• ~旅と日々の出会い~
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三話 ヤマタノオロチ退治伝説 ―オロッチよ、永遠に― 

さーて、童たちよ、いよいよスサノヲ(素戔嗚尊)とヤマタノオロチ(八岐大蛇)の対決だな。地上に降り立ったスサノヲと、それは、それは恐ろしいヤマタノオロチとの戦いが始まるぞ。童たちよ、ここからが「出雲神話」の始まりだ。

●爺さんは、大きく柏を打った。それに合わせて童たちも手を叩く。庭に広げた花ござに、いつもより多くの童が座っている。子守の赤ん坊を背負った童もいる。今日は一年に一度の豊年祭り。村の童だけでなく、隣の村の童も歩いて来た。目当ては、境内に並ぶ夜店のおもちゃや食べ物だけでない。神楽や奉納相撲、青年団ののど自慢に芝居だ。その前に腹ごしらいだ。爺さんも婆さんも楽しみで、握り飯と町の店から取り寄せた駄菓子でもてなす。

●門の影で庭を覗き込む童に手招きする。隣村の童だ。秀才の童だと聞く。婆さんから竹の皮に包んだ握り飯に餅、和紙にくるんだ菓子を受け取ると、丁寧に礼を言い、弟らしき童の頭を押さえてお辞儀させた。

船通山(鳥髪山)

種や蚕を持ち帰ったスサノヲ

さて、高天ヶ原で罰を受け追い出されたスサノヲは、地上に舞い戻ることになった。地上に向かうスサノヲは腹が減り、ホオゲツヒメに食べ物をくれと求めなさった。するとな、ホオゲツヒメは、鼻や口だけでねえ、尻の穴からも食べ物を出さしゃった。こげしてな・・・。

●立ち上がった爺さんは、着物の裾をめくりあげ、中腰でうなって見せた。童たちははやし立てた、「こうやってか」。婆さんも娘も孫も笑っている。

そげだ、そげだ、そげだがね。おかしなことだ。だがな、みんなは笑っちょうが、スサノヲは怒って切り殺してしまった。短気なスサノヲだのお。ところがな、おべたことに、殺されたホオゲツヒメの身体から次々といろんなものが生まれてきたげな。頭には繭、目には稲、耳には粟、鼻には小豆とな。なんと尻からは大豆が出てきたわ。

●兎の糞だと童が笑う。みんなつられて笑いだす。

そげだな。兎の糞に似ちょうな。するとな、高天が原にいますカムムスヒ(※)とおっしゃる神様が、それをとってスサノヲに持たせなさった。これをもって行くがいいと。そげだがな。大切な農作物の種をもってスサノヲは、地上へと降りてきなさった。

  ※ カムムスヒの神様は今後も出雲神話に深くかかわる神様です。記憶にとどめてください。

●婆さんと娘が皆にお茶を配った。「さあ、たべえだわ」。童は顔を見合わせて頷き合うと一斉に竹の皮を開く。白飯と赤飯のお握りの包、おはぎとアンコ餅の包。めいめいが顔を見合わせて「いただきます」と口にした。

奥出雲の鳥髪に降り立つスサノヲ

さて、さて、童たちよ。いよいよスサノヲが地上に降りてきなさった。それは、それは、荒々しく、天を引き裂き、大地を揺らし、電撃石化の雷のごとく飛び降りたげな。

そこは出雲の国の肥の川、今の斐伊川の上流で、鳥髪(とりかみ)の里だ。そうじゃ、船通山のある村だのお。鬱蒼と繁る大木の山々、晴れ渡った青空に飛翔する鷲、小風に揺れる野原を走り抜ける小動物、そして果てることのない水の流れ、その川辺には猫柳の木が生え、すばしこい魚影が水藻を揺らしておったげな。

スサノヲは銀色に輝く流れに導かれ川の上へと行きなさった。そげしたら、川の上から箸が流れてきたそうだ。スサノヲは大きく頷いた。こげんとこに人が住んでおうわ。スサノヲは大股で上流へと草を踏みしめ歩きなさった。

  オロオロ) とりかみなの? 今の鳥上なのかな。

  クシナ) そうよ。渓谷を流れる斐伊川も、横田のあたりでは開けるでしょう。それに、そのあたりは昔から農業も盛んだった(出雲国風土記)、辻褄も会うね。

  オロオロ) それに、たたら製鉄もあるしね。

どんどん歩いていくとな、老いた男と女が若い娘を挟んで、シクシクと泣いておらっしゃった。

スサノヲが「おめえたちは、何者だがね」と聞かっしゃった。すうと老いた男が答えたげな。

「おらはオホヤマツミの子でアシナヅチ、女房はテナヅチ、娘はクシナダヒメと言いますが」

スサノヲはさらに聞かっしゃった。「なんで泣いちょうか」

そうすうと爺さんは背を伸ばし言わしゃった。「わしらには八人の娘がおましたが、高志(こし)のヤマタノオロチが毎年やって来て、娘を一人ずつ食べてしまいました。その日が今年も来ましたわ。こうが最後の娘ですけん。そげで泣いておますが」

「なんちゅうことだ。そいつはどんな悪党だ」

婆さんも娘も顔を伏せて泣くだけで何も話さん。

●立ち上がった爺さんは童を見渡して、大きく目を開き、両手を広げた。まるで東映の時代劇映画『新吾二十番勝負』の大川橋蔵のような見えを切った。

ヤマタノオロチとクシナダヒメ

目は鬼灯(ほおずき)のごとく赤くランランと燃え、体はひとつだが頭が八つに尾が八つ、体にはコケやヒノキに杉が生え、その長さは八つの谷と山を渡る、おべぇほど大きく、腹はあちらこちらが引き裂かれ血でただれておますが。とスサノヲに言わっしゃった。

●爺さんは彼方の中国山地を眺めた。童もつられて見た。いつ話しても、聞いても不気味なヤマタノオロチ。それに、だれもヤマタノオロチが大蛇とも龍とも言わない。童自身が一番怖いものとして想像する。想像は勝手に膨らむ。映画館で見たゴジラの顔になり、キングコングの雄叫びになる。体は牛馬市の見世物小屋にいた大蛇の何百倍、何千倍。神楽のような破れた滑稽な大蛇ではなく、若い娘さえ食う化け物だ。

スサノヲは娘を見て言いなさった。「その娘をわしにくれるか」

爺さんは首を振る。「お前さんは、誰だか分らんが」

「わしわな、アマテラスを姉とするスサノヲじゃ。今さっき、高天ヶ原から帰ってきたとこだ」

爺さんと婆さんはひれ伏した。「それは、それは、大変失礼なことを致しました。娘を差し上げます」

  クシナ) いつの時代も、女って、こうなのね。ボーヴォワールの『第二の性』に気づくのに長い年月がかかったのね。

  オロオロ) 両親も神様(国津神)だよね。だったらクシナダヒメも神様だろう。

  クシナ) そういうことではないけど、まあいいわ。それよりヤマタノオロチって、何者かしら。神様かしら、それとも人、もしかして別な何かを怪物にしたのかしら。

娘を奇麗な櫛に変えたスサノヲは髪に刺し、爺さんと婆さんに言わっしゃった。「わしがヤマタノオロチを退治してやぁけん、次のせわ(準備)をせい」と。さあさあ、いよいよスサノヲとヤマタノオロチと力の、血で血をあらう戦いの始まりだ。

「まず、何度も何度も醸した強い酒を作らっしゃい。次にな、周りに垣根を作り廻らして、垣根に八つの門を作り、門ごとにつえぃ酒を樽ごと置くだが」というと、スサノヲは戦いの準備を始めたのじゃ。

●空手チョップの手形をきった爺さんに、年長の童から「力道山」と声がかかった。山奥のこんな村にテレビはない。それでも知っているのは漫画か大人の雑誌を盗み見にしたのだろう。「ヤマタノオロチは鉄人ルーテーズだ」。突然拍手がした。酔った老人が一人、鉢巻きに箸を何本も立て、腰に蓑を付けて現れた。ヤマタノオロチだ。

待て、待て、爺さん、まだはえが。もうちょっこし待ってくれんか。

●爺さんは座っていた御座(ござ)の八方に松の木から落ちた松ぼっくり(松かさ)を置いた。なみなみ注がれた酒樽のつもりだ。ほろ酔い加減の爺さんが二人、縁側から降りてきた。一人は荒縄の束を持ち、ひとりは派手な着物を手にしている。その後ろから二人の爺さんが、デンデン鼓とでっかい薬缶(やかん)を手にして来る。

●爺さんは、満面な笑顔で四人を迎え、松の木の根元の丸く巻いた御座を広げた。デンデン太鼓と薬缶をもった老人は座り、着物を羽織った老人は横に立つ。

●二人の爺さんは腰の帯に荒縄を四本付けた。どうやら二人でヤマタノオロチを演じるようだ。ひとりの爺さんから玩具の刀を受け取ると、爺さんは大声で叫んだ。

ヤマタノオロチ退治

いよいよ、スサノヲとヤマタノオロチの対決だ。

●爺さんは、八つの松ぼっくりの中心に、大きな風呂敷を被って胡坐(あぐら)をかいた。刀を右手に持ち、まるで映画の「旗本退屈男」だ。櫛になったはずのクシナダヒメは太鼓の爺さんの横に直立不動の姿で立っている。太鼓が激しく叩かれた。薬缶が笹の枝で叩かれた。嵐のような雰囲気だ。

山も川も野原も静まりかえっちょう。館の周りも重苦しい静けさだ。月が雲に隠れと、何かに怯えるように空気が騒めきだした。それはな、風が吹くのでもない、動物が動いたのでもないのだ。むしろ動物はじっと死んだふりをしておうが。森が、川が、木々が、草が、何かに怯えちょう。

●太鼓をもつ老人も笹の枝を激しく降った。童たちは気が付いた。今、話をしているのはスサノヲになった老人ではなく、赤い着物を着たクシナダヒメ役の爺さんであることに。

そげすうとな。次に生暖かくて、生臭い臭いが、体にまつわるように流れてきた。それは風ではない。なんも音はしとらん。立ち込める雰囲気だな。スサノヲは薄っすらと目を開けた。寝ていたのではないぞ。ずっと気配をうかがちょったのだ。

ついにヤマタノオロチが正体を現したのだ。聞いていた通りに、体は一つなのに頭も尾も八つ、前身はコケに覆われ木が生えちょう。時折、見える腹は赤くただれて、ところどころ赤い血が重たげに流れておうが。目は真っ赤なホウズキの実じゃ。

館の中にいるスサノヲにはまだ見えんが、まとわりつく重苦しさに身震いしそうになった。気づかれてはいけん。ここには美しいクシナダヒメが一人いることになっている。おなごの寝息をしなくてはと、スサノヲは髪に刺した櫛を握った。

櫛は丸みを帯び、しっとりし、柔らかく、手にはり付くほどすべすべしちょった。スサノヲの心は落ち着いた。と一緒に勇気も湧いてきた。

●腰に藁縄を付けた二人の老人が、足音を殺し松ぼっくりの周りを回る。スサノヲは寝たふりをして刀を握る。そんな小芝居が童に届いている。小さな童は大きな童の手を握る。腕白小僧も冷やかすことなく見詰めている。

●いつの間にか縁側に、宴会に集まった大人たちが座り見物している。村では青年団に所属している間、ヤマタノオロチ退治の神楽をする。それが代々引き継がれた伝統だ。この老人たちは、神楽の逆上(のぼ)せモノで今でも指導する老人だ。

ヤマタノオロチは暫く館の周りを回ちょった。ヤマタノオロチも雰囲気がいつもと違うなと思ったからだ。押し入ってから飲む酒が、今宵は館の囲む門にある。それも旨げな臭いを醸しておうが。そぅも二級酒でない。一級酒でもない。特級酒だ。それにみんなの分が、それぞれの門の前に置いてあ~が。

「あやしぞ」と真ん中の頭が目配せした。右の頭だけは頷いた。そうがの、ほかの頭は赤い舌をだして、いまにも酒樽を開けそうだ。香りにくらくらしている頭がほとんどだ。

●ヤマタノオロチ役の一人はコンニャクを加え、松ぼっくりに近づいた。もう一人の爺さんが足を忍ばせ、すーと松ぼっくりの中、館に入った。スサノヲの爺さんは風呂敷の中でじっとしている。

ヤマタノオロチの真ん中の頭が、館の中に音もなく、空中を這うように忍び込んだげな。それはオナゴがいるか調べるためだ。臭いを嗅ぐ。風呂敷の中身の大きさを計っちょう。赤い舌でオナゴが被る布団を舐めた。スサノヲは体を丸め震えてみせた。ヤマタノオロチはな、にやっと初めて笑った。

●縁側に立つ婆さんが声を出さずに手を振っている。昔話を話す爺さんも、ヤマタノオロチ役の爺さんも頷いた。今日は童たちへの話であることに。怖がらせてもいけないが、エロを出してもいけない。逆上せモノの爺さんもわきまえている。

飲んでも良いぞと合図すうと、みんな酒樽に頭を突っ込んで浴びるように飲みだしわ。口からたらたら溢して飲んどる。上等な米を磨きこみ、奇麗な水を汲んできて醸した酒だ。旨いだけでない、香りも良い、キレもある、そしてどこか思い出深い味がする。それは生まれる前の母の温もりのような奥深く優しい味だ。そ~おが、この強い酒の特徴だ。ヤマタノオロチの心にも響いたのじゃあ。母を思い出すころには意識もなく、立ち上がることもできないほどに酔うた。戦うことも、吼えることすらできなかった。

「こらー成敗しちゃぞ」とスサノヲは、布団を跳ねのけ立ち上がった。手には十拳(とつか)の剣を握りしめ飛びかかった。八つの頭のうち六つの首を叩き落とした。ところが、真ん中の頭と右隣の頭は、眠たそうな眼をしていたが、目を見開き、飛びかかった。そうじゃ、酒に強いのか、それとも気づいておったのかもしれん。賢い頭もおったのだ。

●風呂敷を跳ねのけた爺さんに、荒縄を捨てた二人の爺さんが、片足でケンケンしながら(六法)飛びかかる。二人の爺さんの帯がスサノヲの爺さんに絡みつく。悶絶するスサノヲ。おもちゃの刀で切りかかるが、二人の爺さんは締め付ける。暫くはこの戦いが続く。童たちはおもわずスサノヲに声援を送った。迫真の演技だ。泣き出す童をまって、芝居は終わる。大の字になるヤマタノオロチ役の爺さん二人。

ヤマタノオロチに勝ったスサノヲはな、胴体や太い尾を切りはじめたげな。流れ出る血は斐伊川に流れ、真っ赤に染まったそうだ。ところが切ろうとしたひとつの尾に刀が折れてしまった。怪しがり、折れた刀で掘ると、そこから、それは、それは切れ味のいい丈夫な刀が出てきたわ。そうが、草薙剣というそうだ。三種の神器のひとつだな。

●スサノヲ役の爺さんが、爺さんたちにお辞儀した。一斉に拍手が起きる。縁側の客人からも拍手が起きた。

さあ、さあ、童たちよ、これが「出雲神話」の始まりのヤマタノオロチ退治じゃ。今日の話はここまでだ。こっぽし、こっぽし。

クシナダヒメと草薙の剣

●再び童たちが拍手した。爺さんたちも嬉しそうにお辞儀した。「だんだん、だんだん」「そげに拍手せんでもええが」「あがとさん」とお辞儀する。

●婆さんたちが童を呼んだ。ひとりひとりに和紙の包を渡す。爺さんたちの神楽もどきの芝居への御ひねりを、わずかだが、童たちへの小遣いしたのだ。童たちは、お辞儀をして受け取ると神社へと走っていった。

補足

汗を拭きながら座敷に向かう爺さんに、年長者の童二人とその妹弟が小走りで近づいた。

「なぁかね」と爺さんと大学生の娘が近づくと、女の童が代表して尋ねた。「ヤマタノオロチは何を現わしておかね」。男の童が「おらは、斐伊川の氾濫だと思うちょうが、このオナゴが違うと言うのじゃ」。爺さんはおかっぱの童を見た。「あだんは、たたら製鉄で働く人たちだと思うちょうが」。両親が出稼ぎでいない間、家をしっかり守る童だ。

爺さんは童たちを縁側に誘った。「おめえたちは小学何年だ」。「五年だ」「あだんは六年生です」。婆さんが弟と妹を部屋に上げジュースをだす。

「そうだな、両方とも間違ってはおらん。しかし正解ともいえんな。神話や昔話にはいろんなことが含まれちょうわ。そして時代よって変りもする。いろんな考えがあっていいのじゃ」

「じゃあ、なんでヤマタノオロチをあげに悪く言う。たしかに氾濫したら、田んぼも家も流されて困まあが。だから治水で川の氾濫を収めたと、おらは考えた。でもな、爺さん。斐伊川は、いつもはいい川だぞ。ハヤにウグイにアユ、奥に行けばイワナもおうが。いろんな魚をくれる川だ。そうだけでねえ。水も奇麗でわしらは泳ぐし、洗濯もするが。風呂の水にも使うし、田んぼにも引く、牛も洗うし、それに見ちょうと気持がええ。いいことがいっぱいああのに、なんであげに悪ことばかり言うのだ」

爺さんも頷いた。良いところも沢山ある。それを含めて斐伊川だ。童の言う通りだ。「そうだな、そんな斐伊川と一緒に暮らしたいという思いがな、退治神話を生んだかもしれんな。そうが農業とつながったのだ」。

棚田

「私は違う。たたら製鉄で働く人たちのことよ。それも鉄の専門集団と下働きのひと達よ。理由は三点あぁよ。一番は最後の草薙剣だわ。スサノヲさんもおべた、たたら製鉄で作られた立派な刀のことよ。二つは、赤い目も、腹から流れる血も、みんなたたら製鉄の流れ出る鉄滓や燃える炎よ。三番目は刀につながるわ。出雲の国を治めるのは農業や自然だけではないの。人や技術や文化も治める必要があぁわ。元々いた民を滅ぼしたのよ。出雲神話は国造り神話だけでなくて、國治める神話なのよ」

爺さんは考え込んだ。このオナゴは出雲神話を何度も読んで勉強したのだろうと。

「神話には人なんか要らん。神様だけでいいから神話だ。なあ、爺さん」

「違うわ。スサノヲさんが治める前に、農業の出雲の民がいて、そこには連れてこられたたたら製鉄のヤマタノオロチの民もいたのよ」

爺さんが生まれたのは二つの戦争の前の戦争の時代だ。明治生まれの爺さんは、童の想像力に驚かされる。大学生の娘が助け舟を出した。

「おじいちゃんには無理ね。私が二人の話を聞くは。でも、今日はお祭りだから楽しみましょう。この続きはおじいちゃんの神話の話が終わるころ、しましょう。いいかな」

男の童は直ぐに「はい」と素直に返事をした。女の童が小笑いして頷いた。いつの世も男という奴はと爺さんは笑った。

さて、ヤマタノオロチをどう位置付けるかによって、出雲神話のロマンは大きく変わりそうです。皆様はいかがでしょうか。ヤマトに繋がる前に出雲の民がいた。そこには出雲の民とは異なるヤマタノオロチ族もいて、戦が繰り広げられていた。あるいはたたら製鉄の技術者としての奴隷かもしれない。出雲の国造りは戦の歴史でもある。ヤマタノオロチ退治が部族同士の戦いであっても不思議ではありません。スサノヲが出雲の民を支援してヤマタノオロチの民を滅ぼしたのかもしれません。それが草薙剣に象徴されるのでは。あるいは持ち帰った種と農業を象徴するような「テナヅチ、アシナヅチ」とくっつけて、灌漑工事による農業の発展を表現したのかもしれません。

そんな、たたら製鉄と「仁多米」の里を訪ねてください。できることなら春、カタクリの花の咲くころ、船通山に登ってほしい。できることなら車ではなく、木次線に乗ってほしい。渓谷を抜けると横田盆地が広がり、その先にまるでヤマタノオロチのような船通山の山並みが迎えてくれます。

木次線トロッコ列車「奥出雲おろち号」

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