いたのだ。認めるか、認めんのかという意味だな。

●「すがすがしいところ」だから「須賀神社」。爺さん、面白いな。地名にもいろんな意味があるということか。そげすうと名前にもあるということだな。わし、来年の夏休みの宿題にすうわ。「村の名前の由来」だな。

●爺さんは嬉しくなった。子供が郷土を見詰める。いい勉強だ。それにいろんな人と交わることになる。

さて、タケミカヅチの命令でアメノトリフネは飛んでいき、コトシロヌシを連れてきた。打つ手が早いな。グズグズしちょらん。それが戦に慣れた指揮官だ。

タケミカヅチに問い詰められたコトシロヌシは父神のオオクニヌシに言わっしゃった、「恐れ多いことです。アマテラスに差し上げましょう」と。そげすうと、自分が乗ってきた舟をひっくり返すと舟の中に姿を隠してしまわっしゃった

●「弱虫」。童が一斉に口にした。戦うことも、議論もしない失望したのだ。

まあまあ、藁たちよ、そげに怒らんと。いろいろな考えというものがああもんだ。

そげすうとな、タケミカヅチは「もうおらんか」とオオクニヌシに聞かしゃった。「もう一人、わぁが子のタケミナカタがおおます」。

力と力の対決

そこに、大岩をお手玉のようにして弟のタケミナカタが帰ってこらっしゃった。「だぁだ、俺の国に来て、勝手にこそこそ話ちょう奴は。俺様と力比べだ。俺がまずお前の手を握る」。

タケミカヅチとタケミナカタ。名前がちょんぼし似ちょうが。そうががっちりぶつかった。

●まだ、テレビなどこの村に数台しかない頃。童たちはラジオで聞く大相撲を想像したかもしれない。あるいは月に一度の映画鑑賞会で観ると東映映画のチャンバラを思い起こしたことだろう。

まず、攻めてきたタケミカヅチが自分の手をタケミナカタに握らせた。そげすうと手は氷柱(つらら)に変わり、一挙に鋭い剣に変わった。どげな力持ちでも、冷たいもんや手が切れてしまう剣を握ちょうことはできん。タケミナカタは怖気づいた。

そげすうと今度は、タケミカヅチがタケミナカタの手を握った。お互いに筋肉隆々の力持ちだが、タケミナカタの手は葦でもあるかのように簡単に握りつぶされた。

タケミナカタは怖くなって逃げだした。それをタケミカヅチは追いかけた。ここのへんもこれまでの使者とは違うな。やはり武道の神様は徹底的だ。今の長野県の諏訪湖に追い詰めて殺そうされた。そげすうとタケミナカタは言わしゃった。

「許してくれ、殺さんでくれ。俺はこの地を除いてどこにも行かん。父オオクニヌシや兄コトシロヌシの言う通りする。この葦原の中つ国は天ツ神に差し上げます」と降伏した。

●失望した童たちが弱弱しい視線を送る。いつも同じだ。島根に生まれし童たちに、この顛末を話すときまって失望する。スサノヲからオオクニヌシの国造りを一喜一憂しつつ楽しんだ童に、アマテラスの国譲りは理不尽なことだ。そして、次第に不条理な要求を武力でもって容赦ない制圧にでたことに怒りを持ち始める。

●爺さんは、そんな童にやさしく語り掛ける。

童たちよ、どうだったかな。腹立つかな、悲しいかな。さてさて、もうちょんぼし話して今日は、こっぽし、こっぽしだけんな。

タケミカヅチは出雲の国に帰ってくるとオオクニヌシに言わしゃった。

「お前の子供のコトシロヌシも、タケミナカタも、天ツ神の命令に背かないといった。お前はどうなんだ」と。

オオクニヌシは、どげな気持かな、複雑だっただろうな、いろんな思いがよぎっただろう。また出雲の民のことも考えたかな。結局は了承された。ただし条件付きでな。

「そのかわり、ここに高天ヶ原まで届く高い社を建ててくれと。そこでひっそり暮らします。また我が子たちは、コトシロヌシを先頭に従います」と言いなさった。そげして宴会をもうけなさった。

タケミカヅチは高天ヶ原に戻ると、アマテラスに『葦原の中つ国』を無事平定したことを報告されたということだ。

●童たちは一言もしゃべらない。身動きさえしない。そして、いつもなら沸き上がる拍手もない。爺さんの次の言葉をじっと待っている。

その後のスサノヲさんもオオクニヌシさんのことも、だぁも知らん。ただな、この島根の地だけじゃない。全国の至る所にスサノヲさんやオオクニヌシさんを祀る神社がある。そうだけじゃないぞ、クシナダヒメやヤガミヒメ、スセリビメにヌナカワヒメの神社もああが。みんなもな、大きくなったら訪ねてみんしゃい。

●年長の童が拍手した。それにつられて年少の童も拍手する。「お爺ちゃん先生、ありがとう」。女の子の童の言葉に拍手が上がり、みんながお礼の言葉を口にした。

●「爺さん、これからどうなるのだ。出雲神話は終わったが、その後の神話はまだああだろう」

そうだな、次回はな、この出雲の国だけに伝わる『国引き神話』を話すわ。これはな、『古事記』や『日本書紀』にはない、『出雲国風土記』にある話だ。楽しみにしとけ。

●数日前からここに居ついた老犬が尻尾を振りつつ、童たちのあとをついていく。近所の犬でもない、首輪も付けていないが野犬にしては人懐こい。どこぞの遠くの村から迷い来たのだろう。

 オロオロ) しょせん勝ち負けだ。勝った側の神話であり歴史だよ。おらは敗者の歴史をさがすつもりだ。

 クシナ) どうしてこだわるの。

 オロオロ) こだわりでない。ただ知りたいだけ。僕のことを、僕の祖先を。

 クシナ) クシナのお爺さんに、まだ会えないの。

 オロオロ) 話すことはないって言われたからな。

 クシナ) で、どうするの。

 オロオロ) 近くの爺さんや婆さんに聞いてみる。それと神主だ。

 クシナ) そしたらどうするの

 オロオロ) この村を出る。

 クシナ) ・・・ 

                       終わり   

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